介護保険外サービス」という言葉を聞いたことがありますか。

聞いたことがあっても内容がよくわからないという方も多いと思います。

実は、介護保険外サービスというのは今後の日本の高齢化社会を支える上で注目されている領域です。

この記事では、介護保険外サービスの現状や今後の成長性、実際に個人でも介護保険外サービスの開業できるのか、介護保険外サービスの実際の事例等についてご紹介をしたいと思います
目次

  1. 1.介護保険外サービスとは

    1-1.介護保険サービスと保険外サービスとの違い

    1-2.介護保険外サービスは成長分野

  2. 2.介護保険外サービスを開業するには

    2-1.介護保険外サービスの起業相談

    2-2.個人事業主としての介護保険外サービス

    2-3.介護保険外サービスのガイドライン

  3. 3.介護保険外サービスの事例

    3-1.民間企業による介護保険外サービス

    (1)デイサービスにおける介護保険外サービス

    (2)訪問介護における介護保険外サービス

    (3)介護保険外サービスとしてのリハビリ

    (4)介護保険外サービスとしての入浴

    (5)介護保険外サービスとしての送迎

    (6)有料老人ホームにおける介護保険外サービス

    (7)保険外サービスに対するケアマネージャーの対応

    3-2.自治体や社会福祉法人による介護保険外サービス

    (1)市区町村による介護保険外サービス

    (2)社会福祉法人による介護保険外サービス

    (3)民間と公的機関でのサービスの違い

    3-3.介護保険外サービスの相場・税金について

    (1)介護保険外サービスにかかる消費税

    (2)介護保険外サービスは医療控除の対象外

  4. 4.まとめ

【1.介護保険外サービス」とは】

介護保険外サービスとは、公的な介護保険ではカバーされないサービスのことを指します。

介護保険を利用するためには要介護認定が必要ですが、認定を受けていない人や、保険適用範囲を超えるサービスを受けたい人向けに提供されます。

では、具体的に介護保険サービスと介護保険外サービスとは何が異なるのでしょうか?

1-1.介護保険サービスと保険外サービスとの違い

介護保険サービスが「生活を維持するための最低限の支援」だとすれば、介護保険外サービスは「個人の希望や生活に合わせて追加できるサービス」と考えると分かりやすいでしょう。

項目介護保険サービス介護保険外サービス
提供時間時間制限あり事業者と利用者の合意により自由に延長可能
対象者介護保険の認定を受けた本人のみ介護認定を受けていない利用者の家族、配偶者も利用可能
サービス内容介護保険制度の範囲内で定められたもののみ事業者が独自に設定したメニューを自由に利用可能
利用の自由度介護保険の認定範囲内で決められた内容のみ提供料金を支払えば、利用者の希望に応じてカスタマイズ可能
併用の可否介護保険外サービスと組み合わせて利用可能介護保険サービスと組み合わせることで補完的に活用可能

経済産業省が作成した「『新しい健康社会の実現に向けた「アクションプラン2023」』は、超高齢化社会で健康に暮らすためにどうすればよいかについて、幅広い政策提言をしています。第5章の「5.介護領域における課題への対応」については、厚生労働省と協力した施策になっています。

その中で介護保険外サービスの内容について、例を詳細に示しています。
厚生労働省「今後の高齢化の進展 ~2025年の超高齢社会像~」P111

出典:厚生労働省「今後の高齢化の進展 ~2025年の超高齢社会像~」P110(PDF P111)

このように介護保険の時間延長というよりも、認定がなくとも、高齢者であれば誰でも利用でき、生活をより豊かにするためのサービスと捉えることができます。費用は全額自己負担になります。

厚生労働省も介護保険の限界を補ってくれるサービスという意味で、介護保険外サービスが広がるのは今後の在宅生活を支えるうえで重要な役割を果たすと考えているようです。

しかし、現在介護事業を行っている事業者が介護保険外サービスを提供する場合、これを「混合介護」と呼び、介護保険内のサービスと明確に区別できるように、様々な条件が設けられています。

1-2.介護保険外サービスは成長分野

介護保険外サービスの市場は益々拡大することが予想されます。

高齢化する日本で、医療・介護を数少ない成長産業と位置づける経済産業省は、介護保険外サービスの市場規模は、2020年の5兆円から2050年には18.9兆円に拡大すると予測しています。

厚生労働省「今後の高齢化の進展 ~2025年の超高齢社会像~」P6
出典:厚生労働省「今後の高齢化の進展 ~2025年の超高齢社会像~」P5(PDF P6)

この図にある「PHR」とは、パーソナルヘルスレコード(PersonalHealthRecord)の略です。

検診の結果や、薬剤情報、手術情報、予防接種歴などの健康に関わる生活習慣の記録(ライフログ)、脈拍、血圧、体温などのバイタルデータ等の医療・介護に関する情報がデジタルで統合され、市場が拡大した場合を想定しています。

このように、経済産業省は、データを活用した超高齢化社会における「健康」のための多様なサービスを成長機会と捉えており、介護保険外サービスで、様々なサービスが増えてゆく成長分野と捉えています。

あくまでも介護保険サービスの補完的な役割と位置付けながらも、2024年には経済産業省は「介護関連サービス事業協会」というものを主要な民間会社と設立し、介護保険外サービスの認知度向上に向けた取り組みを進めています。

【2.介護保険外サービスを開業するには】

ではここで、介護保険外サービスを実際に開業するにはどのような条件や課題があるのか、特に個人でも開業できるのかという観点から見ていきたいと思います。

2-1.介護保険外サービスの起業相談

介護保険サービスでは介護保険法に定められている厳格な人員基準等がありますが、介護保険外サービスの場合、そのような規程はありません。実施するサービスの内容に沿って定款などでサービスの定義をしていくことになります。

原則として、介護保険外サービスの起業は、通常の会社の起業と同じです。

そのため、相談窓口は地域の商工会議所や中小企業支援センター等で、ビジネスプランの作成や資金調達、各種手続きなど、具体的な起業支援を受けることができます。

ただし、行う事業内容によっては許認可を取らなくてはならないことがありますので注意が必要です。

  • 配食サービス:都道府県の許可が必要です。外食業と同様に、食品衛生責任者の設置が義務付けられています。
  • 移送・送迎サービス:介護事業者ではない会社や個人が介護タクシーを開業する場合、「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)」の許可が必要です。
  • マッサージサービス:施術者として訪問マッサージを開業する場合は、「あん摩マッサージ指圧師」や「鍼灸師」といった国家資格が必要です。
  • ベビーシッター:「認可外の居宅訪問型保育事業」として自治体への届出が必要。
  • ペットのお世話:第一種動物取扱業として都道府県知事または政令指定都市の長への登録が必要です。
  • 不用品回収:古物商許可申請が必要です。
  • 訪問理美容サービス:サービス提供者は有効な美容師または理容師の免許を保持している必要があります。多くの自治体では、訪問理美容サービスを開始する前に業務届出の提出が求められます。保健所への確認なども地域によっては必要となる場合があります。

このように日本の場合、何か起業しようとすれば、必ず関係する業界に法律があり、資格が必要であったり、認可申請をしなくてはならないようになっています。

特に食品を扱う関係や、人の送迎やモノの運輸を担うもの、医療・美容については免許や必要な資格については、地方自治体の相談窓口で十分に確認することが必要です。

2-2.個人事業主としての介護保険外サービス

法人格がなくても実施可能なサービスであれば、介護保険外サービスを個人事業主として立ち上げることも可能です。

例えば、家事代行サービス病院付き添いサービス等です。

これらのサービスの開業には、基本的に特別な許認可は必要なく、法人格である必要はありません。

したがってフリーランスで家事代行サービスや病院付き添いのサービスなどは行うことができます。

ただし、サービスの内容によって、資格や許認可が必要になる場合があります。

例えば、家事代行サービスで、ペットのお世話をしようとすれば、第一種動物取扱業としての登録が必要になります。自宅で調理したものをお客様のご自宅に持っていったり、お弁当として販売する場合は、飲食店営業許可証と食品衛生責任者の設置が必要です。

病院の付き添いサービスは、送迎を含まず、かつ医療行為を行わなければ、特別な許認可は必要ありません。

2-3.介護保険外サービスのガイドライン

このあたりは非常にわかりづらいので、厚生労働省や経済産業省から、介護保険外サービスを開業するにあたってのガイドラインのようなもの公表されていないか、探してみましたが、今のところみあたりませんでした。

介護保険外サービスは、何度も言いますが通常の民間の契約と同じになります。

ですから、通常の民間会社がやるような形で定款を定め、必要であれば重要事項説明書などを作り、サービスを始めるにあたってご利用者様と契約書を交わしましょう。

特に介護保険の事業者が介護保険外サービスをスタートする時には注意が必要です。

介護保険サービスは、行政の運用基準が厳しく決まっています。行政に相談・指導を受けながら運営できる上、介護保険料は未回収ということはまずありません。サービスを提供すれば必ず保険料が支払われます。

しかし、介護保険外サービスはそうはいきません。あくまでも民間のサービスですから、サービスに不満があればクレームになったり、最悪の場合代金を回収できないということもあり得ます。

そういったことがないように事前にサービスの説明をご利用者様にきちんと書面で伝え、契約を交わしておくということが、より一層重要になってきます。

最低限、約款や契約書などで、以下の点は明確に説明しておく方がよいでしょう。

  • サービスの明確化:提供するサービスの内容と範囲を具体的に説明し、介護保険サービスとの違いを明確にする必要があります。
  • 料金設定:介護保険外サービスは全額自己負担となるため、わかりやすい料金設定が重要になります。
  • 法令遵守:提供するサービスによっては、特定の許認可や資格が必要な場合があります。その要件を備えていることを説明しておきましょう。
  • 個人情報保護:利用者の個人情報を適切に管理するための規定を設ける必要があります。
  • 安全管理:サービス提供時の事故防止や万一自己や緊急事態が起きた場合の対応手順を定める必要があります。

また、通常の企業と同様に、事業計画とそれに伴う資金計画は考えておく必要があります。

サービスを始めた後に、急に資金繰りが行き詰まってしまい事業が続けられなくなるというような形でご利用者様に迷惑がかからないようにしておくためにも大切なことです。

基本は通常のビジネスを始めるのと同じですので、起業にあたっては、それなりのリスクを伴いますが、許認可なしで、個人で始めることができる領域もあります。登録しておけば、ご利用者の方をマッチングしてくれるサービス等もあるので、創業機会はあると言えるでしょう。

【3.介護保険外サービスの事例】

さて、ここからは介護保険外サービスの実際の事例をご紹介していきたいと思います。介護保険外サービスを提供しているのは、介護事業者、市区町村、公益法人、NPO、民間企業等多岐にわたります。

ここでは民間企業やNPO等、従来と異なるタイプの事業者を中心に、2024年の現在の段階で、主なものをまとめてみました。

※事例の法人名はイニシャル表記としております。

3-1.民間企業による介護保険外サービス

(1)デイサービスにおける介護保険外サービス

・お泊りデイサービス

埼玉県越谷市の「株式会社I」では、介護保険サービスである通所介護を日中帯に提供し、その後に介護保険外サービスである宿泊を延長した「お泊りデイサービス」を行っています。

デイサービスでは顔見知りも多く、利用者様本人も慣れた環境のため、家族も安心して宿泊をお願いできます。

施設への入居を考えているが、もう少し住み慣れた自宅で過ごしたい方や、逆に病院から自宅に戻りたいが不安がある方にとっても、自宅と施設の中間のような場として活動できます。

病院や老人保健施設などとの大きな違いは、治療を目的としていない介護保険外サービスであるゆえに、生活における制約事項が少ないことです。

食後に自分の好きな甘いものを食べたり、お風呂の制限時間がなかったりなど、基本は自分の好きなように生活できるというのは利用者様本人にも大きなメリットです。

・理美容サービス

多くのデイサービス施設で、外部の理美容サービス業者と提携して提供しています。

「NK株式会社」は、病院や、介護施設、障がい者施設等の法人向けに訪問理美容サービスを全国で展開してます。希望にあわせて、眉毛カット、ハンドマッサージネイルまでやってくれます。

ご利用者様にとっては、デイサービスに行ったついでに髪の毛や眉毛をきれいに手入れできたら、デイサービスに参加するインセンティブになります。介護事業所には、デイサービスの利用率を上げるきっかけになります。

(2)訪問介護における介護保険外サービス

これは色々なバリエーションがあります。実際に行われている事例を拾ってみました。

・家事支援、ヘルパーサービス

実施している会社によって名称は違いますが、行っていることは介護サービスの利用者を含めた家族に対する家事支援サービスです。

介護保険は、原則介護保険を利用する本人だけが受けられるサービスです。

介護者である家族のための料理をしたり、家族が共用で使う庭の手入れや草むしり、電球の交換、窓ふきなどについては、介護保険の適用外です。

しかし、料理を一人分作るのも二人分作るのも、実際の手間は大きくは変わりません。掃除についても同じです。

「株式会社KP」、「株式会社D」、「株式会社S」をはじめ大手の介護事業者は、既にこのようなサービスを展開しています。

「I株式会社」は個人で行っているヘルパーと介護を必要とする利用者のマッチングサービスを展開しています。

・介護付きツアー旅行サービス

介護サービスを利用している高齢者の多くの方が実は旅行に行きたいと思っています。そんな願いを叶えるのが介護付きのツアー旅行サービスです。

埼玉県の「株式会社AT」は医療専門職が対応して、バリアフリーの宿泊施設や交通機関の手配も可能です。お墓参り・ご法要、親子四世代の旅行の付き添い等、非常にきめ細かなサポート等も行っています。

資格を所持したスタッフが同乗し、介護福祉士の目線から事前に旅先を下見し、段差や多機能トイレなどの場所を確認してます。また、体力等を考慮し、全体の行程をゆったりとして、トイレ休憩の頻度も多く設けるなどの工夫をしています。

・通院介助・買い物の付き添い

病院への往復の付き添いや、買い物やお墓参りへの付き添いなど日常の生活に不安がある時の付き添いサービスです。

自分一人での行動に不安がある高齢者の場合、外出をする頻度が減り、それに伴ってますます足腰が弱くなるという悪循環に陥りがちです。

在宅で生活を続けたい方にとって、日々の通院や買い物の外出というのは、運動を兼ねた貴重な機会となります。一方、同居する家族が仕事を持っている場合、こういった通院や買い物に付き添う時間がなかなか取れません。そういった方にとっては非常にありがたいサービスです。

「株式会社H」では、通院の付き添いに看護師資格を持つ人をマッチングして紹介するサービスを行っています。このサービスは全国の大手病院に入院時のパジャマ等、必要なセット一式を提供する会社が付帯サービスとして採用しています。

「株式会社KK」は、通院に限定せず、外出の付き添いをする個人のヘルパーの方と、介護サービス利用者をマッチングするサービスを展開しています。

・紙おむつ等の配送

「株式会社T」は、ご利用者様の必要に応じて、介護用品やおむつ等の日用消耗品を定期的に配送するサービスを行っています。

紙おむつやパッド類は、かさばるので店頭で買って持ち帰るのは、高齢者にとっては大変です。そのため、ご高齢の方にとってはありがたいサービスです。

インターネットで購入すれば良いと思うかもしれませんが、80代以上の高齢者の方で、ECサイトで物品購入ができるような方は残念ながら稀です。

特に、近年インターネットの詐欺が増えていたり、ログインが煩わしかったりするのでネット購入は敬遠されがちです。

その点いつもお世話になっている訪問介護やヘルパーの方など、顔が見えている相手の方から購入できれば安心です。

(3)介護保険外サービスとしてのリハビリ

介護保険や訪問看護等の医療保険の枠を超えて、利用者の多様なニーズに応じたリハビリを提供するサービスが増えてきています。

・リハビリ専門職等によるパーソナルメンテナンス

首都圏や、大都市圏を中心に、こういったリハビリ専門のサービスが増えています。

リハビリイメージ

理学療法士や作業療法士等のリハビリ専門職によるマンツーマンのトレーニングやコンディショニングプログラムを提供しています。

介護保険でのリハビリテーションは介護度によって時間が限られています。医療保険でのリハビリテーションもありますが、こちらもやはり利用回数や時間制限があります。

介護保険外のサービスは、時間や回数の縛りはなく、脳梗塞・脳出血の後遺症改善を目指してリハビリを続けたいというご利用者にとっては、ありがたいサービスです。

「株式会社MR」は、カウンセリング付特別体験プログラムを展開しています。60日間改善リハビリのご利用者のうち、8割以上の方に改善が見られたという結果を出しています。

1回120分、一人一人の個別の目標を設定し、完全マンツーマンの施設リハビリと、日々の在宅課題でリハビリの効果を最大化します。鍼灸を取り入れた特別プログラムもあります。

(4)介護保険外サービスとしての入浴

多くの介護事業者が介護保険外であっても入浴サービスを提供しています。また、訪問入浴のサービスなども介護保険外でも利用することができます。

提供される入浴サービスそのものは、介護保険内と介護保険外で差があるわけではなく、利用できる一定の介護保険の枠時間を超えたら介護保険外サービスとして提供されるというイメージです。

温泉や銭湯などに出かけたい場合、入浴の介助をしてくれるサービスもあります。しかし、このような依頼は、外出支援サービスの一環となり完全オーダーメイドのサービスになります。

(5)介護保険外サービスとしての送迎

病院や墓参り等、どこか特定の場所への送迎をお願いしたいという高齢者の方に対して、一般に「介護タクシー」と言われる送迎サービスがあります。

では「介護タクシー」では、全て介護保険が適用されるのでしょうか?

「介護タクシー」でも、介護保険外になることがあります。

項目介護保険適用介護保険外
運転手の資格介護職員初任者研修などの介護関連資格を保有介護関連資格を保有していない場合が多い
提供サービス乗降時の介助や外出準備のサポートを含む乗降介助は基本的に行わない
利用対象者要介護1~5の方要支援者や高齢者、障がい者など
利用目的通院や生活必需品の買い物、公共機関での手続きなど通院や買い物、レジャーなど幅広い目的
料金負担介護保険適用時は自己負担が軽減全額自己負担

要するに介護に関する有資格者が運転していて、乗降の介助ができるかどうかが大きな違いです。
介護保険外サービスの場合、介護保険の資格を有していなくても、高齢者の送迎はできます。ただし、乗降介助については、介護関連資格を持つ人が別に同乗する必要があります。

送迎の目的も、レジャーや旅行、買い物など、生活に最低限必要な場合以外にも自由に設定できます。

(6)有料老人ホームにおける介護保険外サービス

有料老人ホーム自体、介護保険の中で営まれているわけだから、その中で介護保険外のサービスがあるのは不思議な気がしますが、有料老人ホームの運営規定で定まっているサービス以外のオプションサービスは、基本的には介護保険外です。

例えば、入居している老人ホームからの通院介助、日用品や食料品などの買い物代行、外部の理美容師を招いて、ホーム内で理髪やヘアセットなどのサービスなどです。

(7)介護保険外サービスに対するケアマネージャーの対応

ケアマネージャーは介護保険サービスのコーディネーターとして、ケアプランを作成する立場です。

こういった介護保険外サービスに対して、ケアマネージャーはどのように向き合っているのでしょうか。

介護保険内のサービスで対応できない場合で、なおかつご利用者の方から要望があった場合は、介護保険外サービスを探してご利用者の方におすすめするという役割も果たします。

現在、ケアマネージャーの立場で依頼を受ける相談は多岐にわたっています。

介護している家族の方からの介護と仕事の両立に関する相談に始まり、介護利用者の生活支援のサービス、それ以外にも介護利用者の身元保証や財産管理や支払い支援など金銭管理に関するものまでケアマネージャーさんが支援することもあります。

ただし、介護保険外サービスに関して、ケアマネジャーが紹介したサービスの質を必ずしも保証できず、どこまで責任を持って関わるべきかという課題や、介護保険外のサービスを依頼したくとも、費用がかかるためできないという利用者側の問題もあります。

このような介護保険外サービスを柔軟に活用すれば、利用者様のQOLも上がり、充実した支援を提供できるので、介護保険外サービスであっても、事業者側からケアマネージャーの方への情報提供は必要になるでしょう。

3-2.自治体や社会福祉法人による介護保険外サービス

介護保険外のサービスは実際に需要があり、外出支援などについては、健康寿命を延ばす効果も期待できることから、自治体や公的機関、社会福祉法人などが介護保険外サービスを提供している事例もあります。

(1)市区町村による介護保険外サービス

東京都葛飾区では、在宅生活支援事業の一環として、高齢者寝具乾燥消毒サービス、見守り配食サービス、高齢者出張理美容サービス等を提供しています。

また、「しあわせサービス」という相互互助の制度を運営しています。これは住み慣れた葛飾で安心して暮らし続けることができるように、区民に協力会員として登録してもらい、日常生活でのお困り事、家事や簡単な介助などの支援のため、高齢者のご自宅に有料で派遣するようなサービスです。有料派遣といっても時間あたり数百円ですので、利用しやすい料金になっています。

全国の自治体にあるシルバー人材センターでも家事・福祉支援サービスを行っています。シルバー人材センターは公益社団法人で、高齢者の就労促進といきがいづくりのための活動をしていますが、仕事をしたい高齢者と、仕事を依頼したい人とのマッチング事業を行っています。

高齢者は、働いた分だけ報酬を受け取る仕組みなので、家事支援についても、介護保険外サービスで有償になります。ほとんどの自治体でも設置されているので、相性の良い方が見つかれば、高齢者にとっては利用しやすく安心なサービスです。

(2)社会福祉法人による介護保険外サービス

社会福祉法人が行っている介護保険外サービスは多様ですが、ここでは送迎分野でのサービスを取り上げます。

介護タクシーが不足するなか、静岡県藤枝市では、要介護者等の通院や移動手段を確保するため、社会福祉法人を中心に、地域住民が運転と乗降支援を担う要介護者等の通院送迎サービス「おちゃまるタクシー」を2025年1月に開始しました。

なぜ、タクシー会社以外のNPOがこのようなサービスを実現できたのでしょうか。

タクシー等の有償運送は原則として禁止されており、国土交通大臣の許可又は登録を受けなければなりません。

しかし、地方では過疎化の進行と高齢化が進み、車を持たない高齢者のタクシー需要が急増している一方、バス・タクシー事業者側は、深刻なドライバー不足に直面しており、十分な輸送サービスが提供できない地域も出てきています。

このように地域住民の生活維持に必要な輸送が、バス・タクシー事業によって提供されない地域においては、その代替手段として、国土交通大臣又は事務・権限の移譲を受けた地方公共団体の長から登録を受けた市町村やNPO等が、自家用車を使用して有償で運送できるという制度を『自家用有償旅客運送登録制度』といいます。

藤枝市はこの制度を活用して、社会福祉法人に委託をしてこの送迎サービスを実現しました。

このように、社会福祉法人やNPOが、地域住民と協力して、高齢者の脚として活動している事例は他にもあります。

滋賀県野洲市で活動している一般社団法人や地域共生社会推進協会「つれだし隊」もドライバー不足が深刻な中、「免許を返納しても安心して暮らせる街へ」を目指し、2時間程度の細切れ時間を使って仕事をすることができるような体制を作り、ドライバー研修まで実施しています。

ドライバー不足が深刻な中、社会福祉法人やNPOによる送迎サービスは、過疎地域を中心に今後広がってゆくと思います

(3)民間と公的機関でのサービスの違い

介護保険外サービスと一口に言っても、従来の社会福祉事業者や介護事業者がやっているのか、民間企業が主体になるかによってずいぶんバリエーションがあると感じます。

民間企業が主体になっているものは、やはり自由度が高く、使い勝手の良いサービスが多いとは思いますが、その分費用に跳ね返ってくることは明らかです。

市区町村が介護保険外サービスを提供し、地域住民の満足向上を図っている地域もあります。この場合、市区町村が、地域の指定事業者に業務委託して公的なサービスを充実させるようなケースが多いです。

民間事業者が主体で、サービスの選択肢が増えるのは、利用者にとっては有難いですが、公的機関なので、年間利用回数や時間等は制限がある場合が多いです。

3-3.介護保険外サービスの相場・税金について

介護保険外サービスの事例を見てきました。では、これらの介護保険外サービスの利用料ははどのくらいなのでしょうか。

事業主体がどこかによって介護保険外のサービスの料金や相場は大きく異なっています。

例えば地方自治体や社会福祉法人が行っている介護保険外サービスでは、

  • 理美容:1回数千円
  • 配食サービス:1食500円前後
  • 生活支援:1回数百円~1000円

ぐらいのところが多いです。これは自治体の方からの補助があったり、ボランティアが行ったりしているからでしょう。

シルバー人材センターなどが行っている場合、生活支援は1回数千円までというところですが、時間制限がつくこともあります。

これに対し介護事業者、民間企業が行っている介護保険サービスの場合、家事代行で、1時間2~3千円、介護タクシー、通院介助などでも、1時間3千円~というところです。

料金は地域によっても異なりますし、定期契約にすると時間単価が下がる会社もあります。
時間の延長は可能で、必要な時間だけ利用時間を延長することができます。

(1)介護保険外サービスにかかる消費税

介護保険サービスは原則として消費税非課税ですが、介護保険外サービスは一般的なサービスとして扱われるため、消費税の課税対象となります。

例えば、掃除・洗濯・買い物などの家事代行サービス、買い物・旅行・散歩の同行などの外出付き添い、訪問美容・訪問マッサージ、介護付き有料老人ホームの管理費・家賃・光熱費や各種オプションの個室利用料金などは消費税がかかります。介護タクシーや介護送迎についても、原則は課税されます。

しかし、同じ介護保険外サービスでも、特定非営利活動法人(NPO法人)などが提供する社会福祉事業の一環として行われている配食サービスや、市町村が独自に行っている福祉サービスの場合、非課税となる場合があります。

つまり、介護保険外サービスを行っている民間企業が提供するサービスは消費税がかかりますが、地方自治体や社会福祉法人などが行っている介護保険サービスの場合、非課税になる可能性があります。詳しくはサービスを提供している事業者にご確認ください。

(2)介護保険外サービスは医療控除の対象外

介護保険外サービスは、基本的には税金控除の対象外です。介護保険外サービスを利用したからといって、申請しても医療費控除として税金が還付されることはありません。

しかし、一部の条件を満たせば「医療費控除」や「障害者控除」の対象になることがあります。考え方としては介護保険外サービスを利用している時に、医療行為が発生した場合等です。

例えば、介護保険外サービスとして訪問介護を受けていた時間帯に、特定の研修を受けて資格を持った介護職員が、医師の指示に基づいて喀痰吸引を行った場合や、6ヶ月以上寝たきりの状態で、医師が必要と認めたおむつ代、通院や入院に伴う交通費(公共交通機関のみ)など、医療的な必要性が認められる場合は控除対象となる可能性があります。

このあたりの控除を受けるのに細かい条件が関係してきますので、詳細は税務署や税理士に相談することをおすすめします。

【4.まとめ】

介護保険代サービスは今後大きく拡大してゆくジャンルです。

しかし、事例を見て感じたことは、民間企業の介護保険外サービスは、やはり高額にならざるを得ないということです。

介護保険外で素晴らしいサービスを提供できたとしても、その費用を負担できる利用者層もやはり限られてくると思われます。

結果として、費用を負担できる人が多く住む三大都市圏から介護保険外サービスは展開され拡大していくのではないでしょうか。

サービスの質自体が上がり、利用者に選択肢ができるのは素晴らしいことです。

しかし、一方で通院や買い物等の必要不可欠なサービスがないという地域も出てきています。NPO法人等の活用で、手の届く価格で高齢化社会のニーズを満たすような地域独自のサービスが生れてくることに期待します。

[参考資料]

・「新しい健康社会の実現に向けたアクションプラン」経済産業省

・「ケアマネジメントにおける自助(保険外サービス)の活用・促進に関する調査研究事業報告書」株式会社日本総合研究所

・介護関連サービス事業協会が設立されます
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240305003/20240305003.html

・一社)やす地域共生社会推進協会つれだし隊
https://take.hp.peraichi.com/

・要介護者等通院送迎サービス「おちゃまるタクシー」の出発式を開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000198.000109487.html

著者プロフィール

上尾 佳子

合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身

バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係のサービスを運営中。

介護のDX化、ICT化について考えるサイト「介護運営TalkRoom」

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