「認認介護」という言葉は、皆様一度は聞いたことがあると思います。

しかし、言葉を聞いたことがあっても、待ち受けるリスクについて詳しく調べてお考えの方は少ないのではないでしょうか。

「認認介護」は本人や、その介護者の苦痛や心労というだけでなく、家族を巻き込む問題になったり、社会的な大事故、事件につながる恐れがあります。

この記事では過去の事例を拾いながら、一般的な「認認介護」の問題点というよりも、「認認介護」に潜む本当に危険なリスク、そしてリスクと対策について掘り下げて考えてみたいと思います。

目次

  1. 1.認認介護とは
  2. 2.認認介護に潜むリスク
  3. 3.認認介護に陥る原因
  4. 4.認認介護を未然に防ぐ解決策
  5. 5.まとめ

【1.認認介護とは】

(1)厚生労働省による認認介護の実態

「認認介護」とは簡単に言えば、介護を受ける側と介護する側の両方が認知症になっている状態を言います。

例えば、認知症を発症している高齢の妻が、同じく認知症を発症している高齢の夫を介護しているような状態です。

想像しただけでも大変そうな状態ですが、このような「認認介護」について、厚生労働省はどのような認識を持っているのでしょうか。

厚生労働省のホームページを探してみましたが、「認認介護」の現状や対策についてのまとまったページはありませんでした。

厚生労働省の基礎調査の中でも、「認認介護」についてのデータは見つかりません。

では、「認認介護」の現状はどのようになっているのでしょうか?

(2)認認介護の前段階:老老介護

まず、「認認介護」に至る前の段階である「老老介護」の実情を見てみます。

ここで、「老老介護」の定義ですが、介護をする側も介護される側も高齢者、という状態を指します。

例えば60歳以上の息子が90歳の親の介護をする、もしくは70歳の妻が75歳の夫の介護をするなどの状況です。

厚生労働省のサイトを見ても、何歳以上の高齢者同士が「老老介護」になるのかという明確な定義は見つかりませんでした。

これは「高齢者」という概念自体が変わってきているからとも考えられます。では実態はどのようになっているのでしょうか。

Ⅳ介護の状況 図27「要介護者等」と「同居の主な介護者」の年齢組み合わせ

※出典:2022(令和4)年国民生活基礎調査介護の状況
Ⅳ介護の状況 図27「要介護者等」と「同居の主な介護者」の年齢組み合わせ P4(全体版はP25)

「要介護者」と「同居の主な介護者」の年齢の組合せをみると、「60歳以上同士」の割合は77.1%、「65歳以上同士」は63.5%、「75歳以上同士」は35.7%となり、いずれも上昇傾向になっています。

核家族化の進行や3世帯同居などが減っていることから、60歳以上同士の介護は8割近くに上り、「老老介護」はごく普通に見られる状態になっていることが分かります。

要介護者と主な介護者がともに75歳以上という人も、3割以上いるわけで「老老介護」は特に珍しいものではありません。

(3)認認介護の推定値

正確なデータが見つからないため、「認認介護」については、「老老介護」からの推定値になります。

80~84歳の認知症有病率は、21.8%いう数字があります。

夫婦ともに80歳以上の世帯が、「老老介護」になる確率は、21.8%×21.8%×2=9.5%となり、11組に1組が「認認介護世帯」であると推定されています。

しかし、未診断の認知症患者も多いため、実際の割合はさらに高い可能性があります。

「老老介護」の夫婦がそのまま年齢を重ねれば、今後も「認認介護」の増加が予想されます。

(4)認認介護の悲しい事例

では、「認認介護」をそのままにしておくとどのようなことが起きるのでしょうか。

悲惨な例ですが、全て実際におきた事例です。一部に、「認認介護」だけでなく、片方のみ認知症という事例も含まれています。

【2007年、愛知県】

認知症で徘徊中の男性が列車にはねられて死亡しました。事故当時、死亡した男性は認知症で「要介護4」の91歳、介護をしていた妻は足が不自由な「要介護1」で当時85歳という状況でした。JR東海は、家族に対し列車の遅延にかかわる損害賠償として約720万円を請求しました。2016年にこの判決が言い渡され、認知症の男性が死亡した鉄道事故をめぐり、高齢の妻に賠償責任はないという最高裁判決が出されました。法が想定していなかった認知症高齢者の在宅介護の悲惨な現実に初めて目を向けた司法判断でした。

【2009年、富山県】

認知症の妻が認知症の夫を殺害する事件が発生しました。介護していた妻が、おむつを替えるのを嫌がる夫を叩き続けて殺してしまったという事件です。介護する妻は、自分が何をやったかも、夫がなぜ死んだのかもわからないままだったといいます。

【2013年、東京都】

民家1階で、「認認介護」の夫婦が熱中症で倒れているのが発見されました。認知症の夫を介護する妻も倒れる10日程前に認知症と診断されていました。しかも、民家の2階では足が不自由だった夫の兄が腐乱した遺体で見つかりました。2013年は記録的な猛暑でした。

このように「認認介護」については、悲惨な事故が繰り返し起きています。

また、2000年代より問題が出ているにもかかわらず、2020年代の現在でも未だに正確な実数が把握できていないのが実態です。

【2.認認介護に潜むリスク】

悲惨な事例について確認してきましたが、「認認介護」のリスクを具体的にイメージしていただくため、より具体的なリスクにフォーカスして考えてみます。

一般的に、「認認介護」のリスクと言うと、要介護者と同居の主な介護者が抱えるリスクを考えます。例えば食事・体調管理ができない、服薬管理ができないことによる薬の誤飲、飲み忘れ、体調管理ができないために起きる脱水症等です。

前段に上げたとおり、同居家族のみならず親戚他人までも巻き込む大問題、大事故に発展する可能性があるリスクについてみてみましょう。総じて【5大リスク】としたいと思います。

・家族や他人を巻き込む認認介護における【5大リスク】とは

【1、電話による詐欺・悪質な通信販売】

お金の管理ができない高齢者を狙った通信販売の勧誘や、高額の商品を分割払いで購入させるということは実際に多く起きています。テレビ通販などにハマって同じ商品を何度も購入するというような認知症の高齢者の事例もあります。

電話による通信販売は実に巧みです。介護で家に閉じこもりがちな高齢者は、他人と話ができることが嬉しいものです。その気持ちを上手く利用してきます。

販売する商品も、食品や酒類などにとどまらずオーディオ製品、美術教材等多岐にわたっています。

これが問題になりにくいのは、同居の介護者も認知症であるため訴訟やクレームに発展しづらいからです。

不要な高額商品を購入した後に子世代の家族が気づき、注文をキャンセルしようと思っても、クーリングオフの期間が過ぎていれば法的には支払わざるを得ません。

介護されている本人も、同居の介護者もともに認知症の場合、高額商品を買ったことも忘れてしまい、支払いも忘れているというケースもあります。その場合は別居の家族に請求がされる恐れもあります。

認知症の高齢者に対して、不要な高額商品や通販の食品を販売している業者は後を絶ちません。

家族や周囲の人が気づいたら、通販業者に電話し、電話やカタログ等の送付をストップすることです。

また、電話詐欺として、オレオレ詐欺は有名な犯罪です。あたかも親族であるかのように電話先で装って言葉巧みにATMからお金を引き出させたり、箪笥貯金を狙って振込させる手口です。電話を通すと声質が変わる場合があり、遠方や長期間会っていない場合にはたとえ親族であっても声の判別が難しくなるという電話の特徴をついた犯罪です。しかし、これは「認認介護」以前の「老老介護」でも気を付けるべき事案ですので今回は省きます。また、最近では闇バイトを使った組織的な強盗殺人も社会問題になっており、高齢者を狙った犯罪において「認認介護」だと「老老介護」以上に周囲が気を配らなければならない状況になってきていると言えます。

【2、交通事故】

2015年7月、大阪市の阪急京都線で、愛知県安城市の男性(当時73歳)が線路内を車で1.3キロ走行し、電汽車往来危険転覆等罪容疑で逮捕されました。

男性は「どこから線路内に入ったか覚えていない」「55年前の友達に会いに大阪にやってきた。友達の名前や住所は分からない」などと当初説明をしていましたが、後に認知症であったことが判明しました。

認知症患者が絡む鉄道事故では、2014年度だけで29件発生、22人が死亡という状況です。関係者によると、「過去にも相当数、同様の事故があった」といわれ、2017年の鉄道事業者の損害額は最大で約120万円でした。

話し合いなどで認知症家族側が何らかの責任を取るという形で決着がつくことが多かったのです。

鉄道事故だけでなく、高速道路での逆走も頻繁に報道されています。

国土交通省資料 Ⅱ.高速道路の逆走発生状況について

※出典:国土交通省資料 Ⅱ.高速道路の逆走発生状況について P1

毎年約200件ほど高速道路で逆走事案が起きています。

ただ、全ての逆走が事故につながるわけではなく、事故率はここ数年、20%を上下していることが判ります。年齢で見ると約7割が65歳以上の高齢者。75歳以上が46%となっています。この割合もここ10年ほど変わっていません。

国交省によれば、認知症の方の割合ですが、2015年から2022年までは約2割だったのに対し、2023年は約3割にまで増えています。

では、家族が認知症で交通事故を起こしてしまった場合、どうなるのか。

賠償について定めている民法では、認知症などによって自分が起こしたことやその責任を理解できない人は、賠償責任を負わないこととされています。

その場合、生じてしまった損害への賠償責任は、認知症の人の家族、介護施設など法定の監督義務者や、介護にあたっている人に問われることがあります。

ただし、監督する義務のあった人が事故を起こさないように努めていた、それでも避けられない事故だった場合には賠償責任を負わないこととされています。

【3、火災】

こちらはご夫婦の内、夫だけが認知症であったという例にはなりますが、2013年4月、大阪府内の住宅で火事が起きました。認知症の夫(当時82歳)と妻(73)の二人暮らし。妻が郵便局に出かけて留守中、3階の洋室付近から出火、29平方メートルが焼け、隣家の屋根と壁の一部まで延焼しました。原因は夫が紙くずにライターで火をつけ、布団に投げたとみられると現場の状況から認定されました。

2011年に夫は認知症の診断を受けており、責任能力がないと判断されました。

このご夫婦は延焼の損害を補償する火災保険には入っていなかったため、隣家の住人は夫への「監督義務」を怠ったとして妻に200万円の賠償を求めて提訴しました。妻側は「夫は他人に危害を加えたことがなく、当日も落ち着いていた」と反論して裁判に持ち込まれます。

大阪地裁では、民法752条の「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」という規定を踏まえ、妻には夫が異常な行動をしないか注意深く見守る義務があったとし、夫を残して外出したことは「重い過失」と判断されました。隣家の修理費143万円のうち弁償済みの100万円を差し引き、残り43万円の支払いを妻に命じました。

火災の約1時間前、郵便局の不在通知に気づいて出かけた時に起きた事故でした。何気ない一瞬のような外出での悲劇です。注意深く見守るということは、後から記事をみただけでは意味が曖昧に感じます。トイレに行ったり風呂に行ったり、その間に同じようなことが起きていたらどんな判決になったのでしょうかと疑問が浮かびます。また、これがもし「認認介護」であった場合、どんな判決になったのでしょうか。

【4、行方不明】

警察庁は2023年に認知症などの理由で行方不明になった人が全国で1万9000人を超え、過去最多だったと発表しました。

統計を取り始めた2012年の9607人から1.98倍となり、12年の統計開始以来11年連続で最多を更新しています。

届け出から何らかの確認ができるまでの期間は、当日が1万3698人と最多。1週間以内には99%が確認できています。しかし、残りは亡くなっていたり、行方不明になっています。

行方不明になると、いろいろ困った問題が出てきます。

まず、年金です。日本年金機構によりますと、年金を受けている人が1か月以上所在不明になった場合は、その世帯の家族が所在不明の届け出を行う必要があり、年金の支払いは一時的に止まります。

その後、所在が判明した場合は、解除の手続きをするとさかのぼって受給することができるということです。

次に介護保険料の支払いです。行方不明になった認知症の人のケースに応じて、各自治体が判断するため、自治体によっては行方不明になっている間も支払いが続くことも想定されるということです。

そのほかの契約などでも困った問題が起きます。

土地や家の売却、アパートの賃貸借、それに生命保険の解約といった法律上の行為は、代理人を定めていない限り、契約した本人しか対応できないのが原則です。

その結果、認知症行方不明者の家族は、法律的な制約で保険の解約ができない、不動産の売却ができない等のケースが考えられます。

【5、同居孤独死】

「認認介護」または、片方が認知症の場合、主な介護者が急な体調異変で突然亡くなってしまった場合、亡くなったことを発見されない事例が、大都市では既に起きています。

残された要介護者が認知症で、配偶者や同居の家族の死亡を、周囲に伝えられないことが大きな理由です。

大阪市で同居孤独死の35人を調べた結果、残された家族が認知症というのが9人と最多で、次は寝たきりが3人。入院していて気付かなかった人も4人、その他は家庭内別居などでした。夫婦2人暮らしで共に死亡していた事例も2件ありました。発見までの期間は4~7日が27人で、8日~1か月が7人。1か月超が1人でした。

このような場合、地方自治体は、亡くなった方の相続人を確定させるため、親戚縁者を全て調査します。その調査も大変だと想像に難くありません。そして、縁故のある方が見つかったら、孤独死された方の相続について連絡をします。

連絡を受けた側からすれば、ある日突然、付き合いがほとんど無い親戚の不幸を知らされ、その相続や遺品の片付けについて判断しなくてはならないことになります。

【3.認認介護に陥る原因とは】

このような悲惨な事件や事故はどうして起きてしまうのでしょうか?

地域や親戚から孤立した同居世帯が増えているということに尽きると思います。

しかし、日本には、世界にも誇れるセーフティーネットである介護保険制度をはじめとする生活が困難な高齢者へ向けた様々な公共サービスがあります。

どうして介護が必要な高齢者に、介護サービスが行き届かない状態になってしまうのでしょうか?

(1)費用が払えない

介護保険に加入し、介護サービスを受けるには無料というわけにはいかず、1割~2割の負担が必要になります。

介護が必要な人の多くは、医療費も必要な場合が多いので、経済的に余裕がないと介護サービスの利用を控えるようになります。

介護の費用を控えるような人は、国内に一体どのくらい要るのでしょうか?

表9 各種世帯の貯蓄額階級別・借入金額階級別世帯数の構成割合

※出典:2022(令和4)年国民生活基礎調査P4(全体版ではP12)
表9 各種世帯の貯蓄額階級別・借入金額階級別世帯数の構成割合より抜粋

高齢者世帯では、「貯蓄がある」は80.7%で、「1世帯当たり平均貯蓄額」は1603万9千円となっています。平均値だけ見ると高齢者世帯は余裕があるように見えます。

しかし、一方、貯蓄がないという高齢者世帯は11%、貯蓄があっても100万円未満という高齢者世帯は6.4%で、17.4%の高齢者世帯は貯蓄が100万円未満です。

いざという時に医療費に回すことを考えると、介護費用まで手が回らないという状況も想像できます。

費用が払えない高齢者は、介護サービスの利用を控えるようになります。介護は基本、申込がないと提供されないので、当然どんな介護サービスも届かなくなってしまいます。

ちなみに、介護認定で認知症と判断される基準は認知症の症状が明確に出ているかどうかが、要介護認定の要支援2と要介護1の分かれ目です。

申請者が認知症である場合の要介護認定の判定は、この面談時に日常生活自立度の段階を踏まえて行われます。

また、認知症の悪化により理解力や判断力が低下し、一人で安全に生活することが難しい場合は「要介護3」、認知症による暴言や暴力、徘徊などの行動が見られる場合は「要介護4」に相当しているようです。

(2)誰からも気づかれない

介護保険対象者でなくとも、民生委員という制度があります。

この制度は戦前からある歴史のあるもので、生活困窮者の支援に取り組んできました。

戦後は時代の変化に応じて新たな活動に取り組むなど、地域の福祉増進のために常に重要な役割を果たしてきました。

「民生委員」は、民生委員法に基づいて厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員です。

それぞれの地域において、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努める方々であり、「児童委員」を兼ねています。

具体的な活動はというと、高齢者世帯に関係したことでは

  • 一人暮らしをしている高齢者への自宅訪問
  • 75歳以上の方だけで暮らしている世帯への訪問
  • 安否確認での自宅訪問
  • 配食サービスの協力、声かけ
  • 必要な福祉に関する情報提供

等が代表的なお仕事です。

こういった民生委員の方が近くに居て、様子を見てあげていれば悲惨な事故はもっと減らせるのではないかと思います。

しかし、訪問対象からどうしても漏れてしまう人達が出てきます。例えば、75歳以上の方だけで暮らしている世帯ということですから、夫婦どちらかが73歳だった場合、民生委員の訪問対象にはなりません。

また最近は、なり手がおらず、民生委員不足が常態化しています。

民生委員の充足率は2019年の全国平均95.2%ですが、都市部ではこれを大きく下回ると言われています。

介護サービスが行き届かない人達に目を配るのが、本来の目的である民生委員制度ですが、残念ながら意図通りに機能しているとは言えない状態です。

誰にも気づかれないで認知症家族を抱えて、自分も認知症と宣言されてしまったという方は、実は露見しないだけで実態は多くなってきているのではないでしょうか。超高齢化社会においてはそのように感じざるを得ません。

自分から困窮したり困っていることを言い出せる家族や親戚がおらず、誰からも気づかれず、相談できるような地域のコミュニティもないという「孤立」が、「認認介護」の大きな原因にもなっていると思います。

何度も言いますが、こういった世帯が全国でいったい何世帯あるのか、正確な数は把握できていません。

【4.認認介護を未然に防ぐ解決策】

(1)民生委員を増やす

では、民生委員はどうして機能していないのでしょうか?

民生委員が不足する原因は様々ですが、1つには報酬の問題があるとされています。

実は民生委員は、無報酬です。

民生委員法は戦後すぐにできた古い法律で、「奉仕の精神」に基づいて、無報酬で活動しているのです。交通費や通信費等相当分として自治体から活動費が交付されますが、それほど多くはありません。

幼児虐待から高齢者の安否確認まで、自治体から期待される職務範囲は広がっていますが、職務範囲が広がるほど求められる能力も高くなります。

かつては「名誉職」だったかもしれないですが、今は責任が伴うわりに無報酬なのですから、なり手がいないのは全く不思議ではありません。

シルバー人材センターに登録して働いても時給1000円程はいただける時代です。

民生委員はかつては「定年後のボランティア」とも言われ、65歳以上が7割を占めていますが、定年後も継続して働く高齢者が増えているため、民生委員にと打診されても断るケースが増えているといいます。

「定年後のボランティア」や「名誉の無報酬」ではなく、責任に応じた報酬を出すのは当然ではないでしょうか。

せめてシルバー人材センターと同等の報酬を出すべきで、個人情報等の守秘義務が求められるお仕事には、それなりの研修をする等の配慮も必要です。

(2)在宅介護のモデルの見直し

現行の介護保険制度では、同居家族が居れば家事援助サービスは原則利用できません。

介護は社会的なサービスとして介護保険の利用者本人に提供されるのだから、掃除や洗濯等の家事ぐらいは家族がやるべきだ、という意識がまだ根深く残っています。

また、介護保険制度が前提としている「同居家族」モデルが現実とはかけ離れています。

つまり、介護の主たる担い手の家族は、健康で体力があって、家事も介護も普通にできて、介護に専念できる時間があるという前提にたっているのです。

しかし、現実はどうでしょうか?

高齢者の介護者の約70%が「老老介護」、親子世代間で介護を担い手になっていたとしても50代から60代で仕事を持つ世代で、部下を持つ人も大勢います。介護に専念できる時間は限られています。

介護保険が想定している介護の主たる担い手も、実は介護や支援を必要としている訳で、介護保険制度が想定していないことが現実に起きています。

同居家族が居れば介護サービスの利用制限をします、いうことではなく、「老老介護」を前提にした支援の枠組みを整える必要があると思います。

(3)同居以外の家族との連携

「老老介護」から「認認介護」に陥るリスクを避けるためにも、子供世代の方から連絡を密にとるようにしましょう。

子供世代に迷惑をかけてはならないと、問題や事故がおきるギリギリまで親世代が我慢してしまうというケースは多いです。

子供世代が遠隔地に住む場合、親との見守りサービス等、日頃の状態を確認する方法はいくつかあります。

「老老介護」の高齢者世帯が社会から孤立しないために、子供世代ができることは沢山あります。

高額商品を買い込んでいないか、認知症の症状が進んでいないか等、普段と違ったことを早めに把握することは、詐欺や事故を防ぐためにも大切です。

【5.まとめ】

「老老介護」から「認認介護」へという状況を取りまく厳しい現実を見てきました。

これらが増えている原因は、高齢化・核家族化が原因であり、これは時代の流れとしてどうしようもないことかもしれません。

しかし、やはり誰にも気づかれない高齢者世帯の「孤立」ということが認認介護における最大のリスクです。

現行の介護保険制度が作られたときの同居家族のイメージと、実態の介護の状態は既にかけ離れたものになっています。

主たる介護の担い手の大半は、既に高齢者です。時代の変化や介護者の要望に合わせて、民生委員や在宅介護サービスの在り方についても見直すべき時だと思います。

少なくとも家事援助サービスは、同居する主たる介護者への支援なども含めて提供されるべきではないかと思います。

著者プロフィール

上尾 佳子

合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身

バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係のサービスを運営中。

介護のDX化、ICT化について考えるサイト「介護運営TalkRoom」

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