口腔機能とは、捕食(食べ物を口に取り込むこと)行為である、咀嚼・食塊の形成と移送・嚥下・構音・味覚・触覚・唾液の分泌など食事をすることや、社会とかかわる為のコミュニケーションである会話をすること、表情や容姿のような非言語的コミュニケーションを形成する、生きていくには欠かすことができない重要な機能です。

重要な役割のある口腔機能が低下すると食べられる物の形状・形態・種類や量が制限されるので、栄養のバランスがとりにくくなり、食事の質が悪くなりがちです。食事が適正に行えない場合、免疫や代謝といった体の基礎機能の低下が進むため、病気にもかかりやすく、治癒もしにくくなります。

口腔機能が低下すると、炭水化物や穀物・菓子・調味料などの食べやすいものに食事が偏る傾向があり、健康を保つために必要な栄養であるビタミンやミネラル、たんぱく質を含む肉・魚・野菜・果物などの食品の摂取は減少する傾向があります。食事のバランスが悪くなるため、運動機能や生理機能を正常に保つことが難しくなり、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の発症および重症化のリスクが高くなる危険性が増します。食事の量が減ることで体重や筋量を維持することも困難になり、寝たきり・認知機能の低下の関係は無関係ではありません。

生きていくために必要なコミュニケーション面でも会話が上手くできなくなってくると対人関係に困難を感じるようになり、交通機関を利用しての外出や買い物・外食をしなくなることで、社会活動が減少し引き篭もりになることがあります。また、顔の筋肉が減少し動きが悪くなると、容貌が大きく変化し表情にも乏しくなり、人と接することが苦痛に感じるようになってきます。結果として身体的・精神的にも活動が不活発になり、寝たきりや認知機能低下のリスクが増加することになります。

近年、口腔機能が低下している状態をオーラルフレイルと呼び、要介護状態が進行していく状態のひとつとしても注目されています。

【口腔機能向上加算とは】

口腔機能向上加算とは、口腔機能が低下している、またはそのおそれのある利用者様を対象に要介護状態への進行予防・または改善を目指した口腔機能向上に向けた支援を実施したことを評価する加算です。

令和3年介護報酬改定にて、口腔機能向上加算は (Ⅰ)と(Ⅱ)の2種になり、科学的介護情報システムLIFEの活用が要件に含まれました。

令和6年(2024年度)の介護報酬改定では、「(介護予防)通所リハビリテーション」について、「一体的サービス提供加算と同時算定不可」という条件が加わりました。

【口腔機能向上加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の違い】

この2つの違いは、科学的介護情報システムLIFEでの情報提出・活用を実施するかしないかであり、LIFEに情報提出をするなら(Ⅱ)・しないなら(Ⅰ)を算定することになります。

【口腔機能向上加算の対象となる介護サービス】

・通所介護
・地域密着型通所介護
・(介護予防)認知症対応型通所介護
・(介護予防)通所リハビリテーション ※一体的サービス提供加算と同時算定不可
・複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)
※外部利用型の介護予防特定施設入居者生活介護については各自治体にお問い合わせください。

【口腔機能向上加算の単位数】

種類口腔機能向上加算(Ⅰ)口腔機能向上加算(Ⅱ)
単位数150単位/回160単位/回
要点要介護は月2回まで。
要支援、総合事業対象者は月1回まで
※(Ⅰ)(Ⅱ)の併算定は出来ません。

【口腔機能向上加算の算定要件】

(1)口腔機能向上加算(Ⅰ)の算定要件は以下になります。

・人員の配置
言語聴覚士、歯科衛生士または看護職員を1名以上配置する。(非常勤・兼務可)

・計画作成
利用開始時に利用者の口腔機能を把握し、言語聴覚士や歯科衛生士、看護職員等が共同して口腔機能改善管理指導計画を作成していること。

・サービスの提供
利用者ごとの口腔機能改善管理指導計画に従い口腔機能向上サービスを行っていること。

・記録
利用者の口腔機能を定期的に記録していること。

・定期的な評価の実施
利用者ごとの口腔機能改善管理指導計画の進捗の定期的な評価を行うこと。
評価結果について、担当の主治医、主治歯科医、介護支援専門員に情報提供すること。

(2)口腔機能向上加算(Ⅱ)の算定要件は以下になります。

・口腔機能向上加算(Ⅰ)の要件を満たすこと

・利用者様ごとに口腔機能改善管理指導計画等の内容等の情報を、LIFEを用いて厚生労働省に提出していること

・サービスの質の向上を図るため、LIFEへの提出情報及びフィードバック情報を活用し、Plan・Do・Check・ActionのPDCAサイクルを実施していること

「Plan」
利用者の状態に応じた口腔機能改善管理指導計画の作成
「Do」
当該計画に基づく支援の提供
「Check」
当該支援内容の評価
「Action」
その評価結果を踏まえた当該計画の見直し・改善

【口腔機能向上加算の留意点】

(1)口腔機能向上サービスの提供は、利用者ごとに行われるケアマネジメントの一環として行われること。

(2)歯科診療を受診している場合であっても以下に該当する場合は加算は算定できない
・医療保険における「摂食機能療法」を算定している場合
・医療保険における「摂食機能療法」を算定していない場合でも、介護保険の口腔機能向上サービスとして、「摂食・嚥下機能に関する訓練の指導もしくは実施」を行っていない場合。

(3)複数の介護事業所及び介護サービスを利用しており、他事業所ですでに口腔機能向上加算を算定している利用者様は算定できません。

【口腔機能向上加算(Ⅱ)の科学的介護情報システム「LIFE」提出情報】

LIFEへのデータ提出が必須である情報については、厚生労働省ホームページ「ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)利活用の手引き」https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000962109.pdf
をご覧ください。

※LIFE提出データの各項目の評価基準
(ア)食形態等
(イ)スクリーニング、アセスメント、モニタリング
(ウ)口腔機能改善管理計画
(エ)実施記録

【口腔機能向上加算のサービス対象者になる利用者様とは?】

条件は3種類あり、口腔機能向上サービスの提供が必要と認められる利用者様となります。下記、(イ)・(ロ)・(ハ)のいずれかに当てはまることが条件となります。

(イ)認定調査票における嚥下、食事摂取、口腔清掃の3項目のいずれかの項目で「1」以外に該当する者
(ロ)基本チェックリストの口腔機能に関する(13)(14)(15)の3項目のうち、2項目以上が「1」に該当する者
(ハ)その他口腔機能の低下している者またはそのおそれがある者

※条件の例外としては、(イ)(ロ)に当てはまらない場合でも、視認により口腔内の衛生状態に問題がある利用者様、歯科医師やケアマネジャー等からの情報提供により口腔機能の低下またはおそれがあると判断される利用者様も算定が可能です。

【最後に】

口の中の衰え、特に歯の衰えは身体すべての衰えに直結する恐ろしいものです。
事業所様も利用者様にサービスを提供する上で、非常に気にかけていらっしゃることでしょう。知り合いの歯科衛生士さんは予防活動に未来が掛かっているとおっしゃっておられました。幼いころから誰しもが言われている事ですが、改めて…皆さま歯は大切に…。

最後までお読みいただきありがとうございました。

※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。