今回は介護で開業を目指している方へお役に立つ内容をまとめました。

基礎の内容から順を追って解説いたしますので、もうご存じの部分は飛ばして、自分の興味があるところから読んでいただいても構いません。

開業するということは、それなりの準備が必要です。
しかし、必要なことさえ行えば開業は可能です。

問題はその後です。
誰でも開業はできますが、継続していくことは難しいものです。
執筆しております私自身も介護業界ではありませんが、起業して続けていくことの難しさを日々感じています。

これから介護業界で開業したいと考えている方々に、起業後に本当に大事なことをお伝えしたいと思います。

参考にしていただければ幸いです。

【介護事業を開業するための基本6ステップ】

介護事業というのは基本的には許認可による事業です。

申請をして認可が下りなければ、介護事業所を開業することはできません

申請して認可が下りるまでの流れをざっくり6つのステップに分けてご説明します。

  1. 介護の事業形態を決める
  2. 必要な法人形態を選ぶ
  3. 指定基準:必要な人材の確保
  4. 設備基準:場所の選定と確保
  5. 運営基準:開業後の運営ルールを決める
  6. 指定申請

1.介護の事業形態を決める

介護の事業と一口に言いますが内容はかなり細分化されています。

ここで事業形態と書きましたが要するに介護事業として、どのようなサービスをやるのかということをまず決める必要があります。

実はここが一番大事なところかもしれません。

というのはどのようなサービスをやりたいかによって、必要な人員や求められる資格、準備するべき場所なども全て違ってくるからです。

ここに代表的な介護事業の形態を表にまとめます。

事業形態内容
居宅介護支援(ケアプランセンター)ケアマネジャーが、介護保険サービスを受ける要介護者の在宅介護の相談や計画立案、調整を引き受ける。ケアプランを立て、自宅での自立した生活を支援するサービス。
通所介護(デイサービス)要介護認定された高齢者がデイサービスセンター等に通い、自立して生活するために必要な生活機能の向上と維持のために、個別の計画書に則って機能訓練や食事、入浴やレクリエーション等を行う。
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)認知症の高齢者の方が共同生活する施設支援。利用者が自立した生活を送ることができるよう、それぞれの能力に合わせた介護や機能訓練を行いながらサポートをする。少人数制の施設であり、介護スタッフが常駐する。
訪問介護(ヘルパーステーション)ホームヘルプとも呼ばれ、利用者の自宅に訪問介護員(ホームヘルパー)が出向き、食事や入浴、排泄などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活の支援(生活援助)を行うサービス。
訪問看護利用者が自宅で生活が送れるように、看護師などの医療従事者が利用者の自宅に訪問して医療的ケアなどを提供するサービス。
主治医の指示のもと、血圧、脈拍などの測定をはじめ、点滴や注射、カテーテルやチューブなどの取り扱い、医療行為や機器管理も行う。
通所リハビリテーション(デイケア)日帰りでのリハビリテーションサービス。利用者は作業療法士などの専門スタッフの指導のもと食事や入浴、機能訓練、口腔機能向上訓練などを日帰りで受けることができる。病院等に併設される場合も多い。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)常に介護が必要な状態の方が利用する公的な入居型施設。食事や入浴、排泄の介助のほか、機能訓練や健康管理など生活全般の介護を提供する。
介護老人保健施設在宅復帰を目指す医療的リハビリ介護が必要な高齢者の方が病院での入院治療後に在宅復帰を目指し、医師の管理下でリハビリなどを行なう施設。約3~6ヶ月の入居が一般的。

一部を例に上げましたが、様々なサービスがある中で、まずどの介護事業の形態で始めるのかを最初に決めましょう。

自分が一番熱心に取り組めるというものを選ぶことが大事です。

2.必要な法人形態を選ぶ

仮にここでデイサービスをやりたいと決めたとします。

次に考えなければいけないのは介護事業の法人形態です。

介護事業は許認可制の事業で、許認可の対象は法人に限られます。個人事業として介護事業をやることはできません。

ですので、何らかの法人格を取らなければなりません。

・選べる介護事業の形態とは

介護事業で、介護保険を使ってサービスを行うことのできる法人形態は株式会社、合同会社・合資会社・合名会社、NPO法人、医療法人、社会福祉法人、社団法人、財団法人、協同組合です。

どれを選ぶかにあたって、大きなポイントは2つあります。

・法人形態選定ポイント2つ

1つは営利団体か非営利団体かというポイントです。

営利団体とは、株式会社、合同会社・合資会社・合名会社等です。
建前として利益を出すということを目的に作られている団体です。

これに対し、NPO法人、医療法人、社会福祉法人、社団法人、財団法人、協同組合は非営利団体です。必ずしも利益を出すことを目的とせず、相互の助け合いという考え方に基づいて組織を運営するという団体です。ただ利益を出してはいけないということではありません。

2つ目のポイントは有限責任か無限責任かという問題です。
出資者が事業に対して無限の責任を持つか、責任の範囲が限定されるかというところに大きな違いがあります。
一番わかりやすい例は、事業で大きな赤字や負債を抱えた場合どこまで出資者が責任を持つのかという問題です。

出資者が自分の出資額を超えてまで責任を負わないことは有限責任と呼ばれ、株式会社・合同会社のすべての出資者および、合資会社の一部の出資者に該当します。

これに対し、出資者が会社の債務について出資の範囲を超えて無限に責任を負うことは無限責任と呼ばれ、合名会社のすべての出資者および合資会社の一部の出資者に該当します。

NPO法人、医療法人、社会福祉法人、社団法人、財団法人等の非営利団体は、法人としては責任を負いますが、連帯保証などをしていない限り出資者が負債に対して無限に責任を負うことはありません。

最近は株式会社やNPO法人などが多い傾向にあります。

株式会社は信用も得やすいですから、しっかりとした事業計画があれば株式会社で会社をスタートするというのもいいと思います。

NPO法人は開業費用を低く抑えることができ、また利益追求ではなく社会的を良くしたいという目的があるため非常に印象は良いです。

どのような法人格で始めるかによって、設立にかかる期間や費用が違ってきます

十分に下調べが必要です。

3.指定基準:必要な人材の確保

ここまでは他の業界の開業と大きく変わらないですが、ここからが介護業界の特殊なところです。

具体的には、認定の申請をして指定を受けるための基準をクリアすることが必要になります。

指定基準とは、「人員基準」「設備基準」「運営基準」の3つです。

許認可による事業なので、基準を満たしていなければ認可を申請しても、認可はおりません。

まず一番大事なのが人材の確保つまり「人員基準」です。

人員基準は、利用者・入居者に対し、適切なケアサービスを行えるよう体制を整えるという目的で設けられています

専門資格を有した人材の配置が義務付けられています。この人員配置の基準が、介護事業の種類によって事細かく決められています。

例えばこんな感じです。

【参考資料1】訪問介護の報酬・基準について P27
出典:厚生労働省 第149回社会保障審議会介護給付費分科会
【参考資料1】訪問介護の報酬・基準について P27より転載

この表を見ると、30名内の小規模な訪問介護サービスを立ち上げるには、常勤で介護職員が2.5名以上とあるので、最低3名は必要です。
その内1名は、介護福祉士、実務者研修修了者、旧介護職員基礎研修修了者、旧1級課程修了者である必要があります。

管理者はとくに資格がなくてもなることができます。兼務は1人2つまで認められていますので、介護職員と兼務できます。

そして、訪問介護員になるには、介護職員初任者研修を受講し修了することが求められます。利用者の体に触れる「身体介護」ができる資格である、看護師や准看護師などの資格でも可能です。

このように人員基準は細かく定めがあり、介護事業のサービスの種類によって、全く異なってきます。

ですから、最初に示したように、どんな介護事業をやるのかによって、どんな資格を持った人が何人必要かが、全く違ってくるわけです。

・介護事業で求められる資格一覧

介護事業で開業する際に求められる人員とその資格要件で、頻繁に聞くものまとめたのが下表にしたのです。

職種名称求められる役割必要な資格
管理者施設の全体的な管理と運営職員のマネジメントや収支管理、行政機関への報告、申告公的な資格は必要ないが、施設種類に応じた経験及び関連資格実務経験が必要
介護支援専門員
(ケアマネジャー)
利用者やその家族の相談に応じながら、必要な介護サービス計画(ケアプラン)を作成。作成したケアプランをもとに、自治体や介護事業者と連絡や調整を行い、利用者やその家族が自立した生活を送れるように支援を行う。介護支援専門員
生活相談員利用者や家族の相談対応、サービスの調整利用者や家族の相談対応や、ほかの職種や機関との調整業務など。入所時の手続きをはじめとした事務処理も担当。自治体によって異なる。それぞれ決められた年数以上の実務経験者、もしくは社会福祉士、社会福祉主事、精神保健福祉士など様々。
看護職員健康管理、医療ケアの提供利用者の健康チェックや、薬の管理を行う。利用者の容体が悪化した際には応急処置や、医師への引継ぎなども行う。看護師資格、准看護師資格
介護職員施設における入浴・食事・排泄などの身体介護、洗濯・買い物などの生活援助。心身のケアやレクリエーションの計画・管理公的な資格は必要ないが、「介護職員初任者研修課程」を受講する必要あり
機能訓練指導員
※詳しくはこちらの記事をご覧ください
リハビリテーションプログラムの実施利用者が自宅で自立した生活を送れるよう訓練を行い、支援を行う理学療法士、作業療法士、言語聴覚士
看護職員、柔道整復師またはあん摩マッサージ指圧師など
サービス提供責任者サービスの品質管理、スタッフの指導訪問介護サービスにおける責任者。
利用者ごとに個別支援計画を作成し、よりよいケアが提供できるようホームヘルパーを指導する
介護福祉士、実務者研修修了者、看護師、保健師、旧介護職員基礎研修修了者、旧1級課程修了者など
訪問介護員(ホームヘルパー)在宅での身体介護や生活支援利用者の自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行う公的な資格は必要ないが、「介護職員初任者研修課程」を受講する必要あり

一例を挙げましたが、人員の基準は自治体によっても微妙に要件が異なります。そのため、介護事業で開業を考える場合には必ず各所属自治体に確認する必要があります。
立ち上げようという方は業界に既に長く関わる方が多いとは思いますが、改めて多種多様な人材が必要で大変だという印象になると思います。

では、人員配置基準を守らなければどうなるのか。

人員が揃っていない施設は開業ができません。また開業後に人員が揃わなくなった場合、介護報酬が減算になってしまいます。さらに放置しておくと最悪の場合、介護事業者の指定取り消しに至るケースもあります。

ですので、人員基準を守ることはかなり大事なことです。

この人員基準を満たすために、専任の従業員ばかり雇えるわけではありません。

専従でない人を雇用した場合に、どう計算するのか。これは「常勤換算」というややこしい計算がありますが、ここでは長くなるため詳細は触れません。

介護事業、特に訪問介護などは、コストのほとんどは人件費です。

良いケアサービス、やりたいケアを継続して提供して行くには、どのような資格を持った人が最低何人必要なのかということをまず頭に入れておく必要があります

4.設備基準:場所の選定と確保

人の確保の次は、場所の確保です。

場所及び設備についても基準が設けられているからです。「設備基準」と言いますが、これも厚生労働省の基準でそれぞれの介護サービスごとに決まっています。

例えば、訪問介護の場合は設備基準はわずか2つの要件しか記載がありません。

・事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の区画(利用申込の受付、相談等に対応できるもの)を有していること
・訪問介護の提供に必要な設備及び備品を備え付けていること

いかがでしょうか。イメージは湧きましたでしょうか?
分からない場合は曖昧にしないで各自治体に相談して確認していくことが大事です。

上記は訪問介護の例ですが、通所介護の設備基準は一人当たり利用者3平米以上、相談室を確保するなど具体的な広さが指定されていたりします。

【参考資料3】通所介護及び療養通所介護(参考資料)P3
出典:厚生労働省 第141回社会保障審議会介護給付費分科会
【参考資料3】通所介護及び療養通所介護(参考資料) P2より転載

なお、平成30年4月から、居宅介護支援事業所の指定権限は都道府県から市町村へ移されています。ですので、各市町村で運用のためのルールが定められている可能性があります。

例えば、横浜市は独自で明確な基準を設けているようです。
また、横浜市のホームページでは、自治体の持つ介護保険法管轄の事務の権限についてはこのように明示していました。
例)横浜市:介護保険法等に基づく事務の権限移譲について

まず開業予定の市区町村の設備基準を確認しましょう。

そして、その前に、どの市区町村で開業するかということも大事なポイントになるでしょう。

5.運営基準:開業後の運営ルールを決める

最後に、開業した後の運営のルールを定めた「運営基準」を作る必要があります。

運営基準とは、事業所運営をするにあたって注意すべき事項や管理者・サービス提供責任者の責務などを示したものを指します。

これは一般企業であれば、会社の約款に相当するものです。ただ一般の会社であれば、会社設立時に自分で約款を定めることができますが、介護事業は介護保険という公的なサービスを担うものであるため、このような運用基準が設けられています。

開設にあたっては書類として提出すれば良いだけです。しかしその内容は事業所を開設した後に関わる大事なことが多いため、人員や設備の基準に比べて、一番違反の多い項目です。

主だったものとしては、
・契約時に重要事項を利用者に説明し同意を得なければならない
・原則、利用申し込みに対して正当な理由なく申し込みを拒否してはならない
等と言った契約に関わること。

・利用者の要介護度、介護認定の有効期間を確認しなければならない
と言った介護保険に関わること

・ケアマネジャーなどをはじめとする他のサービス事業者と連携しなければならない
・利用者の心身の状態をモニタリングし、ケアプランに沿った介護サービスを提供すること

など、介護事業者がサービスを提供する際のルールのようなことが定められています。

6.指定申請

行うべき介護事業サービスを決め、法人格を決め、「人員基準」「設備基準」「運用基準」を定めたら、これらを事業を開始しようとする市区町村に申請します。

この指定申請の流れも市区町村によって異なっています。

最近は、行政の書類の簡素化という流れを受け、オンラインでの申請を認める市区町村も増えています。

指定申請をしてから最終的に事業所の指定を受けて開業できるまで、おおよそどれぐらいの時間がかかるのかは事前に確認をしておいた方が安心できます。

・指定申請に必要な書類一覧

申請の受付期間や、指定申請書類の様式や要件は都道府県や市区町村によって異なります。

主だったものは
・指定申請書
・登記事項証明書
・平面図
・運営規程

等ですが、どのような書類がどのような様式で準備すれば良いのかは市区町村に必ず確認が必要です。

書類に不備がある場合は、原則申請は受理されません。つまり、その分開業日(指定を受ける日)が遅れてしまいます。

通所介護事業(デイサービス)など一定のスペースが必要な介護サービスを開設するためには、さらに注意が必要です。

これは介護サービスを始めるにあたって「事務スペース」以外にも「食堂」および「機能訓練室」、「静養室」、「相談室」が必要と定められているからです。

設備の改修や新築するにあたっては、それなりに費用がかかります。ですからあらかじめ必要な機能や要件を満たした設備を整えてもらうために、必要な書類をそろえ、行政と事前協議をおこないます。

認可を与える市区町村から見ると、新たに事業をはじめる場合に、その施設が介護保険法や老人福祉法など定められた基準に適合しているか確認する必要があるわけです。ですから、施設を新築や改修の前に、この事前協議を行う必要があります。

事前協議によりチェックを受けた計画をもとに、介護施設の建築・改修を行います。

施設の改修等の工事期間は長い期間が必要な場合もありますので、事業開始のスケジュールは余裕を持って組み込んでおく必要があります。

このようなプロセスを経て、行政が介護保険法や老人福祉法に適合しているかを確認し、要件を満たせば指定事業者として決定されます。

・認証、許認可の取得

基準を満たした場合、指定介護サービス事業所等として指定されます。

行政から指定を受けた事業者のみが、介護保険事業を行うことが出来るわけですから、この指定を持って初めて開業ができるわけです。

この指定日は、原則としては各月の1日です。

しかしこれも、市区町村によって、解釈の違いがありますので注意しましょう。

介護保険法の規定により、指定申請を受けた事業者の有効期間は指定から6年です。これは全国一律です。

しかし、有効期限が切れる前に、次の6年間の認定の申請が必要です。有効期間が切れてしまうと介護請求ができません。
運転免許のように、6年の有効期間が切れる前に事前に案内をしてくれる親切な市町村にばかりではありませんので、期限切れにも注意が必要です。

【成功する介護事業のために】

開業した方は、ここからがスタートです。

晴れて指定申請を受けて介護事業を開業した方へ、ここからは個人の起業経験を踏まえたアドバイスになります。

これから介護事業を継続して発展させていくためにはどうすれば良いのか、失敗しないためのポイントを重点的にお伝えしたいです。

利用者獲得は事業の要

介護業界というのは一般の事業と大きな違いがあります。

それは介護保険という国の制度によって収益が安定して支えられているということです。

きちんとしたサービスを利用者様に提供し、そのサービスを保険請求すれば必ず現金が入金されるので、非常に安定して事業を継続できます。

ここで問題は、利用者様を継続して獲得していくということです。

利用者様をどうやって獲得するのか。

普通の会社で言えば、マーケティング活動ですが、これが開業後も事業を発展させるコツだと思います。

・利用者獲得における市場と競合の分析

介護の事業は、特定のエリア内での利用者の獲得ということが必要になります。

一定のエリア内で認知を上げるにはどうすればいいのか、チラシを作って撒いたり、広告を打ったりいろいろなことを考える必要があります。

もう一つ大切なことは、同じエリアにどのような競合他社がいるのかということを確認しておく必要があります。

介護事業の場合、特にこれは大事になるでしょう。

というのも、この業界は常に人手不足であり、隣の事業所が何らかの理由で閉鎖されたりした場合、そこで勤めている方や利用者の方が、こちらに流れて来てくれる可能性もあります。

また災害時などにはお互いに助け合う必要も出てきます。

同じ地域内に類似の介護事業所がどれだけあるのかということは押さえておくべきポイントです。

効果的な資金調達と財務管理

硬い見出しですが、要するに介護保険による入金があるまでの資金をどうやって工面するかということです。

介護サービスは、介護保険請求をかければ、書類の不備さえなければ入金されますが、その入金があるのは2ヶ月後です。

サービスを提供しても入金があるのは2ヶ月後ということは、その間の従業員への支払いや事業所の家賃などの資金をどうやって調達するかということを考えなくてはなりません。

言い換えれば、最悪2ヶ月間は入金がなくてもやっていけるだけの手元資金が必要ということになります。

そのために資金調達が必要になってくるわけです。

・資金計画と助成金、融資の活用

ご自分の力で、家族や親戚などに依頼して借り入れしたりして手元資金を準備できる方は良いですが、助成金や融資などを利用する方法もあります。

最近は、新規創業の数を増やすという世の中の流れもあり、介護事業などのソーシャルビジネスに対しては支援が厚くなっています。無担保・無保証人でも利用できるものもあります。

ただ、無担保・無為保証人でOKといっても、融資の前提条件として、「自己資金」はどうしても必要です。

自己資金なしで融資の審査に通る確率は限りなく低いです。主要な融資制度を表にまとめました。

名称実施主体特長
新規開業資金・新創業融資制度日本政策金融公庫事業の種類が限定されておらず、新しく事業を創業して日が浅い人であれば申し込みができます。無担保・無保証人でも利用できるので、比較的利用しやすい制度として有名です。
ソーシャルビジネス支援資金日本政策金融公庫高齢者や障がい者の介護・福祉、子育て支援、まちづくり、地域活性化や環境保護など、地域や社会が抱える課題の解決に取り組むソーシャルビジネスの開業を計画している方が利用することができます。
信用保証協会融資全国信用保証協会連合会一般の銀行から融資を受けることができます。ただし、市や区の管轄との面談や信用保証協会の審査、金融機関の審査など手間と時間がかかります。
福祉医療貸付制度福祉医療機構「長期・固定・低利」をコンセプトにした融資制度を実施し、福祉貸付事業と医療貸付事業という2種類の融資があります。

融資制度によって利用できる時期、条件などが違います。制度も頻繁に変わっていますので、人から聞いた話だけで判断せず、これも開業を考えている地域の国民金融公庫などで、最新の情報を集めることをおすすめします。

また、運営や請求の為におそらく導入することになるだろう介護ソフトや介護システムには、ファクタリングサービスに対応しているものがあります。
資金の基盤に不安がある場合には、こういったサービスを利用することも考えられます。

スタッフとの良好な関係の構築

介護事業は1人では開業ができません。一緒に事業を立ち上げる仲間はとても大切です。

これは介護事業に限った話ではありません。創業時のメンバーは常に重要です。創業時のメンバーのやる気や雰囲気はその後に入ってくるメンバーに伝わります。

数人しかいないメンバーの中でも、やり方が違ったり考え方が違ったりということはよくあることです。

しかしそこで決定的に仲間割れが起きてしまったりすると雰囲気が悪くなってしまいます。

お互い何を考えているのか本音を言い合える関係性やコミュニケーションのルールを作っていくことは大事なことです。

・業務上大切な情報の確認手段と優先順位の取り決め

介護業務は、いつどんな事が起こるのか想定や訓練はできても、リアルタイムでの対応はその場の人間の行動に委ねられることになります。
職能としての動きの他に、何を優先して行動しなければならないかは全員で統一見解を持つことが大切です。対人業務であるがゆえに、スタッフが咄嗟でも行動できるような約束事が必要になってきます。
例えば、送迎中、どうやら準備が間に合わなかったようで独居の利用者様がご自宅から出て来られない。既に送迎中の他の利用者様は車でお待ちになっておられる。そういった時に、事業所とどういう手段を使ってどのように情報を共有し、どういう対応を行えばいいかなどを取り決めておけば、送迎中のスタッフが苦悩することなく、また利用者様へのストレスを最低限に抑えることも可能でしょう。

・継続的なスタッフ教育とチームビルディング

創業メンバー幹部が信頼し合っているということは前提として、その後に入ってくるメンバーに対してはチームが一体として動けるようなトレーニングが必要です。

これも一般の会社と同じですが、いくら中途採用で採用したからと言っても、その組織やチームでのやり方というものがあり、そのやり方に馴染むまで時間はある程度かかります。そのための時間を割く必要があります。

・会社の信念や法に則った社内ルールの明文化

これも大事なことですが、スタッフへのトレーニングやチームビルディングの基礎となる、ルールややり方についてはできる限り「信条」や「利用者との約束」という形で明文化しておくことです。

介護事業のサービスの質を支えるのは、日々、利用者様に接する職員の持つ意識と姿勢となります。
最初どんなに優れた手法であったとしても、属人的なやり方、つまり先輩後輩から教わるという形だけでトレーニングを続けていくと、職員の中で派閥ができてしまったり、人の好き嫌いができたり、人間関係が悪くなったりで、最悪、せっかく採用した職員が人間関係を理由に辞めてしまったりします。また情報が刷新されないことで古い法律や価値観がそのまま残り、新しい法律が分からないことで違法と知らずに運営してしまう危険性もあります。

事業所の運用ポリシーやルールを会社として明文化しておくと、決定的な問題を起こすような人材を万一採用してしまった時にも、社会や会社のルールに違反した場合は、取り決めてあったルールに従って辞めてもらうということができます。

経営側や人の好き嫌いというわけではなく、また先人たちの教えだけではなく、この介護事業所のやり方はこうですと証拠をもって公的な場所でも言えるような、明文化したルールが必要なのはこういう理由です。

市場ニーズに適したサービスの提供

高齢化社会は予想以上のスピードで進展しています。

しかし、高齢者全てが介護を必要としているわけではありません。

介護をいずれ必要とする「予備軍」は多く、しかも彼らは今は非常に元気で、ある程度のお金を持っています。また、戦後生まれだと日本独自というより舶来由来の趣味を持つ人々も増え、ニーズの多様化がどんどん進んでいます。また、デジタルを使いこなすような「予備軍」も増えていきます。

現在、一般的に提供されている介護サービスは、このような元気で価値観の多様化が進んだ高齢者に合っているとは、必ずしも言い切れないのが実情です。

今後はこういった方々に対してアプローチし、介護保険外の収益を増やすようにメニューを工夫し努力するべきでしょう。

全国でも珍しいサービスを始めているような事業所が新聞やニュースに取り上げられているところを見ることがあります。サービスを提供していく可能性は無限にあると思います。

また、介護保険外収入を増やしていけば、従業員の給料や待遇は上げることはできますし、従業員の定着率も良くなります。介護業界は採用に関しても苦戦している業界ではありますが、従業員の満足を挙げることができれば評判が良くなって、求人に莫大な予算を投じずとも採用が上手くいくようになります。

行政、地域や関連団体との連携

最後に最も大事なことですが、開業している市区町村などの自治体、介護の関連団体等と連携して最新の情報を得続けるようにしてください。

というのも介護保険法は、高齢者介護の現状や社会のニーズに合わせて、3年毎に改正されます。

これほど頻繁に法律改正がある業界も珍しいと思いますが、事業の報酬や指定基準なども、3年ごとに解釈が変わる可能性があります。

新型コロナの時にように、臨時の助成金や補助金が出たりすることもあります。IT化やDX化を推進するために新しい制度が出来るかも知れません。

こうした情報も気軽に問合せができることで、素早くキャッチできれば有利ですし、次の事業展開を考える時に、方向を見誤らずに済みます。

行政、地域、介護関連団体、とのコミュニケーションを上手くとり、仲良くしておくと良いでしょう。

【まとめ】

以上、ささやかながら自分の起業経験も踏まえて、介護の開業について気がつくところをまとめさせていただきました。

介護事業での開業は一般の事業に比べてもかなり大変だなと思います。圧倒的に書類の数が多く、研修の数や関係する法律が多いからです。

開業当初は1人で全部やらなければいけないので、最低限のPCでエクセルやワードを扱うことができる事務処理能力は必須だと感じます。

しかし、事務処理能力というのは開業後には必須の能力とは言えません。
今では事務処理に必要なソフトウェアも多数ありますし、それらに頼れば負担は軽減できます。

むしろ開業後に重要なのは、新しく人間関係を作り、利用者を増やし、一緒に働く仲間を増やすという「人間力」と「笑顔」です。

この記事が介護事業で開業を考えておられる方への参考になれば幸いです。

※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。