「起居動作」とは「ADL(日常生活動作)…日常生活を送るために最低限必要な動作」の一つで、具体的な動作としては、
- 寝返り
- 起き上がり
- 立ち上がり
- 寝ながらの移動
- 座位の保持
- 立位の保持
など、姿勢変換のための動作のことを指します。関節を使う動作が主になっており、つまり起居動作は、関節可動域の維持や筋肉の維持にも大切な動作です。
尚、ADLについては別記事がありますので、ご参照ください。
https://caretree.jp/archives/10980
【起居動作とADL(日常生活動作)の違い】
「起居動作」が姿勢変換のための動作のことを指すことに対して、「日常生活動作(ADL)」とは、「起居動作」を含んだ「日常生活を送るために最低限必要な動作全般」のことを指しており、動作の範囲は広くなります。具体的の動作は「起居動作、移乗、移動、食事、更衣、排泄、入浴、整容」となります。
「ADL(日常生活動作)」は、その動作を行うことができる度合いを評価して、点数で表すことが出来ます。高齢者、障がい者の「身体能力・日常生活自立度を把握するための重要な指標」として用いられます。
【高齢者と起居動作】
起居動作は、最低限度の生活の質を担保し自立するためには必要な活動要素です。
「起きる・寝る・立つ・座る」は人の生活の営みにおける根幹であって、若い内はそれがそんなにつらい動作になるなんて考えもしないくらい自然な人体の動きです。もちろん若い頃から身体が不自由な方もいらっしゃいますが、そのような方は生活上で克服する術をお持ちの事が多いように思えます。
問題は、できるという思い込みの元、できなかったという結果が招く事柄です。これは、普通に出来ていた事ができなくなっていく過程で起こる意識とのミスマッチで起こります。出来なくなったことに気付けないと、怪我を繰り返す悪循環に入ってしまう場合もあります。
これらの動作には体幹が関わっており、体幹を支える筋肉の衰えが今までできたことをできなくしていきます。起き上がりには上肢機能も関連しているという研究結果も簡単に見つけられます。上肢機能の確認には握力測定が有効ですので、「あれ?なんか手に力が入らないな?」と感じる時は筋力低下が原因の場合も多くあります。あまりにひどくなると起居動作にも関わってきますので、動作に不調を感じた場合にはお早めにお医者様に原因を確認していただくとよいでしょう。筋力の低下が原因ですと、他の動作にも遅かれ早かれ問題が生じ、それが起居動作に波及すると生活の質が大きく落ちてしまいます。無理をしてはいけませんが、予防のための適度な運動は高齢者によって必須と言えます
【起居動作に問題が…リハビリテーション】
起居動作に問題が生じた高齢者にはどんな方法で維持・改善をすすめるかという方法の一つがリハビリテーションを受ける事です。通常の怪我と同じ様に治療や回復を目的として医療機関のリハビリテーションを受けるのが一般的ですが、介護認定があれば介護の一環として、介護サービスで受けることができる場合があります。
起居動作に問題が出るというのはかなりのことです。日常生活に大きく支障が出るような重大な局面にあり、要因が怪我にしろ病気にしろ後遺症にしろ、肉体的な問題だけでなく精神的にも非常に厳しい状態にあると言えます。
つまり多くが「自力で起き上がれない、立ち上がれない」という状況にあるという事です。
医療機関における起居動作に対するリハビリテーションは早期離床と生活再建が目的となります。「病棟から在宅へ」これが合言葉です。
ここで重視されるのは「動きを促すこと」です。出来ないことを看護師や理学療法士、作業療法士などが代行してやってあげるのではなく、患者が出来ない部分を補うために手を添え介助することです。動作は動けないものを根性のみで無理に動かすと悪影響が出ることもありますが、医療的アプローチにより、無理にではなく出来る範囲で動かすことによって可動域の維持や改善ができるためです。患者の能動的な動きを推奨し、いち早い早期離床と生活再建に繋げられるように介助は進められます。もちろんそこに本人の意思が大きく関わっており、前向きに進めていく気持ちの持ちようにも相談員を介在させるなど、医療機関では気を配ってくれます。
【起居動作に問題が…介護で対応】
起居動作に問題が生じた高齢者にはどんな方法で維持・改善をすすめるかという方法の一つが介護サービスを受ける事です。
起居動作に問題があって介護を受ける。介護は生活全般での援助、被介護者への生活支援が基本です。つまり、介護認定を受けていて起居動作が難しいというのは、本当に一大事です。段階としては維持も相当な気力が必要で、ここからの改善は人生酸いも甘いも乗り越えてきた被介護者、介護職員、ご家族の今ある精神力との闘いと言っても過言ではありません。
起居動作に問題が出てくるような状態の被介護者、つまり利用者様は、心理的にも著しく自信(自己効力感)が低下しているのが一般的で、家族に負担をかけたくない一心で心を抑圧しているケースが多くあります。また、心の奥底深くまで根深く沈んだ無力感がやる気を削がせている場合もあります。さらに、認知症の諸症状が出始めていた場合はもっと深刻で、食事・排尿などの最低限の生活に関する欲求も訴えられない状態になっていることがあります。介護だと、自立支援のための介助は当たり前ですが、早期離床や生活再建という点よりも、本人が良い人生、質の高い生活を維持できるのかという点が大きな焦点になります。
介護の担当となった職員は、重介助の場合も含めて介助技術について深い知識が必要になります。介助技術を学ばずして起居動作の介助はできません。相手の安全確保、介助者の腰痛予防に気を付けながらの移動介助が必要です。また、介助を行う職員も体重移動などに気を付けて行わなければ怪我をしてしまうこともあります。
例えば利用者様のベッドから車いすへの移動介助の場合、
- 手の位置
- 膝の置き方
- 車いすの位置
- ベッドからおろした足の置き方
- 重心移動
- 車いすへの臀部の位置
- 職員の手や体の使い方
という多くのチェックポイントを頭に入れながら、利用者様が不快に感じない様に手際よく行うのは経験だけではこなせません。何も知らない新人が入ってその日に対応できるようなものではないでしょう。
また、ご家族の負担は非常に大きいものになります。
仕事と介助・介護の調整、自分だけではない生活の負担、不安からのうつ状態は、ケアマネジャーが間に入ってもどうにもならない段階で発覚することもあります。打ち明けにくい内容かもしれないのですが、なるべく早く、事が大きくなる前に地域包括支援センターなどに相談をすることが大切です。介護認定後は、自分だけで一生懸命やるのでなく、介護サービスが助けてくれます。心強い味方として、関わる専門的知識や技術を持った人々ができる限りの様々な支援をしてくれるでしょう。
【片麻痺のある方が起居動作に問題を抱える場合】
片麻痺を抱える方が起居動作に問題を抱える場合、先ほどの介助の注意点に加え、【体のバランスがとりにくい】という特性に配慮が必要になります。
片麻痺の方の特徴として、非麻痺側での代償動作や過剰な緊張、及び感覚の不足があります。それによって重心が中心ではないことがほとんどで、麻痺していない方と比べてアンバランスな動きになっています。
起居動作に不都合のある方に対して介助を行う際、声がけは必須です。片麻痺のある方はただの声がけだけではなく、一連の動作の中で具体的な行動をお知らせする必要があります。片麻痺の方が起き上ったり立ち上がったりする際には必ず癖があります。例えば、そばにあるポールを掴んで片側に一気に近づけたり遠心力を利用しようとしたりするということです。それは反射的に行われており、意識しても簡単に治すことはできません。ですので、介助する方で、正しい姿勢でないことを随時お伝えし、余計な筋肉や骨などを余計に傷めないように配慮していかなければなりません。また、失敗した場合に起こる転倒も恐ろしいことです。片麻痺の方は半分は可動できる状態ですので、余計な力が入ったり息が合わなかったりすると力の作用方向が分散することで予想もしない大怪我に繋がる事態に発展することがあります。
正しい姿勢を促した介助を行うことでそれを避けることが可能になります。
例えば立ち上がる時には、
- 地面に両足をつく
- 骨盤を前傾にする
- きちんと手を握る
- 重心を意識する
という点を片麻痺の方と確認する必要があるでしょう。
【まとめ】
起居動作とは、日常生活における基本的動作でADLの一部です。
これまで出来ていた起居動作が難しくなった場合には、本人だけで悩んだりご家族だけで悩んだりせずに、しかるべきところへ相談することで心を保ち、維持改善に繋げることができます。
介護職員が介助する場合、技術やポイントの習得が大切です。資格保持者や先輩など、正しい知識や多くの経験を持つ方に師事することで、支援技術が大きく向上します。うまく介助できない場合は一人で悩まないで周囲に相談しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。