要約

  1. 5S活動の具体的な業務改善事例とは
  2. すぐに5Sを実行する方法とは
  3. 5Sの目的と、増える「S」について

「5S」は製造業で業務効率化を達成する手法として広まった方法で、今は多くの企業や団体で採用されています。5Sとは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」を意味しており、これら5つの単語をローマ字記載すると頭文字が全て「S」になるため、このように呼ばれています。5Sの基本は、それぞれの意味で業務を細かく見直すことで「ムリ」「ムダ」「ムラ」「3M」を削減し、現場の業務改善を図ることです。

※3M(ムリ・ムダ・ムラ)については「こちらの記事」をご覧ください。

【まず5Sとは】

5Sの内訳をまずご説明しましょう。
5Sのイメージ図

「整理」

「いるもの」「いらないもの」「すぐにはいらないもの」に分け、要らないものを徹底的に処分すること

「整頓」

必要なものをいつでも誰でも、すぐに取り出せるようにすること

「清掃」

誰が掃除しても同じく、綺麗な状態を維持すること

「清潔」

3S(整理・整頓・清潔)が標準化(ルール化)され、それが維持されている状態

「しつけ(躾)」

清潔な状態が習慣化して、当たり前になっている状態

これらを業務それぞれに対し、徹底的に洗い直すことが必要になります。
では、介護業界における5S活動とはどんなものなのでしょうか?
5S活動とは、「細かい気付き」を細かく見直して積み重ねることで成果を出します。
1つ改善させたから劇的に改善できるわけではありません。
では、「細かい気付き」とはどんなものなのでしょうか?
以下は、実際に改善が行われた例です。

【介護業界の5S活動<業務改善事例>】

5Sの基本的な活動は、日々の介護業務上での気づきについて声を上げるところから始まります。つまり、「課題を見える化」することが第一歩です。
些細なことでも気づいたことをリストアップし、小さいところから徐々に解決していくと積み重ねは徐々に大きくなるのです。魅力ある事業所・施設を作るには、本当に細かいところからチェックしていくことが大切です。

5Sのそれぞれについて、細かいチェックの例をご紹介します。

「例)整理」

コロナ禍でたくさん購入した体温計。
衛生面や業務効率を考えて「非接触タイプ」の電子体温計を導入しました。
でも、前に使っていた「脇に挟むタイプ」は別に壊れていないし、捨てるのはもったいない…。
あれから3年以上、ビニール袋にいれたまま、棚の一角を埋めています。
→現在でも壊れていないのですか?
→電池はまだあるのですか?すぐに使える状態ですか?
→今後、本当に使用しますか?

結果)職員が試しに使ってみたら、7本の内4本が使えなくなっていました。電池が劣化して腐食しているものもありました。使える3本は万が一の予備として、現在の非接触体温計の置き場と一緒に置くようにしました。もしかしたら電池の劣化でそのうち使えなくなるかもしれない為、判断は1年毎に行うように現場に周知しました。

「例)整頓」

経管栄養用の栄養剤。急に必要だったり、必要じゃなかったり。
昨日、納品があったはずの亜鉛とタンパク質を多く含むカロリーの高い栄養剤は手前の一番上の棚に置くハズなのに、残りがあと1本しかない。今、3本必要なのに。どうしよう!
エッ、どうして棚の一番下にいろんな種類と混ぜてごちゃごちゃに置いてあるの?これじゃ奥まで探さないといけない!誰だ、混ぜた奴!
→置き場所を決めているのであれば、全員に場所を周知しましょう。
→なぜ、それを分けてそこに置かないといけないのか、理由を説明しておきましょう。
→本当にその場所が置き場として適当ですか?業務上や配置や人員上の問題で整頓が難しい場所ではありませんか?
→必要な人が自力で出し入れできて、使用することができますか?

結果)管理栄養士とスタッフ1人を除いて背が低く、管理栄養士が休みの日にその1人が休みであった場合に、他のスタッフが一番上の棚に納品物を置くためには「置き場所が近くない踏み台を利用しなければ届かないため、とても手間がかかる」ことが分かりました。また、今回は納品を担当したスタッフが納品時に人手が足ず、ひとまず適当に置いて、帰りに直すつもりでしたが、そのまま忘れていたことが分かりました。まず、納品と整頓についてスタッフ全員が関与しやすい位置に管理場所を移動し、そして現場に栄養剤の知識を補強しました。経管栄養はそれぞれで成分が違い、緊急性がある場合があるため、種類を混ぜて置いてはいけないということです。さらによく使うものについてはどういう症状を持つ方に使われているのか詳しい説明を行いました。全員が重要なものであることが分かったため、例え急いでいたとしても粗雑に扱われることはなくなりました。

「例)清掃」

棚の天井近くの隅っこにはエアコンの影響でゴミがたまりやすい。たまに通路にゴミが降ってきて気持ち悪い。でも忙しいから仕方ない。人が多い時に掃除しよう。
→毎日でなくても良いので掃除のルーティンに入れられませんか?
→人が多い時は本当にその場所の掃除が出来るのですか?

結果)ユニット内のスタッフ同士で話し合いを行い、人手が多くシフトに入っているときは、多くの場合がイベントがある時で大概忙しく、そこまで意識が向かないという意見が出たため、毎週金曜日の夕方に手洗い場清掃を行う担当が棚の上を拭くことになった。ゴミは降ってこなくなった。

「例)清潔」

スタッフ用の洗面台の鏡は、石鹸が跳ねてすぐ汚く曇る。
でも見えるので、見えなくなってからでいいか。
→見えなくなってからでは業務に問題が発生しませんか?
→毎日とは言わず、磨く頻度を上げるとめったに曇りません。
→曇って見えない鏡は気持ちも晴れません。

結果)利用者様が利用しない鏡だったため雑な扱いになっていたが、専用の小さいスポンジを台に設置し、毎日の掃除の際に簡易的にでも軽く磨き、そのあとハンドペーパーで拭くことに。簡易的という話ではあったが、スタッフはみんな真面目だったので、毎回きちんと掃除しており、結果として全く曇らなくなった。「鏡が綺麗だと気持ちがよい」という話がスタッフから出るようになった。

「例)しつけ(躾)」

気に入らない人には影では挨拶しないベテラン職員がいる。表(上位の職位の人の前)ではきちんと挨拶しているので管理者には分からない。
いつの間にか現場の空気が悪くなっており、そのベテラン職員に嫌われていて辛いということで、若い人を中心に退職者も出ている。
→日本における仕事は、挨拶が基本であることをスタッフが認識していますか?
→被害者は若いスタッフが多く、被害者が一人で対応するには厳しい状況ではないですか?
→当事者に現場の空気を悪くしているという意識はありますか?

結果)挨拶は基本で大切という内容の標語を入口の壁に貼ったことを全員に告知、現場の他のベテランやリーダーに無視が起こりそうな場面や起こった後のような場面に出くわしたら、されたスタッフをフォローするように依頼した。何人かは辞めた人から直接問題の存在を聞いていたようで、前向きに検討してくれた。全員に対し、一人一人を個別に呼んで、挨拶チェックシートを記入してもらい、それに対して全員に意見を述べてもらうことで意識を向上するように努めた。

対策後は無視が全く起こらなくなったわけではないようだが、介入してくれる人が出始めたため、挨拶が返ってこない心の苦しみは少し減ったという話があった。その後、一番多く介入してくれる人は現場のリーダー的人物であったために、挨拶しないベテラン職員も少しずつ挨拶を返してくれるようになり、仕事の話もきちんとするようになったとのこと。その職員がなぜ挨拶を無視していたのかは理由が分からなかったが、話をするようになったら無くなっていったとの事だったので、何らかの誤解があってそれが解けた可能性がある。

【5Sはチェックシートから。厚生労働省のツールとは?】

先ほど、業務改善事例を上げましたが、これらは解決に対して些細なことから大きなことまで振り幅がある話としてご紹介しました。
問題は数あれど、白紙から気づきをリストアップするのは大変です。
実は、5S活動は業務効率化に有効であり、国も推奨しているのです。
厚生労働省が介護業界向けにツールを用意してくれていることをご存知でしょうか?

それがこちらです!
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/R1_Seisansei_shisetsu_Guide03.pdf

こちらには、「1.気づきシート」「2.業務時間調査票、業務時間見える化ツールのご紹介」「3.課題把握シート(管理者向け・職員向け)・使い方」「4.課題分析シート・使い方」「5.改善方針シート・使い方」「6.進捗管理シート・使い方」
が記載されており、全て実行すると様々なことが見えてきます。

特におすすめは「3.課題把握シート」です。
何から始めて良いか分からない場合、このシートに記入していくだけで問題が見えてきます。また、管理者向けと職員向けがありますので、目線の違いによって見えるもの、見えないものについても確認することができます。

また、厚生労働省は、e-ラーニングも用意しています。

厚生労働省:『介護分野における生産性向上e-ラーニング』

動画の数は多いものの、1本あたり10分かからず視聴することができるため、非常に忙しい現場であっても見る時間を少しずつ確保していけるように職場全体で協力・努力すれば1日に一人1本見ていくことについて全く捻出できない時間ではありません。
メリットやデメリットもこの動画でほとんどの事を理解することができます。

「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がある通り、もし一人で考えて煮詰まったとしても、みんなで考えれば突破口は見つかります。
まずは知識を拡充しながら課題を把握し、問題についてみんなで考えることで良い解決策が浮かび、取りまとめて今後に繋げることができます。

【介護施設の5Sを見直そう】

介護施設の5S活動の目的は以下の3つになります。

  1. 業務効率化
  2. 職場環境の改善
  3. 安全性の確保

それぞれ見ていきましょう。

1、業務効率化

どこに何があるか簡単にわかる状態にすることで、無駄な時間を削減します。職場から不要なものを無くし、一瞬で認識できる状態を作ることで、素早くスムーズに業務が行える状態を保ちます。これは書類やパソコン等のデジタル機器に保存しているデータにも言えることです。結果的に業務効率化に結び付くのです。

2、職場環境の改善

衛生的で綺麗な環境を維持することで、ストレスを予防します。職員の身体・精神面での負担軽減によるモチベーションの維持・向上にもつながり、離職率の低下も期待できます。綺麗な環境を維持するための報連相、チームの連携など、職場内コミュニケーションにもさまざまな効果が期待できます。

3、安全性の確保

事故を未然に防止すること。
これがいかに大切なことか、現場の皆様が一番よくお分かりかと思います。製造業・建設業で5Sの徹底が広まってきた理由でもあります。介護施設でも5Sを取り入れ徹底した場合、どんなに気を付けていても起こってしまう転倒、絶対に起こしてはならない転落や食中毒などの感染症を減らし、ヒヤリハットや事故の減少に繋がります。

【5S。3Sスタートから6S、7S、8S…その後増えたお話】

今まで5Sのお話をしてきましたが、実は5Sの始まりは3Sからでした。
その後5Sが主流になり…
実は最先端のこの活動は、6S、7S、8S、10Sと様々な広がりを見せているようです。

「3S」

3Sは、整理・整頓・清掃です。
人材も少なく体力のない中小企業は5Sとまでは行かなくとも、「まずは3Sから始めてみようというのが共通の合言葉」です。まずはこの3Sを徹底し、習慣化することで業務効率の第一歩になります。

「6S」

6Sには【作法(sahou)】が加わります。
「礼儀作法を身に付けることで行動として実践していくこと」という定義になっています。
働く人全員の態度や言葉遣いがきれいでその場に応じた適切な対応をとることによって職場全体が気持ちよくなり、職場環境の向上が期待されます。

「7S」

7Sというと、実は業界によって6Sから定義が違ってきます。
食品製造業界では、6S目が洗浄(Senjo)で7S目が殺菌(Sakkin)になりますが、物流業界では6S目が安全(Safety)で7S目が安心(Smile)です。もうSが付けば何ともという気もしますが、これはそれぞれの業界の実情に大きく起因することで増えたSです。
如何に各業界が業務効率化に取り組んでいるかということをあたらめて再確認させられます。
他にも先ほど6Sで紹介した作法(Sahou)と安全(Safety)を組み合わせたものがあったり、Sとしては、省エネ(Syouene)、サービス(Service)、しつこく(Shitsukoku)、しっかり(Sikkari)、節約(Setsuyaku)、創意工夫(Souikuhuu)が組み合わされていることがあります。尚、組織改革でよく使われる手法のマッキンゼーの7Sとはまた別の話になります。

「8S~10S」

ここまででSもほどほどにしてくれと思ってしまうほど多くの単語バリエーションが出てきていますが、実はこの先、8Sや10Sが存在する企業様もあります。ここまで来ますと、老舗のプライドや独自性を強く出したいといった意図も含まれてきているように感じます。8Sで有名なSは整備(Seibi)で、10Sともなると先ほどまで出尽くした単語を利用していますが、追加要素として見られるのは信頼(Shinrai)、スパイラルアップ(Spiral-up)という単語でした。

【まとめ】

どんなにSが増えようとも、基本となる狙い自体は変わらず、【職場環境を改善し、安全性を確保し、業務を効率化する】というところが目的となります。全ての働く人はより良い環境を求めています。3Sから始めるという企業様もあります。5S活動をやってみようと考えると行動も変わってくると思います。しかし、一人でやったとしても解決スピードが速まるわけではないですので、会社や部署など大きな単位で取り組むことによって、和を作ることが大事です。自らそれを作っていけるようだと、職場は美しく、楽しく、厳しく、業務に取り組める、気持ちの良い場所になっていくのです。

※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。