要約

  1. 忙しい介護現場のムリ・ムダ・ムラとは…そもそも論
  2. 3Mに対抗する5S
  3. 補助金を利用することもできるので早めに改善に着手して介護事業所を活性化しよう

ムリ・ムダ・ムラ。
介護業界で働く人であれば、現場で一度は聞いた事のあるお話です。
基本が対人業務ゆえに、人に接する業務は簡素化が極めて難しく、むしろ不可能であるという状況は全員一致の認識ではないでしょうか。

マンパワー不足が常態化している現場も多い業界の中で、そのような業務状況の中にあるムリ・ムダ・ムラ、いわゆる3Mをどのように解決したらよいのか、事例を含めて考えてみます。

【そもそも3M(ムリ・ムダ・ムラ)とはどうやって生まれるのか、またその意味】

ムリ・ムダ・ムラとは、「ムリ=業務負荷が能力を上回っている状態」「ムダ=業務負荷が能力を下回っている状態」「ムラ=業務負荷が担当者に属人的な依存をしていて作業や成果のクオリティーに差ができている」ことです。

ムリ・ムダ・ムラは3Mという言葉で一つにまとめられて表現されることが多いのは、これらはセットで改善することで業務効率化が可能となるからです。

例を「3つ」挙げて見ましょう。

「ムリ(無理)」

心身に負担がかかりすぎる作業や人手が足りない、いわゆる人材不足というのはムリです。

また、現場でムリがすぐに理解できるのはこんな例ではないでしょうか?

  • 人員配置1人の夜勤を昨日入職したばかりの未経験の新人に任せる
  • ハイエースのような大人数を乗せる車種での送迎で、先週免許をとったばかりの教習所の車以外運転したことのない職員に練習なしで運転させる(さらに雪道)
  • 日常生活でも白物家電とガラケーしか扱ったことのない職員に、今月から介護保険の請求業務を行ってもらう

「あー!これはとても無理だ!」と皆さん、ご納得でしょう。
経験の浅い人に対して、トレーニング無しでの急なお任せ業務。恐ろしい光景です。しかし、マンパワー不足の現場ではやむを得ず起こり得る可能性が全くないわけではありません。

これらは誰でも分かる極端な例にはなりますが、現場によっては分かりにくい形で存在している場合があります。日本人は奥ゆかしい方が多く、また、周囲を慮ることを重要視した教育を受けているため、声を上げることが難しいという方は少なくありません。
私だけが苦労しているわけではない、私だけが我慢しているわけではない、私だけが…

そのような形で追い詰められてパンク寸前…そんな方のお話は必ずどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?

「ムダ(無駄)」

指示待ち時間、重複した1つの業務、情報共有がなく何度も確認が必要になる事柄。
これらは、多くの人が、ムダだと感じることです。

しかし、ムダは当事者であれば意外にも気づきにくいことがあります。
ルーティン化している作業は、いつできたルーティンで、それはいつだったのでしょうか。
その作業は本当に必要なのでしょうか。
また、無駄だと分かっていてもそれを変えるために“考える”時間がないのではないでしょうか。

例えばこんな事…

  • 先日引退された方の業務を引き継いだ。この情報はみんなにとって大切なことなので、毎日必ず付箋に書いて申し送り台帳に貼りかえてくださいと言われた。
  • バイタル計測をする際に、利用者様のお名前と数値を記入する紙がある。作業しながらなので綺麗に書くのは難しく、全ての仕事が終わった後に別の紙に清書をしてからデータ入力担当に渡している。
  • 同時刻に別のサービス提供担当がサービス提供を終えてシステムにデータ入力する。自分も同時刻に終わるので入力作業時間が被ってシステム入力端末の譲り合いになり、片方が残業覚悟で作業している。

気付いていたら変える努力を…とは簡単には申し上げられません。というのも、毎日追い立てられるほどの業務がある現場では、代替案を示し実行することは非常に難しいからです。現場の人材、環境、予算、気持ち、今のルーティンを作ったのはどうにもならなかった結果の苦肉の策である可能性があります。

そこで、無駄をなくすという事は、ボトムアップでは非常に難しいことですので、上の方々が業務の内容や現状を知る必要があります。上の方々は自分の信念は一旦置いておいて、自分の熱い思いや「そうだと思う!」と考え付いた思い込みではなく、きちんと現状を現場の職員にヒアリングし、どうやったら改善できるのか、生産性向上につなげられるのか考える必要があります。

場合によっては現場の職員がもう効率の良い課題の解決策を思いついていて、考える時間が足りずに実行できないでいるだけかもしれません。また、「訴えの蓄積」が効くことがあります。これはボトムアップにはなるため現場によっては相当な時間がかかるかもしれませんが、「これこれこうだから困っている、こうすれば解決する」という話を上に相談し続けます。これは一人では難しい為、複数人で同じ訴えを行う必要があります。上の方は最初こそ、あまり話は聞いていないかもしれませんが、何回も言われると、「そうかな?優先順位高いのかな?」と考え直してくれる場合があります。そこにさらに「コスト改善」の話を追加できると、もっと話は通りやすくなる可能性があります。

「ムラ(斑)」

ムラとは、「業務負荷が担当者に属人的な依存をしていて作業や成果のクオリティーに差ができていること」と記述いたしましたが、これは現場こそが最も良くわかっている課題です。
こればかりは本部はリアルタイムでは簡単には気付けません。
品質のバラツキは現場の悩みです。

  • 現場をまとめるサブリーダーの介護福祉士Aさんは新人だが丁寧かつ仕事も決して遅くなく気も利いて間違いが少ない指示のため、実際の業務担当が作業するときにスムーズに作業できるが、ベテランでリーダーの介護福祉士Bさんは業務は非常に早いが指示が荒く間違いが多くて、実際の業務担当が利用者様に怒られることがあったり訂正ばかりしている。
  • 給食の調理場ではA調理師がリーダーとして調理した場合は揚げ物が非常に美味しいが人気の煮物の味がイマイチで食事を残す人が多い、しかしB調理師がリーダーとして調理した場合は揚げ物がイマイチだが人気の煮物が美味しい為に食事を残す人は少ない。
  • 送迎担当のAさんが運転する場合は利用者様からは何もクレームが出てこないが、Bさんが運転する場合、利用者様からは「あの人の運転する車は急ブレーキ多くて怖いんだぁ~」と不安を訴える声が多い。

ムラは人間がやれば絶対に出ます。
人には個性があり、性質も様々だからです。仕事への向き合い方にばらつきがあるのも仕方のない部分です。
ムラがないというのは何かというと、機械・ロボットです。
常に同じ行動を同じように繰り返しますのでムラなく均一に仕上がります。

つまり、介護業務でムラがないという状態は極めて難しく、実現するには人間だけでは不可能です。また、介護は個人の人生に大きく関与する仕事ですので、どんなに機械やロボットを取り入れたとしても導入には限界がある為、全てのムラを「無くす」という事は不可能です。ムラを「減らす」ということが努力するべき方向となります。

ロボットやICT導入を考えるのも大事ですが、定性的な物差しで考えていた業務をできるだけ定量的に考えて標準化してマニュアルを作成することは有効です。

【『5S』ムリ・ムダ・ムラを解消する手法とは】

5Sという言葉は聞いたことがありますでしょうか?
5Sとは、業務効率化の手法で最も有名なものです。
製造業にて生まれた5Sですが、介護業界でも業務効率化に役に立つ手法として多くの現場で取り入れられています。

「業務効率化と5S」

業務効率化とは、ムリ・ムダ・ムラを無くすことです。既存の業務上で非効率な業務を改善することで、現場の業務サイクルをスピードアップさせて業務効率を高めるとともに、負担の軽減による従業員の満足度をアップさせることができます。業務効率化は会社の経営状態だけでなく雇用の条件すらも改善することができるのです。

業務効率化において、多くの企業が取り入れているのが5Sです。
5Sとは、「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の頭文字をとった造語で、それぞれ以下の意味があります。

整理

「要るもの」「要らないもの」「すぐ要らないもの」に分けて、要らないものを徹底的に処分すること

整頓

必要なものをいつでもだれでもすぐに取り出せるようにすること

清掃

誰が掃除しても同じきれいな状態を維持すること

清潔

3S(整理・整頓・清掃)が標準化(ルール化)され、それが維持されている状態

しつけ(躾)

清潔な状態が習慣化して、当たり前になっている状態

5Sを明らかにするには、作業工程を5Sに基づいて徹底的に洗いなおすことが必要です。5Sの実施は目的ではなく、洗いなおした工程を改善することに意味があるからです。それには目標の設定が必要となります。5Sは全ての会社で同じではありません。各現場によって最適のノウハウが存在します。例えば【しつけ】を例にとると、使ったものは必ず30分以内に元の位置に戻すというルールを設けます。30分経っても戻らなければ、その時点でそれを利用した最終業務の人がルールを破ったことになります。元の位置に戻すということは、多忙な現場では出来ないこともありますが、必ず元に戻さなければならないルールが徹底して頭にあった場合は、30分は超えることもあるかもしれませんが、本人が気付けなくとも他の従業員が気付いて戻してくれる可能性が上がります。

5s活動、手順の例

※5Sについては「こちらの記事」をご覧ください

「ムリ・ムダ・ムラの削減は事務が一番手を付けやすい」

ケアマネジャーの業務を例に取ると、例えば利用者様のお宅へ定期アセスメントでご訪問する際に、いったいどれだけの書類・資料をお持ちになられておられるでしょうか。
介護サービスの利用期間が長ければ長いほど、その冊数はどんどん増えてはおられませんか?今は懐かしい、最盛期の電話帳サイズの厚みの資料を手にしておられませんでしょうか?それの印刷準備こそ、削減すべき事務作業の一つになります。

例えば「電子化」という施策でどのようなことが解決するかというと、まずは「クラウド型の介護ソフト」を導入できれば、持ち歩き可能な端末(スマートフォンやタブレット)を1台持って、ご訪問するだけです。必要な情報の帳票閲覧・入力は端末から行うことが出来ます。
電話帳なみの厚みの資料も印刷作業も、もう不要となります。

特別養護老人ホームで、急に容態が悪くなってしまった利用者様が居て、翌日担当がシフト上のお休みだった場合、出勤している職員へ何を使って情報を引き継ぎますか?
これは申し送りノートや台帳が一般的ですが、さらに介護記録を直接見るという方もいらっしゃるでしょう。別の冊子になっていませんか?
申し送りと介護記録が一緒に見られたら… これも介護ソフトが解決できます。「介護記録アプリ(iPadアプリ)」で申し送り機能と介護記録を一緒に確認できるソフトがあります。

「クラウド型介護ソフトケア樹」は介護記録アプリ(iPadアプリ)で、申し送りと記録の入力・閲覧ができます。
ケア樹公式HP|製品の導入を検討される皆さま

「ムリ・ムダ・ムラの改善に、使える補助金」

ムリ・ムダ・ムラの改善で、一番改善が分かりやすいのは電子化です。
情報共有も「記録が残らない電話」よりは「みんなで後から閲覧も可能なチャット」、バイタル計測も「何回もメモの転記が必要な台帳記入」より「デジタル計測で測ったそばから電子記録に自動転記」が明らかに効率は上がります。
しかしデジタル化を行うためには、資金が必要です。
小さな事業所で、その購入費を捻出するのは簡単なことではありません。
しかし、職員の負担は軽減できる、残業も減って生産性が向上してよい就労環境になるかもしれない…そうなった場合に強い味方が補助金です。
令和5年度までは自治体で受付をしていたICT導入支援事業がありましたが、令和6年度以降は現時点で引き続き政策として行われるか不明です。

・IT導入補助金

IT導入補助金は中小企業及び小規模事業者の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けたITツール(ソフトウェア、アプリ、サービス等)の導入で、サービス等生産性向上を目指した支援を行う補助金です。
通常枠、セキュリティ対策推進枠、デジタル化基盤導入枠という種類があり、そこからさらに分類があります。
こちらにより詳しい情報の記載があります。>>補助金についての詳細はこちら

【公式ホームページ】
・IT導入補助金2023公式HP(前期) https://www.it-hojo.jp/
・IT導入補助金2023公式HP(後期) https://it-shien.smrj.go.jp/

・ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革、被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するものです。
申請枠は通常枠、回復型賃上げ・雇用拡大枠、デジタル枠、グリーン枠、グローバル市場開拓枠の6枠です。
・ものづくり補助事業公式HP https://portal.monodukuri-hojo.jp/

「ムリ・ムダ・ムラな業務を減らしてよりよい介護の提供を」

介護分野における生産性向上について、厚生労働省は様々な取り組みを行っています。

「介護現場におけるICTの利活用」「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰・厚生労働大臣表彰」「介護事業所向け生産性向上ビギナーセミナー」「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」「介護分野における生産性向上の取り組みを促進するためのツール等」「介護分野における生産性向上の取組の普及啓発について」「検討会・調査研究」など多岐にわたります。

特にICTの利活用については多くの予算が割かれています。調査を通じて、例えば夜間帯・つまり夜勤の見守りには見守りセンサーの導入が心理的負担軽減とケアの向上に効果的であり、コミュニケーションにはインカムやチャットが、事務業務の効率化には介護業務支援システムの導入が有効であることが示されています。

国の方向性としても、就労人口の減少を受けて、人への負担を減らして介護業務を少ない人数で回せるようにしたいという思いは伝わってきます。その場合、介助などはどうしても人が行わなければなりませんので、一番白羽の矢が立ちやすいのは事務的な業務であり、属人的な部分を減らしていきやすいのもフォーマットが決まっている事務なのです。
職場環境を向上させることで、離職率の改善やケアの品質の向上、現場の活性化が望めるのです。

「まとめ」

ムリ・ムダ・ムラの3Mの対策には5Sの手法が有効ですが、この手法を例え用いなかったとしても、現場の状態を正しく把握し、適切に業務を分解して権限のある人が理解しながら効率の良い方法を探すというのは共通しているでしょう。忙しすぎるという問題を抱えている現場を抱える事業所様は補助金が出ているうちに検討し、業務改善をおこなってみてはいかがでしょうか。業務改善時には、一時的に現場の負担もありますが、改善の効果は「継続的な恩恵となる」ので離職率が減ってケアの質も上がれば、利用者様やご家族のみならず、地域の評判も良くなって良い事だけしかありません。

※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。