介護の地域連携についてICT化やDX化を考える時、困った問題の一つが【言葉の概念が違う】【言葉を統一できない】ということがあります。
例えばタブレットの活用に関して、介護記録を電子化しようと言った時に、介護業界からは「介護記録の電子化」という言葉になります。
しかし医療業界の方から見れば、それは「カルテの電子化」という言葉のほうが腹に落ちる言葉になります。医療の現場の方にとって「記録=カルテ」でありそれが最も馴染んだ言葉だからです。 カルテという言葉は、元々はドイツ語で、診療記録カード・診療録という意味で明治時代から日本の医療現場で使用されています。しかし、ドイツ語のカルテ(Karte)は単なるカードやクレジットカード、ハガキを指しますので特別「医療」に関する意味を持ち合わせてはいません。ドイツ語だと、診療記録カードのようなものは既往歴を記載するものとして、直訳すれば「病気にかかった歴史」になるクランケゲシュシテ(Krankengeschichte)か、フォレクランコンゲン(Vorerkrankungen)がそれにあたるようです。正直、どちらも日本人には難しい発音です。
医療と介護は違うという意見もあるでしょうが、厚生労働省は医療分野で適用されていた電子化のルールやガイドラインを介護分野にも適用しようとしています。
介護ソフトを扱う我々がなぜ医療の話から入るのかというわけは、 医療分野で適用されていたルールが介護分野にも適用されつつあるからです。
今回は医療現場において、【カルテから電子カルテへ】どのように移行しているのか、介護現場の方のご参考までに…と思い、調査しました。
【電子カルテとは】
「そもそも、カルテとは?」
まず我々が病院などで耳にする「カルテ」とは一体何でしょうか。 それは、医師が診療経過等を記録したものです。明治時代、「カルテ」は日本語では「診療録」と言われていました。明治政府がドイツの医療制度を取り入れたので、ドイツ語のカードという言葉がそのまま輸入されたのでしょう。
先ほども記述しましたが、ドイツ語での「診療録」に値する「既往歴」は、日本人には発音が難しすぎたためなのではないかと感じます。今はだいぶデジタル化してパソコンを打ち込んでいる姿が目に浮かびますが、まだまだ地域のお医者様はドイツ語で紙のカルテを書いていたりするのを今でも目にすることがあると思います。日本の現在の医療は明治時代のドイツが大きな影響を与えています。
さて現代日本に話は戻り、狭義の「カルテ」とは医師が書いたものだけを指します。しかし広い概念では、検査記録、手術記録、看護の記録などを含めた診療に関する記録の総称を指します。
カルテに記載する項目ですが、昭和23年に定められた医師法施行規則に、カルテに必要な記載事項として以下の4点が必須事項として定められています。
- 診療者の氏名・性別・年齢・住所
- 病名や主な症状
- 治療方法(処方や処置)
- 診療の年月日
法律上はこれ以上厳密な決まりはありません。
ですが患者の治療の目的という意味でほとんどの病院は似通った項目でカルテを作成しています。
具体的には、患者さんの基本情報・主な症状・現病歴(現症)・既往歴・家族歴・現症や身体所見・検査・理学的所見・治療方針等が主な記録項目です。
これは、健康保険法により定められた「保険医療機関及び保険医療担当規則」の第22条において診療録に対して“当該診療に関し必要な事項を記載しなければならない”と決まっているからです。
※書式に関してはダウンロードが可能な医師会のホームページもあるようです。
具体的には以下の内容をもってして「カルテ」と言えます。
・様式1号の1
受信者の基本的な情報、病歴などを記載するページです。氏名、生年月日、性別、住所、職業、被保険者との続柄 公費負担番号 第1公費及び第2項費の公費負担番号、公費負担医療の受給者番号 被保険者証欄。
・様式1号の2
診療歴カルテに該当するところで既往症欄 既往症、原因、主要症状、経過等、処置欄 処方、手術、処置等を記載します。
・様式1号の3
レセプトに連動しているところで、診療の点数を記載し種別、月日、点数、負担金徴収額、食事療養算定額、標準負担額等を書きます。
また、「カルテ」は5年間、その他の書類は3年間の保存義務があります。「その他」の記録、とは、検査記録やエックス線画像等になります。
「カルテの大事な役割」
この書式から、カルテには三つの大事な目的があるという大事なことがわかります。
一つ目は診療の経過記録です。医療行為の根拠となる検査結果、そこからの医師の判断、客観的な所見や診察の所見などを記載する「記録」という役割があります。
二つ目は保険請求の根拠となるということです。カルテの記録をもとに保険請求が行われるので 保険請求の妥当性を判断する根拠資料となるということです。別の言葉で言えば、様式3の記載がなければ、医療行為をしても、やっていないということになり保険請求はできないことになります。
三つ目は、患者の既往歴や病歴などを記載しているわけですから、究極の個人情報だということです。
つまりカルテは、医療行為という業務の記録とともに、医療機関を支える診療報酬の根拠書類でもあり、患者にとっては非常に大事な個人情報であるということも分かります。 医療訴訟などになった時の公的な書類という意味合いでも大変重要です。
「電子カルテ 3原則 ガイドライン」
このように非常に大事な公的書類であるカルテを電子化するしたものが電子カルテです。
電子カルテにおいても、フォーマットや様式は変わりませんので、電子カルテの記載方法や記載内容については、電子化しても変わるものではありません。
厚生労働省は、電子カルテを含んだ電子媒体の保存という意味において、「診療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を平成17年3月に定めました。その後改定を繰り返し、現在は6.0版が最新です。 ※2023年7月現在
このガイドラインに電子カルテが備えるべき三つの原則「電子保存の三原則」が定められています。
①真正性:虚偽入力や書換えの防止、作成責任者の明確化
虚偽のないものであるという事を保障しなさいという意味です。電子カルテでは ID やパスワードを知っていればアクセス可能なため、他人のIDを利用してカルテを書くことも可能になります。改ざんやなりすましの防止が求められます。記録の作成者を明確にすることやログを追跡できることなどが要求されます。
②見読性:必要に応じて肉眼で見読可能な状態の書面の形にできること
画像や文書か問わず、すぐに肉眼で簡単に見える状態にできることを保証しなさいという意味です。必要なタイミングですぐにカルテを文書で出力したり、モニター等で閲覧したりできることが求められます。
③保存性:データ保存の堅牢性、二重化
記録された情報が法令等で定められた期間にわたって保存されることを保証しなさいという意味です。病院システムにウイルスが侵入し病院内のシステムが全てを停止し、カルテが全て見えなくなくなってしまった事件が実際に起きました。適切にバックアップを取るなどの対策が求められます。記録媒体の劣化防止や、システム劣化によって情報が読み取れなくなるということも避けなくてはなりません。
「カルテの電子化を行う際の注意点」
今あるカルテを電子化するのであればデータの取り込みが必要になりますが、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版」の「9 診療録等をスキャナ等により電子化して保存する場合について」で詳細が規定されています。
※厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版
※参考資料:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版 Q&A
読み取る際の主な注意点は以下の通りです。
①スキャンの精度の基準
第3版までは300dpi、RGB 各8 ビット以上とされていました。しかし最近では安価なスキャナーでもこの程度のスキャン精度を持つものが多いので、最低限この程度の精度を確保して、あとは必要な運用規定を決めて運用してくださいと書いてあります。厚労省としては画一的な基準を設けているわけではないようです。
②保存する対象
カルテの他に、X 線CTの検査で、オリジナルの画像のほかに、オリジナル画像から生成した3D画像も使って診断している場合は、オリジナル画像から再現できないなら、それも電子化して残せと書いてあります。
②フォーマット
PDF(PortableD ocument Format)が最も一般的なだと考えられます。紙やフィルムの形で存在する場合には、スキャナで画像化することで可視化できますが、この場合にはJPEG(Joint Photographic Experts Group)、PNG(PortableNetwork Graphics)等の形式を利用することができます。これらのフォーマットは、PC に組み込まれていたり、簡単にダウンロードできるソフトウェアで、すぐに可視化することができます。
③改ざん防止のための措置
スキャナで読み取った際は、作業責任者(実施者又は管理者)が電子署名法に適合した電子署名・タイムスタンプ等を遅滞なく行いましょう。改ざんやなりすまし防止のためです。
④スキャンするタイミング
原則は1 日以内です。ただし、深夜に来院し、次の日が休診である場合等は営業日として1 日以内となります。
④紙の保存年限
電子署名・タイムスタンプ等を適正に行って電子化された文書の場合、法定保存年限を経過した文書については、スキャンされた原本は個人情報保護の観点に注意して廃棄しても構わないとしています。
⑤管理運用
スキャナによる読み取りに係る運用管理規程を定めること、及びスキャナにより読み取った電子情報と元の文書等から得られる情報と同等であることを担保する情報作成管理者を配置することを規定しています。
「電子カルテの導入状況」
電子カルテの普及は年々進んでいます。令和2年(2020年)の厚生労働省データによれば一般病院で56.7%であり、過半数の医療機関では電子カルテが導入されています。これを病床規模別に見ると400床以上では、実に91.21%、200~399床では74.8%、200床未満では48.8%、一般診療所では、49.9%となっています。
※出典: 電子カルテシステム等の普及状況の推移
つまり大病院では、ほとんどが電子カルテを導入している一方、小規模な病院、診療所では、電子カルテ 未導入比率は約50%で、まだ半分程度しか電子カルテは導入されていないという現状です。
中小病院、診療所で電子カルテ導入が進まない原因は、電子カルテというシステムが大規模病院向けに作られてきたことと関係があります。
当初電子カルテは、日本を代表する大手SIベンダーが中心であり、大規模病院向けの製品を提供していました。
病院の規模によって当然、必要な機能は異なります。中小規模の病院にとっては、大規模病院向けの製品は、使わない機能の多い高額システムであり、導入費用のハードルが高くなりがちです。
しかし、近年は中小企業やベンチャー企業も電子カルテ業界に参入してきています。小規模の診療所に使いやすい機能を搭載した製品も市場に出てきているため、今後は地域の小さな診療所にも電子カルテの普及が進むかもしれません。
電子カルテが、ソフト含めたシステムが高額であることの他に、電子カルテの普及が進まないもう1つの理由は、過去カルテのスキャンの問題です。過去のカルテを全て電子化する費用が膨大になってしまい、対応が取れないからです。
このような、電子カルテが進まない中小病院への対応も進んできています。電子カルテの導入に、過去カルテの電子化は必ずしも業務上必須ではないという医師の意見も多々あります。
最近では、電子カルテと手書きの紙カルテを、慣れるまでの間併用し、慣れてきたら電子カルテの移行する、という形をとる病院もあるようです。
「電子カルテとHIS(Hospital information system)の違い」
ここで、電子カルテ、レセプト、HIS(Hospital information system、以下HISと表記)と言う言葉の定義を再確認しておきましょう。レセプトとは医療機関が保険者に対して請求する医療診療明細書の事です。レセと略されることもあります。医療費は患者負担が通常3割ですが、残りの7割を、審査支払機関を通じて、健康保険組合等の保険者に対して請求します。審査支払機関は、レセプトをチェックし、問題がなければ、保険者に診療報酬が請求されます。これは介護保険で言えば、国保連への請求に相当します。
HISは上段で記載させていただいた様に医療情報システムの略称です。HISは、電子カルテをはじめ、オーダーエントリーシステム(医師や看護師が実施する検査や処方などの指示を電子的に管理するシステム。「オーダリングシステム」とも呼ぶ)、レセプトを含む医事会計システム、各診療部門システムを含む総称です。
電子カルテは、医療の記録を電子化する機能を担うものですが、医療現場のIT化の象徴のように認識されてしまい、往々にして電子カルテ=HISという誤解が生じてきました。
このような誤解を産むことになった原因は、医療現場のIT化のあゆみが関係していました。
電子カルテの誕生は以外に古く、1997年です。その後、2002年、医療のIT化推進のため、ORCA(日本医師会の日医標準レセプトソフト)が誕生しました。これはメーカー主導ではなく、日本医師会が会員である医療機関に対して無償公開したソフトで、いわゆるオープンソースです。当時としては非常に先進的な試みだったと思います。
この無償公開ソフトにより、メーカー側であるソフトウェアベンダーは、レセプトソフトを開発する必要がなくなりました。その結果、ベンダーは電子カルテの開発に注力することになります。
電子カルテとレセプトソフトが一体で提供されれば、カルテ入力のみならず診察受付や会計、領収書、明細書、処方箋発行など全ての操作を行うことができます。電子カルテで入力された内容が、レセプトに正しく反映されているか点検やチェックする必要もなくなります。
医療機関では、新しいシステム等の導入を推進する時に、院内に「~委員会」という名前をつけます。電子カルテを中心としたレセプトソフト導入を推進する組織に、判り易くするため「電子カルテ委員会」などという名前をつけたため、レセプトソフト等を含めたHISを「電子カルテ」という誤解が生じることになります。
その後、HISに求められる機能もどんどん増えてゆきました。検査や処方などのオーダーの指示を管理する機能や、自動受付システム、診療予約システム、RIS(放射線科情報システム(Radiology Information Systems:主に放射線機器による検査と、治療の予約から検査結果までの管理を行うシステム)等の専門診療科との連携等です。
このような経緯を経て、今日では、電子カルテとHISとは、区別され、電子カルテは記録部分を担う機能、という認識が一般的になりつつあります。
「電子カルテを跨いだ医療情報交換」
2つの異なる病院間で医療情報を交換する時のことを考えてみます。どちらも電子カルテを導入していますが、その電子カルテのメーカーが異なっていたら、医療情報の交換はできません。地域での医療連携を拡大するためにも、病院間での情報の受け渡しが必要になってきます。このような問題を解決するための標準規格が「HL7(Health Level 7)」です。
HL7は医療情報のうち文字情報に関する規格です。医療用画像データの規格はDICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine)規格となっています。HL7もDICOM規格も国際規格として制定されています。イギリス・カナダ・デンマーク・ドイツ・韓国など各国も、HL7を標準規格として採用しています。日本でも保健医療分野における厚生労働省標準規格として認められています。
HL7を作成・発行したのは、1987年に米国で設立された「HL7協会(Health Level Seven International)」です。この協会は、医療情報システム間での情報交換に用いる標準規約の作成や普及を目的とする非営利のボランティア団体です。日本をはじめ、世界各国に30以上の国際支部があります。
こうした標準規約に則って、電子カルテを跨いだ患者の情報の受け渡しが可能になりつつあります。
【電子カルテのクラウド化】
このようにして、電子カルテが徐々に普及してきたのとほぼ同じ時期、2000年に入り、3G回線の普及が進みます。それまでもインターネット上のソフトウェアサービスを使うSaaSという概念はありましたが、3G回線の普及で、インターネット回線が高速化、大容量化したことにより、どこからでもインターネット上のソフトウェア、画像や動画を見ることができるようになりました。
これに伴って、電子カルテがどのように変わっていったかを見てみましょう。
「オンプレミスからクラウドへ」
まず、電子カルテは院内設置型のオンプレミスから、クラウドタイプが増えてゆきました。従来は電子カルテの導入に必要なサーバなどをすべて院内に設置する必要がありました。この場合、ソフトウェアを購入すると同時に、ソフトウェアを動かすコンピュータとその周辺機器も全て購入しなくてはなりません。電子カルテの法定耐用年数は5年ですから、5年毎に電子カルテを買い替える必要があったわけです。ソフトとハード全て取り換えですから、少なくとも300~500万程の費用がどうしてもかかってしまいます。システムにカスタマイズが入ると億超えもあり得ます。
これは、病院側から見て大きな負担でした。クラウドにすることで、このコストを大幅に削減することができます。また、他にも
- 院内に設置場所をとらなくてもよい
- コンピュータのセキュリティー対策等のメンテナンス費用がない
の大きなメリット2点が生まれました。同時に、レセプト部分もクラウド化が進みました。
「専門化」
クラウド化によって、医療の細かい分野に対応したサービスが現れ、電子カルテの種類も多様化しました。
例えば、歯科・産婦人科用、眼科専用、精神科専用の電子カルテ、薬局専門の電子カルテ等です。
規模も、病院向けから、無床診療所向けのものまで、100種近くにも上ります。また、電子カルテをタブレット端末で利用することもできるようになり、電子カルテの入力を便利にするペン入力対応等も増えています。
「連携強化」
もう一つのクラウド化による大きなメリットは他の外部のシステムとの連携の強化です。院内設置型のオンプレミスの場合は電子カルテと予約システムをつなげようと思った場合、個別のソフトウェアの接続部分の改修が必要になり、その都度コストが膨らんでしまいます。
しかし、クラウドサービスの場合、ソフトウェアの接続部分を作りこめば、機能開放するだけでクラウドサービス契約者全員が使うことができます。新機能は契約者獲得にもつながります。結果として、クラウドの電子カルテのサービスと他のサービスと連携は進めやすくなります。
典型的な例が、医事会計部分を担う日医標準レセプトソフトのクラウド版と電子カルテ部分の連携です。日医標準レセプトソフトは既に30を越える電子カルテと連携しています。
厚生労働省の健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」で、この地域連携については、議論が継続されています。
地域連携の究極の目的は、地域の診療所と病院間で、紹介状やカルテ情報のやり取りやインターネットなどを介した予約等を行えるようにし、1人の患者で1つのカルテを実現することですが、残念ながら、はかどっているとは言えない状況です。
先に述べた「HL7」という規格を用いて、まず、医療機関同士などでデータ交換を行うための規格を定め、次に標準的なデータの項目を含めた医療情報基盤の有り方や、具体的な電子的仕様を定めるというステップに進みますが、目下検討中という状況のようです。
「今後の“電子カルテ”市場」
このように、電子カルテは、地域医療連携や地域包括ケアの推進の流れを受け、さらに市場は拡大するとみられます。中小規模病院、診療所はまだ50%程しか電子カルテは導入が済んでいないことからも、日本国内では、電子カルテはまだ市場の伸び代があると見込まれています。
しかし、様々な市場規模予測では、大規模医療施設への導入はほぼ終わっていること、一方で中小病院を中心にクラウド型へのシフトも進んでいることから伸びは緩やかとなり、2024年をピークに、市場は縮小に転じると推定されています。
海外に眼をむけると、2021年から2027年の予測期間において、5.0%以上の健全な成長率が見込まれているような記述もありました。
このような中、2022年3月、googleが、米国米医療IT大手メディテック(MEDITECH)と臨床向け統合ソリューションの開発で提携すると発表しました。医療部門「グーグル・ヘルス」が手がける医療データプラットフォーム「ケア・スタジオ(Care Studio)」の検索機能を、メディテック(MEDITECH)の電子医療記録に組込みます。このように、全く異業種であるGoogleの強力な検索能力、情報整理力で、既存の医療IT業界全体の「破壊」にもつながる可能性があります。
【電子カルテの介護事業への影響】
電子カルテ三原則の項で、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版」について述べました。この「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、当初は医療機関において法令に保存義務が規定されている診療記録の電子媒体による保存や、個人情報保護のため情報システムの運用管理についてのガイドラインでした。
その後、情報管理に関する法令やIT関連の施策ができるたびに改定が行われ、新たに改定され続けています。
ご紹介した第5版は、e-文書法や個人情報保護法の踏まえた改定が行われ、医療機関のみならず、介護事業者や地域医療連携ネットワーク運営事業者も、このガイドラインの対象となり、医療機関と同等のセキュリティー対策を施す必要が出てきました。
つまり当初医療機関のために定められていた情報システムの運用管理ガイドラインが介護事業者も適用されるという形になってきています。
前章で述べた、電子カルテ3原則の確保は、介護事業者にも求められることとなりました。
これ以外に、医療情報システムに関する詳細な規定も盛り込まれています。具体的には
- 情報漏洩のリスク分析を行う
- 端末自体の起動パスワード等の設定は必須、二段階認証が望ましい
- 患者の情報が端末に含まれる場合には暗号化が必須
- 個人が所有する端末の実質禁止
などです。
ガイドラインには、法的拘束力はありません。すなわち、守らなくてもそのこと自体に罰則が課されることはありません。しかしこのガイドラインが個人情報保護法や e-文書法を踏まえて作成されているので、こういった法令に抵触して罰則が科される可能性はあります。
「客観的視点からみた事例:後発のクラウド型介護ソフト「ケア樹」の取り組み」
このような医療関連の規定が介護分野にも適用されているという流れを受け各介護ソフトベンダーは既に対応をとっています。
例として、クラウド型介護ソフト「ケア樹」の介護記録は、バイタルデータの計測が可能なシステムと連携しており、体温、血圧、脈拍等を、計測するだけで記録できるようになっています。また、連携システムによってはグラフ作成までを自動化します。このような日々のバイタルデータは介護記録に欠かせないものですが、これらのバイタルデータの通信は暗号化されて送信され、保管されています。
真正性の確保に関しては、「ご利用いただく事業所様は、ご利用されるスタッフ様全てにアカウント発行をして名前が記録に残る」ようになっていると説明がありました。また、事業所から依頼された場合はシステム側で削除や書き込み履歴をさかのぼる事も可能です。
見読性の確保は過去に日本全国3400以上の事業所様がご利用いただいて、そのすべての事業所様において、監査を通過しています。
保存性の確保については、クラウドにて、常にデータをバックアップして保存しています。万一データセンターがサイバー攻撃等でアタックされた場合でも、データを直ぐに復元できます。データセンターはAWSという大手の金融機関も利用している世界的かつ大規模なものであるため、セキュリティーは個別の小さな企業が対策するよりも非常に強固・確実です。また、解約された事業所様のデータについても、一定の年限ならば、データを復活させることができます。
また、同製品はより質の高い提案を行うため、APIを準備してオープンな姿勢で協業を行えるパートナーを求めています。ホームページを見る限り、実際に毎年多くの製品とのデータ連携が可能となっています。
【まとめ】
ここまで電子カルテが今の環境にある経緯や、普及の状況、厚生労働省の検討状況等を見てきました。
医療分野から、医介連携、地域包括支援等の流れを見ると、電子保存の三原則にみるように、今後医療分野で適用されてきたシステム上の規制や制限等は、介護事業の介護記録にもそのまま適用される可能性は十分あります。
カルテとはそもそも「医療の記録」であり、最も大事なのは、記載された「中身(データ)」であるはずです。
カルテの電子化の究極の目的があるとすれば、それは医療情報の流通だと思います。この個人情報が声高に叫ばれる時代、過去に自分がお世話になった全ての医者に、自分の診療記録がバラバラに保管されているということ自体、考えてみればおかしなことです。 そして病院を転院する都度、自分のレントゲン画像データを CD-ROM に持って移動しなくてはならない。 これもインターネット時代においては、不自然なことと言わざるを得ません。
記録に記載された「中身(データ)」をどうやって地域の関係者と共有して、一個人の生涯を通して医療や介護などの質、人生のQOLを上げるかが最も大切だと考えます
もう一つ、電子化の究極の目的は、 データの蓄積です。データの蓄積から、今後生じる可能性のある「リスクの予測」を導き出すことができれば、介護事業所が、介護利用者や介護する家族に対して、 もっと付加価値の高い提案ができる可能性があります。
超高齢化社会の中では、医療と介護の連携や、地域包括での情報連携等は今度益々重要になってくると考えられるのです。今後しがらみを全て取っ払ってカルテと介護記録が連続したデータとして個人やそのご家族が確認できるようになる時代は来るのでしょうか?
上尾 佳子
合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身
バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係のサービスを運営中。