日本の高齢化は世界に例を見ない速度で進行しており、介護サービスや介護施設などの需要が高まる一方で介護人材不足が深刻化しています。
継続した介護サービスの提供に不安を抱える事業所様も多いことでしょう
そんな状況の中、介護分野の人材確保、限られたマンパワーを有効活用する解決策の一つとして、高齢者の自立支援をサポートし、質の高い介護の維持向上を実現するため、介護ロボットの活躍が期待されています。
しかしそもそも介護ロボットとは何でしょう。
介護ロボットとは、一体どんなものでどうやったら導入できるのか、そもそも導入する意味があるのかとお悩みの事業者の方は多いのではないでしょうか
今回は介護ロボットについて導入に不安を抱える介護サービス事業の方に向けてこの記事をまとめてみました。介護ロボットに関する政府の取り組みや介護ロボットの定義、介護ロボット導入の費用、補助金の対象になるロボットなどについての現状を整理します。
2018年度から「ロボット介護機器開発・標準化事業(3ヵ年計画)」がはじまり、国の支援を受け多くの介護ロボットが登場することになりました。まだまだ歴史の浅い介護ロボットの市場は他のロボット市場と比べても立ち上がったばかりと言えます。メーカー側もより良い製品を作るために介護現場への導入結果を検証しながら試行錯誤している段階ですが、その中で多くの成功事例も現れています。
この記事が介護事業所・介護施設様の介護ロボットの検討や選定に少しでもお役に立てばと思います。
【介護ロボットとは】
・そもそも、ロボットとは?
介護ロボットの前に、まずロボットとは何でしょう。
「ロボット」は、チェコの劇作家カレル・チャペックが作った造語です。その後、1950年にSFの大家アイザック・アシモフがSF小説「われはロボット」を発表しました。ロボット三原則が書かれたのもこの本です。アシモフ以降の SF を通じてロボットというのは、
- 機械でありながら生き物に似た外見を持ち
- それ自体で自立して行動するもしくは複雑な動きができ
- 人間の代わりに作業や労働をする
というイメージで認識されてきました。
20世紀後半、コンピューター、メカトロニクスの技術、画像認識技術が発達します。この頃のロボットと言えば、ソニーのアイボでしたが、犬型をしていました、
そして21世紀に入りAI が発達したことにより「自律的に動く」「自動的に複雑な作業ができる」という所に力点が置かれたロボットが作られるようになってきました。
「生き物に似た外観」というところは重視されなくなり、人間の代わりに自立して特定の複雑な作業をやってくれる自立型のロボットが登場します。いわゆる産業用ロボットや軍事用ロボット、身近なところでは掃除用のロボットなどがあります。ロボットと言っても人型をしているロボットでばかりではありません。
特定の複雑な業務に、自律的に動き人間の作業や労働を助けたりできればよいわけです。ロボットには明確な定義はないと言われていますがまさにその通りです。
・介護ロボットの定義
では、介護ロボットとは何でしょうか?
一口に、医療介護の現場でのロボット活用と言っても、まず医療分野と介護福祉分野で、ロボットに求められる役割というのは全く異なってきます。
同様にリハビリを重視する介護施設での業務と、認知症ケアを行う居宅介護サービスの業務とではロボットに求められることは当然違ってきます。
厚生労働省が定める介護ロボットの定義とは、
- 情報を感知(センサー系)
- 判断し(知能・制御系)
- 動作する(駆動系)
この3つの要素技術を有する、知能化した機械システムです。
このうち、ロボット技術が応用され利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器を「介護ロボット」と呼んでいます。 介護ロボットが備えるべき要件や厳格な仕様が決まっているわけではありません。
・介護ロボット:政府の取り組み
介護ロボットの開発については平成24年度から経済産業省、厚生労働省が連携して取り組んでいます。
また、経済産業省と厚生労働省は、【開発重点分野】を定め、その重点分野に対して、様々な介護ロボットのモデル事業を定めて開発・製品化を推進しています。
ちなみに、経済産業省が定める介護ロボットの定義を探しましたが、簡単には見つかりませんでした。
これまで2つの省庁が行ってきた介護ロボットに関する国の政策はこちらにまとまっています。
・WAMNET 介護ロボット関連情報|介護ロボットに関する国の政策
経済産業省は、民間企業に介護現場や高齢者のニーズを踏まえた安価な機器開発を支援、厚労省は介護現場のニーズや施策聞きについて現場でのモニター調査や試作機器評価に協力するという役割分担になっています。
今後の高齢化社会を見据えた政府の危機感がいかに強いかがよくわかります。
平成24年度には介護ロボットの開発支援を行う4分野5項目が決められましたが、平成29年度に「ロボット技術の介護利用における重点分野」として、6分野13項目に拡大されています。
【介護ロボットの種類】
こちらでは、具体的にどんなロボットがあるのかを見てゆきます。前章で述べたとおり、「ロボット=生き物形」とは限りません。素人眼には、「これはロボット?」と思われるものも含まれています。
・6分野13項目の介護ロボット
6分野13項目の重点分野ですが、介護に関わる方であれば一度はご覧になったことがあるかもしれない有名な図になります。今回転載許可を頂きましたので、改めてご確認ください。
1.移乗支援
装着型 | 介助者が装着して用い、移乗介助の際の腰の負担を軽減する。 介助者が一人で着脱可能であること。 ベッド、車いす、便器の間の移乗に用いることができる。 介助者の腰痛予防のために装着する機器で、マッスルスーツ型、パワースーツ型のロボット。 | |
非装着型 | 移乗介助のための介護ロボットで、ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作等をパワーアシストで支援する非装着タイプのロボット。 移乗開始から終了まで、介助者が一人で使用することができる。 ベッドと車いすの間の移乗に用いることができる。 |
2.移動支援
屋外 | 高齢者等の外出をサポートし、 荷物等を安全に運搬できる ロボット技術を用いた歩行支 援機器。 歩行アシスト系の介護ロボット。 | |
屋内 | 高齢者等の屋内移動や立 ち座りをサポートし、特にト イレへの往復やトイレ内で の姿勢保持を支援するロ ボット技術を用いた歩行支 援機器。 椅子からの立ち上がりやベッドからの立ち上がり支援や、トイレでの転倒防止をするもの。 | |
装着型 | 高齢者等の外出をサポートし、 転倒予防や歩行等を補助す るロボット技術を用いた装着 型の移動支援機器。 |
3.排泄支援
排泄物処理 | 排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調整可能なトイレ。 | |
トイレ誘導 | ロボット技術を用いて排泄を予測し、的確なタイミングでトイレへ誘導する機器。 | |
動作支援 | ロボット技術を用いてトイレ内での下衣の着脱等の排泄の一連の動作を支援する機器。 |
4.見守り・コミュニケーション
施設 | 介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム。 | |
在宅 | 在宅介護において使用する、転倒検知センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム。 自発的に助けを求める行動(ボタンを押す、声を出す等)から得る情報だけに依存しないタイプの見守り支援機器。 | |
生活支援 | 高齢者等とのコミュニケーションにロボット技術を用いた生活支援機器。 在宅または介護施設での利用を想定。 |
5.入浴支援
在宅または介護施設 | ロボット技術を用いて浴槽に出入りする際の一連の動作を支援する機器。 在宅または介護施設での利用を想定 |
6.介護業務支援
- | ロボット技術を用いて、見守り、移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者等の必要な支援に活用することを可能とする機器。 |
こちらのサイトに、6分野13項目それぞれに対応した製品がまとめられています。
・国立研究開発機構日本医療研究開発機構「介護ロボットポータルサイト」
経済産業省からも、製品化されたロボット機器の一覧を公開しています。
・ロボット介護機器開発・導入促進事業製品化機器一覧
・6分野13項目に含まれない介護ロボット
現在のところ、平成25年の重点施策が始まる前からあり、既に製品化されていて市場で販売されている介護ロボットは6分野13分野には含まれていません。例えば
- 犬、猫、アザラシ等の癒し系で利用者の気持ちの安定につながるようなロボット
- 介護ロボットで施設のレクリエーションだけに役立つもの
- 介護ロボットでも薬、投薬管理に関係するもの
ロボットポータルで公開されているものは既に開発が製品化、または完了・中止したか、開発中のものなので今後こういった分野で新しいロボットが出てこないとは限りません。6分野13分野というのも時代によって変わっていくと思います。これらの分野については引き続き注視したいところです。
【介護ロボットの導入事例】
・介護ロボットの導入事例と効果、メリット
※北九州市HP参照
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/ho-huku/31600082.html
こちらは令和3年11月に315箇所介護施設にアンケートを取った結果です。
これを見ると、9割近くの施設が導入した効果ありと回答しています。効果なしを分析すると、補助金によって移乗支援機器を導入した施設が多かったと報告されています。
また、介護ロボットポータルサイトから、実際に市場化された製品を中心に、導入事例を公開しているメーカーの実用事例がありましたのでご紹介します。
「次世代予想型見守りシステム「ネオスケア」により、介護従事者の負担を大幅軽減」
これは、前項で述べた6分野13項目の内、介護施設見守り型ロボットに相当します。
【背景】
高齢者介護施設における転倒事故は、解決すべき課題の上位を占める重要なインシデントです。その予防策として、施設では、ナースコールや離床センサーの導入による見守りを実施してきましたが、それらのセンサーでは即時性や、検出精度に問題があり、十分な見守り効果を発揮することができず、導入しても介護職員の負担は軽減しませんでした。特に、介護スタッフの人数が減る夜間の見守りの負荷軽減が大きな課題となりました。また、スタッフの業務負荷増による介護サービス品質の低下も問題視されるようになってきました。
【アクション】
そこで、転倒につながる危険な動作だけを正確に、素早く検知することができる「予測型見守りセンサー ネオスケア」を導入しました。「ネオスケア」は、3次元電子マットシステムを用いたきわめて精度の高いセンサーで、離床につながる「起き上り」「端坐位」などの動作を、正確に素早く検知し、介護スタッフのモバイル端末にシルエット画像の映像で通知します。
介護スタッフは、その画像を見て訪室の必要性の判断ができるため、本当に危険な状態のときにだけ訪室することができ、訪室回数を減らすことができます。
【結果】
ネオスケアの導入により、転倒事故・ヒヤリハット報告が約半数に減らすことができました。介護スタッフの業務負荷(作業動作/歩行距離)も約3割削減することができました。また、検知したシルエット画像がアーカイブされており、ご家族への状況報告の際やヒヤリハット報告や事故報告書作成などの際にも、有用に利用でき、ケアの品質をアップさせることもできます。
⼊居定員100 名規模の施設では、定時巡回以外の事故予防目的の巡回回数を3割減らすことに成功しています。また、検知により適切なタイミングで訪室し、必要なケアを実施できるようになり、ご利用者の安眠が妨げられることがなくなりました。
同時に録画では、利用者様への職員の良い行動やよいケアも見れますので、これが職員のモチベーション向上にも繋がっています。副次的な効果としてとして職員との会話の中である利用者様が大体何時ぐらいにトイレに行くからそれに対応するケアの時間割を作れて、時間的な余裕ができたというような話も出ています。
この製品に関するその他の事例は、こちらをご覧ください。
・介護ロボットの体験試用
介護ロボットを導入する前に、実際に見てみたい触ってみたいと思った時、メーカーに聞かずとも常設展示施設があるのはご存知でしょうか。
できれば貸出してもらいたいとお思いの場合もあるでしょう。常設展示施設の中には貸与が可能な施設もあるようです。
ただ、もしもこちらの記事をご参考にご見学に行かれる場合は必ず、ご希望の行き先について事前に最新情報をご確認ください。※こちらの記事は2023年7月時点のものです。
https://www.techno-aids.or.jp/
【介護ロボットの補助金】
介護ロボットを導入するために使える補助金はどんなものがあるのでしょうか。
介護ロボット取り巻く補助金は大小様々なものがあります。
大別して、メーカーが製品を開発するための補助金と介護施設が導入するための補助金があります。
介護施設が介護ロボットを導入するための補助金は、厚生労働省の通達で、各自治体から出ているものや、外郭団体やその他団体に出ているものもあります。
ここでは介護施設等に対する介護ロボットの導入補助金について見てみます。
「介護ロボット導入支援事業」
厚生労働省が地域医療介護総合確保基金を通じて実施する支援事業で、ズバリ、介護ロボットを活用して介護事業所の生産性向上させ、ケアの質の維持・向上や職員の負担を軽減するための補助金です。
この事業の実施主体は都道府県になります。
都道府県によって公募時期がバラバラで、要項や条件もそれぞれ異なっていますので、一律に「これが絶対に対象です!」「何月までに環境の準備しておいてください!」とは言えるものではありません。
しかしながら、それらの要項や条件をクリアしやすいものとしては、前段で申し上げた重点項目である6分野13項目に該当する機器であることが多くなっています。
補助率は、国が2/3を負担都道府県が1/3を負担し介護施設や事業所に補助するという仕組みです。
ただし実施主体は都道府県なので、都道府県の裁量により補助率も異なっている可能性があります。補助金申請には実施する自治体への確認が必要です。
県によっては無料のオンライン動画の受講等の導入支援研修が義務付けられていたりすることもあります。
導入補助率、募集期間などの詳細は各都道府県の事務局にお問い合わせください。
【これからの介護ロボットに求められる機能と役割】
介護ロボットは多種多様で重点項目の定義はあるもののそれにこだわらなければ幅広い製品開発の可能性があることがわかりました。
介護ロボットをものづくりの観点から見ると、必ずしも医療規格でなくても良いので法規制による制約が厳しくなく、新しい発想の新しい仕組みを作りやすい状況にあると思います。では介護ロボットに求められる機能や役割はどうあるべきなのでしょうか。
まず第一に介護の現場が使いやすいものを作るべきです。特に安全面や取り扱いの簡単さ、 直感的に使いやすいものを作るというデザイン発想が必要です。
介護事業所や介護施設が介護ロボットを導入する目的としては、人手を直接減らして生産性を上げるだけということでは動機づけは物足りないと感じます。、ケアの質を上げる支援をする、利用者様に寄り添った、「より利用者様の快適な生活に役立つ」という視点の切り込みがもう少し必要なものもあるように感じます。
ロボットの技術というものは年々進化していきます。現在は無理だと思ったことも数年後にはロボットや AIで実現可能になる可能性は大いにあります。
ですから、介護現場で機械に代替えできるような反復動作ルーチンは何か、逆に何があってもこれは人間がやるべきだと言う仕事の”ポリシー”を考え、メーカーに伝えることは、今後とても大事になってくるのではないでしょうか?
もう一つ感じたのは、ロボットから収集したデータの活用はまだそれほど進んでいないということです。
個人の体調管理や生活リズムのデータが連続的に取れて、一つのロボットからではなく、様々な危機からの情報を総合的に確認できるようになることで必要な支援の予測が可能になり、利用者様ご本人の自立度向上につながるはずです。
そして現場でケアを続ける介護従事者の方も、それであれば気持ちとして新しい機器を受け入れることがやりやすくなるのではないでしょうか。
「生産性中心」から「利用者中心」というような視点が業界に広がれば、介護ロボットはもっと現場に受け入れられ、その未来は明るいと思います。
※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。
上尾 佳子
合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身
バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係のサービスを運営中。