【介護SaaS(サースもしくはサーズ)】という言葉を聞いたことがおありでしょうか。

SaaSとは「software as a Service」の略称です。直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」 という意味になり、ベンダーがソフトウェアの提供をインターネット上で完結して行うサービスです。

利用者がソフトウェアをコンピューターにインストールせずに、インターネット上でどこからでも利用できるようにするというものです。

介護SaaSとは、介護で使うソフトウェアをクラウド経由でどこからでも利用できるようなサービスを指します。

この介護SaaS、今は山ほど種類があります。ありすぎてなんだかよく分からないという方も多いのではないでしょうか。

今回は介護SaaSとは何か、何を選んだらいいのかそもそも選んでいいものか、よく分からないという方のためにこの記事をまとめてみました。

こちらの記事では介護SaaSの大まかな種類や、なぜ今、介護SaaSが注目されるのか、大まかに一通りご理解いただけると思います。

この記事がお客様の介護ソフトの選定に少しでもお役に立てばと思います。

【SaaSとクラウドの違いとは】

まず、「これって同じなの?それとも違うの?」ということは、単語が別であるゆえに感じてしまう部分があります。様々な商品の説明を見ても、同じような内容で書かれていて、何が違うのだろうと感じておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

まず、意味の広さで言うと、
クラウドとはクラウドコンピューティングを略した言葉で、
クラウド > SaaS
と言えます。つまり、SaaSはクラウドの中の一部を指します。

クラウドには実は3つの種類があり、その中の一つがSaaSです。

※この記事では他の二つ(PaaS、IaaS)の説明は省きます。
SaaSとは、一般の方がそのまま使える状態でクラウド上にて提供されているソフトウェアで、インターネット環境さえあれば端末の環境に依存せずに誰でも使える仕組みです。

【介護SaaSの種類】

介護SaaSとは介護ソフトをクラウド上で提供できるようにしたもの、というご説明をいたしました。介護SaaSと言うと、今はやはり介護ソフトや介護システムが筆頭に来るでしょう。

では一口に介護ソフト、介護システムと言いますが一体どれぐらい種類があるのでしょうか。

代表的な「介護ソフト、介護システム」といえば介護業務に無くてはならない「介護保険請求ソフト」がありますが、その他にもご利用者様との情報交換、情報共有のためのソフトウェアまでありとあらゆるソフトが含まれます。入居型の施設で使われるものと、居宅サービス中心で使われるものなど多岐にわたります。

一説によると100種類以上ということを聞いたことがあります。

しかし、HCRや介護・看護EXPO、CareTEXなどの展示会等に何度も通って情報を集めてゆくにつれ、介護ソフトもしくは介護システムといった場合、大きく以下の四つに大別できるのではないかと考えました。

  • 介護保険請求関連
  • 介護記録関連
  • 見守り検知関連
  • 介護情報共有

1.介護保険請求関連

介護保険という制度ができてから、まずこの介護保険請求のソフトウェアができました。介護ソフトの中では一番古くからあるジャンルです。介護給付費の請求、利用者様へ介護サービス費の請求に関わるもので、介護保険制度に則ったサービスを提供する入居施設系、居宅系どちらにも必ず必要になります。

2.介護記録関連

日々の介護のケア記録を支援するためのソフトウェアです。導入が少しづつ増えてきています。記録の入力を手書きですると、思いのほか時間がかかり、本来の介護ケアの時間以外の事務作業時間が発生してしまいます。この事務作業を軽減させることができるため、業務の効率化を実現しやすいソフトウェアです。 スマホアプリからの入力や音声入力など、いつどこからでも記録が取れるようなタイプのものがあります。介護保険請求と連動できるものもあり、入居施設系、居宅系どちらにも必要になります。

3.見守り検知関連

居宅型よりも入居施設型で主に使われることが多いです。 カメラやセンサーなどと連動しご利用者様の異常を検知したり、夜間巡回業務を効率化したりするためのものです。
異常検知する端末、検知の信号を通知するネットワーク、集めたデータを一元管理する管理システム、という構成が一般的です。端末から収集したデータをクラウドに集め、解析して予測等に役立てる種類のサービスは、クラウドSaaSとして提供されています。

4.介護情報共有

事業所内でのチーム内での情報の引継ぎや、社内での緊急時の連絡等に使われます。地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、居宅サービス事業所などケアを提供する関連者同士で情報を共有したり、場合によってはご利用者様との間のコミュニケーションを図るために使われることもあります。入居施設型、居宅型どちらでも利用されます。

この四つのジャンルの中でもかなり多様なサービスがあります。

またこれらの四つのジャンルのソフトウェアは、はっきり明確な区別があるわけではなく、1つの介護SaaSが、複数の機能を持つものもあります。例えば、介護記録と情報共有を併せ持つ、というタイプです。

相互に連携して動くものもあります。 典型的な例は、介護記録関連のソフトウェアから、介護記録のデータがそのまま、介護保険請求と連動できるというものです。

【介護SaaSが注目される理由】

ではなぜ今、介護SaaSが注目されているのでしょうか。介護SaaSが現れるまでの背景とSaaS(クラウドサービス)のメリットを見てみましょう。

・介護保険の開始当時のネット環境

介護保険は平成12年2000年にスタートしました。この当時、SaaSという言葉もクラウドという言葉も一般的ではありませんでした。

ただ、当時からソフトウェアをインターネット経由で利用してもらう形態はありました。これはアプリケーションサービスプロバイダ(ASP)と呼ばれていました。

しかし、2005年頃ブロードバンドが普及し、光回線で大容量の通信が可能になります。また、Webアプリケーションの技術が向上したことによって、2006年頃には当時のGoogleのCEOエリック・シュミットらが、SaaS、クラウドという言葉を使い始めます。

この頃からクラウド、SaaSという言葉が一般的になってきます。

ではクラウドが一般化する前までは、ソフトウェアはどのような形で提供されていたのでしょうか。

オンプレミス(On-Premises)という形態が主流として提供されていました。オンプレミスとは、サーバーやソフトウェアなどの情報システムを、使用者が管理している施設の構内に機器を設置して運用することです。プレミス(premise)は「構内」「店内」という意味です。

工場にある生産設備と同じで、ソフトウェアとコンピューター、サーバーなどのハードウェアをまとめてセットで購入し、 自分たちのオフィス内に設置して自社で運用するという形態です。 前述のGoogleの元CEOエリック・シュミットも、当時有名はオンプレミス型のサーバーソフトウェア ノベル社のCEOでした。

オンプレミスの場合、ソフトウェアはパッケージライセンスという形で提供されることが一般的です。ライセンスの価格含めた利用条件はメーカーによって異ります。サーバーの減価償却期間は5年間なので、ソフトウェアのライセンスもこれと合わせて5年間という場合が多くなっています。

つまり、ソフトウェアの利用権を5年間分買い取るという形ですが、これは全てオンプレミス型という提供形態からの名残です。

SaaSやクラウドという提供形態が現れるまでは、情報システムやソフトウェアはこの形でしか提供することができませんでした。

2005年以降、ブロードバンドとスマホが普及するにつれ、近年ではスマホアプリからクラウドを使うということも一般的になりました。スマホでアプリを使っているときには、意識せずにクラウドを使っているということも多くなりました。

・SaaSの3点のメリット

1.圧倒的な価格の安さ

なぜSaaSやクラウドはオンプレミスと比較して安いのでしょうか。

大きな理由は、販売後のソフトウェアのメンテナンスの手間がオンプレミス型に比べて圧倒的に少ないということにあります。

業務用のソフトウェアは無事に使えて当たり前という性格のものです。 しかし、実のところ、ソフトウェアをコンピューター上で不具合なく動かすためには常にソフトウェアのプログラムを追加・変更したり、修正したり、不具合を直し続けたりと、非常に人手をかけなければならないのです。永久的にいたちごっこのようなセキュリティ対策に関しても常に確認して必要とあれば定期的にアップデートを行う必要があります。

メンテナンスしたソフトはどうやって配るのか。オンプレミスの場合、提供した顧客先ごとに、すべての端末でソフトウェアの入れ替え作業を行わなくてはなりません。

売れていれば売れているソフトウェアであればあるほど、販売後の顧客のシステムのメンテナンスは膨大な手間になります。

一方、クラウド上にソフトウェアがあるSaaSの場合は、ソフトウェアのバグや修正が発生しても修正はクラウド上の一か所で済んでしまいます。また、新しい機能を追加するのも簡単にできます。

この人手による維持管理費用の差が、そのままソフトウェアの利用料に反映されます。

またオンプレミス型の場合、まずソフトウェアと同時にソフトウェアを動かすためのサーバーを購入する必要がありました。よって初期費用は、どうしても高額になります。

しかしクラウドタイプの場合、 ソフトウェアも、ソフトを動かすサーバーも全てインターネットを介したクラウド上なので、インターネットにアクセスするブラウザがあれば、ソフトを利用できます。 機材面から見ても、初期費用が非常に安くて済みます。

その他、新規参入の介護ソフトベンダーの多くがインターネットによるメーカー直販での販売形態を取っていることも低価格化の要因と考えられます。

2.導入のしやすさ

クラウドシステムは利用者側でのパソコンへの初期設定がほとんど不要で提供が簡単であるため、手軽に無料でお試し利用ができる場合も多く導入を検討しやすいです。

また、SaaSやクラウドの場合、ハードウェアの購入がなくシステム利用のみの契約になることが多く、月々の利用料金という形ですので、5年という減価償却期間を気にせず、ソフトウェアを解約・変更することができます。

ただしSaaSやクラウドを解約したあと、、これまでの過去のデータを保持できるかどうかは提供されるサービスによって異なりますので確認は必要です。

3.データ活用の可能性

毎日、業務でソフトウェアを使っていると、利用履歴等のデータが自然に蓄積されていきます。

オンプレミス型の場合、購入したサーバーの容量には限界があるため、過去のデータを無制限に残すということについてはどうしても制限が出てきます。

しかしSaaSやクラウドのサービスの場合、履歴や過去のデータを残すためのサーバー容量には、ほぼ制限がありません。データ保存容量を大きく使いたい場合には、製品によってはプランを上に上げるなどですぐに対応できます。サーバーを設置するほどのコストはかかりません。パンクするという理由で過去の履歴データを削除しなくても良いため、データを大量に蓄積できます。このように莫大になっていくデータはAIや人工知能を導入した場合に予測データの基本として使用できる可能性があるため、ただそこに置いておくだけではなく、現状分析や将来予測に活用できる未来が考えられます。

【代表的な立ち位置に成り代わる介護SaaS】

2000年代後半になると、介護業界にも、徐々にSaaS型のクラウドタイプのサービスが、現れました。介護ソフトの中でも歴史の古いものは、この頃からSaaS型サービスを提供しています。

介護保険制度の始まりと共にスタートした歴史のある介護ソフトは、 元々あったオンプレミスタイプのソフトウェアをクラウドに乗せ換えるということをしていますが、2010年代以降にリリースされた介護ソフトは、介護SaaSつまりクラウド型が主流になってきています。

介護SaaSは、オンプレミス型と比べると、物理的にサーバールームが施設内に必要ないことでスペースの占拠をせず、データが災害時に水を被って全部消えるというようなデータ消失リスクを考えずに済みます。

データ保存に強く、分析・予測、もしくは分析・予測の可能性に満ちた介護SaaSは、今後もっと介護の世界を便利に、より良くしていくものだと考えられます。

【まとめ】

いかがでしたでしょうか。介護SaaSと一口に言っても、大別はできるものの、幅広く多様なことがお分かりいただけたと思います。

種類がこんなにあると、介護SaaSのどれを選んだらよいか益々わからなくなってしまうかもしれません。

しかしこれらのツールは、あくまでも本業のケアの質を上げ、働く人の気持ちを助け、仕事の効率を上げ、負担も削減して介護サービスの提供を手助けするためのものです。つまり、分からない場合は一番困っている人が何に困っているのか、みんな困っていたら何に困っているのか、その点をヒアリングすることから始まります。機械は二の次、人が中心であることに何ら変わりはありません。

お試し利用できる、というのもSaaSの素晴らしいポイントです。まず無料アカウントを発行してもらい、使い勝手を確認してから導入するということができます。まずは情報を集め、自社に合うソフトを選ぶようにしてください。

本記事が、皆様の検討に少しでもお役に立てば幸いです。

※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。

著者プロフィール

上尾 佳子

合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身

バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係で2つのサービスを運営中。

介護業界向けカタログアプリ「介護のカタログ」
介護のDX化、ICT化について考えるサイト「介護運営TalkRoom」

上尾 佳子さんの写真