新型コロナウイルス感染症は、法上の位置づけについて、皆様もご存知の通り、政府は2023年5月に季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針を示し、移行をしました。しかし、コロナ患者に直接接してきた介護現場の体制については、大きく変わるかは今後未知数です。重症化リスクが高い高齢者と接することから、感染症対策が引き続き重要なことは間違いありません。実際、対策を引き続きそのままご継続されておられるのではないでしょうか?

このような状況の中、令和3年度介護報酬改定において、3年間の経過措置期間を設定した上で、施設類型に関わらず全ての介護サービスで、感染症の予防及びまん延の防止のための措置が義務化されました。

よって、全ての介護サービス事業所で、感染症予防に対する委員会を立ち上げ、緊急時におけるマニュアルを制作しなくてはならなくなりました。

この記事では、感染対策として委員会の設置・開催、指針の整備、研修の定期的な実施等、どのような取り組みを行わなくてはならないかについてまとめました。

また、これらを支援してきた厚生労働省のこれまでのコロナ対応の取り組みと併せて、現在使える助成金・補助金制度についてご紹介します。また、接触回避という主旨で、スマホやタブレットを使って感染予防に活かせそうな事例もご紹介します。

【介護現場における感染対策の現状】

厚生労働省は2023年1月31日に「介護現場における感染対策の手引き(第2版)」を公表しました。この手引きは、介護サービス提供者や職員が感染症対策を行うための指針となります。

この手引きは、幾度か修正・改版されており、介護現場で必要な感染症の知識や対応方法などをまとめた「集大成」のようなものになっています。新型コロナウイルス感染症に限らず、季節性インフルエンザやノロウイルスなどの感染症にも対応できるように作られています。

こちらから最新版をダウンロードできます。
介護事業所等向けの新型コロナウイルス感染症対策等まとめページ

この手引書は、感染症対策の基本的理解というところから始まり、手引書の前半は、消毒液の種類や作り方、手洗いの方法、汚染物の処理方法、感染防護服の着脱方法まで事細かに書かれています。

厚生労働省老健局 介護現場における感染対策の手引き 第2版
※出典:厚生労働省老健局 介護現場における感染対策の手引き 第2版(P9)

この図にある「持ち込まない・持ち出さない・広げない」の原則に従って、この3年間は様々な対応がとられてきました。

施設系サービスにおいては、以前から集団感染のリスクが高いことから 、感染対策として委員会の設置・開催、指針の整備、研修の定期的な実施等が求められていましたが、この適用範囲が拡張された形です。

感染対策委員会と感染対策マニュアルの義務化

施設系サービスのみならず 通所系、訪問系のサービスにおいても、感染症が発生した場合においても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供できるように、必要な体制を構築し、感染症の発生及びまん延等の防止に関する取組が求められることとなりました。

具体的には、以下のような取り組みが求められます。(通所系介護サービス、訪問系介護サービスの事例)

(1)感染対策症対策委員会の設置・開催

感染対策委員会の主な役割としては、「感染症の予防」「感染症発生時の対応」があります。予防としては、施設の指針・マニュアル等を作成・見直しをします。

また、感染症発生時には、情報を集約し、必要な部署や行政等と情報共有をします。感染症の終息についても、保健所と相談して感染対策委員会で最終的に判断する大事な役割を担います。

(2)指針、感染対策マニュアルの整備

感染対策マニュアルは、各介護事業所及び施設が自前で整備する必要があります。コロナ等の感染症対策について、介護現場で何を対策すべきか、予防として日頃から何をすべきか、感染症発生時の対応として、介護現場の状況把握をどのように行い、行政への報告や関係機関との連携をどうするか等を予めマニュアルとして決めておくものです。

またマニュアル作成については、厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き(第2版)」を基本にしてよいと厚生労働省も述べていますが、老人ホーム等の施設系の感染対策マニュアルと、通所系の感染対策、大規模事業者と小規模事業者ではマニュアルとでは違ったものになりますので、実態の業務に即して定期的に更改が必要です。

また、マニュアルを整備するだけではなく、介護職員全員がこの感染対策マニュアルを施設全体の考え方とする共通認識を持つことが大切です。

介護現場における感染対策の手引き_p50
※出典:厚生労働省老健局 介護現場における感染対策の手引き 第2版(P50)

感染対策マニュアルのひな型もこちらのページにあります。ダウンロードして必要な項目を埋めてゆけば、出来上がる形にはなっています。
介護事業所等向けの新型コロナウイルス感染症対策等まとめページ

(3)研修の定期的な実施

介護現場では、感染症対策や感染予防を徹底することが重要です。そのため、介護サービス提供者や職員は、感染症についての知識や技術を身につけるため定期的な研修を行う必要があります。

この研修を後押しするために、厚生労働省は、令和5年3月31日まではWebによるeラーニング研修を提供していました。

このeラーニングは厚生労働省が株式会社日本能率協会総合研究所に委託して行っているもので、無料で利用できました。

残念ながら8月にはこのサイトが削除されてしまいました。

現場に有益な情報でしたので再度の開講が待たれます。

(4)訓練(シミュレーション)の実施

感染者が発生した事態に速やかに情報共有や対応ができるよう、事前に体制を整えておくとともに、日頃から訓練をしておく必要があります 。

では具体的にどのようにシミュレーションをしたらよいのか、厚生労働省老健局「感染者発生シミュレーション 机上訓練シナリオ」を手引きの中で示してくれてはいます。

これらの机上シミュレーションを基に、実際に訓練を行ってみることが推奨されています。

高齢者施設における施設内感染対策の為の自主点検について

(5)介護職員のための感染対策

介護職員は、自分自身が介護施設・事業所に病原菌を持ち込む可能性があることから、自身の健康管理をし、感染源や媒介者にならないことが極めて大切です。

予防可能な感染症のワクチンについては接種をすること、常勤職員のみならず、非常勤、派遣含めたすべての職員に定期的な健康診断を受けるように推奨されています。

また、感染症の症状がある場合や家族等が感染している場合、速やかに医療機関へ受診し、就業停止や休暇などの対応をとる必要があります。

また、複数事業所を経営する法人様の場合には、他の事業所に応援に行く場合に拡散をどのように防ぐか、または応援にそもそも行かないようにするかはその時々の状況があまりに複雑で苦悩されたことでしょう。

「介護現場における感染対策の手引き」の感想

以上、義務化された感染症への取り組みへの主だったポイントを述べましたが、コロナを始めとする飛沫感染の感染症の場合の介護現場での感染予防対策は、この「持ち込まない・持ち出さない・広げない」の原則で、外部との接触を極力避けると言う基本方針の基に行われました。

具体的には、感染が疑われる場合には、出勤しない、サービス停止する、マスク着用、十分な換気、接触が多い共用設備は消毒(手すり、ドアノブ、パソコンのキーボードなど)、個室管理や集団隔離、ベッドの間隔を2m以上あける等です。

どれもインフルエンザ等で昔から行われていた予防方法です。

手引の本編にはオンライン面会等による接触回避は大々的に推奨されておらず、この手引でも事例集の中で登場します。

これらの対策には多大な費用がかかりましたが、国や自治体から様々な助成金や補助金が支給され、介護事業所を支えました。これらの中で、まだ使える補助金もありますので、次章でご紹介します。

【介護で使える感染症対策の助成金や補助金】

「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」 ※令和5年現在は医療分のみ

介護事業所が感染症対策で使える補助金として、厚生労働省は緊急対策を準備しました。「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」が令和2年度の補正予算として組まれました。実施主体は都道府県、しかし国による補助率は100%で、サ高住も対象になる、また介護の事務職、都道府県の事務費までも補助対象となる幅広いものでした。

主な支援領域は4つでした。

(1)事業者支援:感染症対策を徹底した上での介護サービス提供支援事業

衛生用品等の感染症対策に要する物品購入から研修費、面会室の改修、タブレット等ICT購入・レンタル費用

(2)都道府県支援:都道府県における衛生用品の備蓄等支援事業

今後に備えて、消毒液、マスク、手袋、ガウン、フェイスシールド等を購入し、備蓄・管理

(3)勤務する職員に対する慰労金の支給事業

強い使命感を持って、業務に従事していることに対し、慰労金を給付

(4)介護サービス再開に向けた支援事業

換気対策や飛沫防止等の感染症防止のための環境整備を行った在宅サービス事業
残念ながらこの交付金は令和2年で終了しています。

「現在使える補助金」

「新型コロナウイルス感染症流行下における介護サービス事業所等のサービス提供体制確保事業」が、継続されています。

※実施要項はこちらです
https://www.mhlw.go.jp/content/001096530.pdf

この事業は毎年改定が入っていて、これは令和5年度のものになります。

尚、令和3年及び4年は既に締め切っています。

また自治体によって、この事業の要件が少しずつ違っている、また、まだ準備中のところもありますので、詳しくは各自治体にお問い合わせいただければ幸いです。

実施要項によると、新型コロナウイルス感染による緊急時にも、必要な人材を確保してサービスを継続する必要があるため、

(1) 緊急時の介護人材確保に係る費用
職員がコロナで休んだ場合の緊急雇用にかかわる費用を補助するものです。

(2) 職場環境の復旧・環境整備に係る費用
職員が安全・安心して介護サービスを続けられるように環境整備を行った費用を支援するものです。

要するに、通常の介護サービスの提供では想定されない「かかり増し費用」を助成しようというものです。

ただし助成金の対象は新型コロナウイルス感染者が発生したもしくは濃厚接触者に対応した事業所に限られているというところが大きく異なるポイントです。通所型サービスの代替えサービスの提供の中の一つとして安否確認のためのタブレットの費用というのは経費として認められるようになりました。

ではコロナ禍で働き方も劇的に変わりましたが、タブレット等を活用した安否確認やオンライン面会はどこまで広がったのでしょうか?

【コロナ禍での介護現場:ICTを活かした感染対策】

厚労省の感染対策の手引きは、「人」への訓練や研修、体制作りが中心ですが、後半の事例集を見ると、コロナ禍で、オンラインで感染症対策というのは相当進んだことが判ります。ここでは代表的な事例を3つご紹介します。

「オンライン面会」

オンライン面会というICTの活用方法はコロナの中で一気に広がりました。

外からウイルスを持ち込ませないという意味で、外部との接触を遮断され、全ての対面面談は中止でしたが、対面の代わりにオンライン面談が広がりました。

外部との接触を防ぎつつ、顔を見ながら家族と話ができるのは施設入居者にとっても、またその家族にとっても良い影響があります。

厚生労働省の資料によれば、2020年の段階で特別養護老人ホームのおよそ40%がすでにタブレットを導入していました。

※[介護現場におけるICT環境の整備状況等に関する実態調査]
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000899391.pdf

これがコロナの後どれぐらい変わったかは最新の資料を見つけられませんでしたが、施設型の介護サービスを提供している事業所のうちおよそ40%はタブレットを使って、面会などを行っていたのではないかと推定しています。

オンライン面会でタブレットを使う場合、施設側では一台のタブレットを面会室に置き、そのタブレットと、面会を希望する利用者家族とのスマートフォンをつなげて面会するパターンが一般的です。

「オンラインレク」

オンラインのレクリエーションもコロナ下で一気に広がりました。体操やレクリエーション落語寄席芸など非常にバリエーションが多く出てきています。

コロナが始まった当初は、オンラインレクリエーションに対する評価は非常に低かったです。

テレビを見ているのと何が違うのか、双方向でどこまでレクができるのか、みんな確証が持てませんでした。しかし双方向で会話するという機会が増え、レクリエーションを感染症対策としてオンラインで実施し、通常のレクの代わりにするというのは徐々に広まってきています。

新しい設備を購入する必要があまりないというのも優れたポイントです。オンラインでレクリエーションを行うにはパソコンとプロジェクターを揃え、そのパソコンをインターネットにつなげることができれば大丈夫です。

無料で定期的にオンラインレクを行っているNPO法人は、皆様もご存知のタダスク様です。
https://mmky310.info/2022/07/25/tadarec18/

日程をイベントにあわせなくてはいけませんが、音楽や歌謡等、双方向で参加できるものが多く好評を博しています。もちろん、お金をかけずにより良い介護を目指すのですから、他のジャンルにおいても共感性が強く、見ごたえがあります。

「外部とやりとりのオンライン化」

業者との接触機会を極力減らすという意味では、外部の業者さんとの伝票のやり取り、外部のケアマネジャーさんや地域包括支援センターの方との紙の手渡しのやり取りを極力減らすという取り組みも重要です。特に月末月初のケアプランの予実確認のために、「直接ケアプランの実績表をケアマネジャーさんに会ってお届けする」ということであれば、実はそれはオンラインで自動化できます。

無料の「ケアぽす」で、関係する居宅介護事業所を連携すれば、月末月初のケアプランの居宅サービス提供事業所と居宅介護事業所の間のやりとりにかかる時間や紙などの経費を大きく減らすことができます。これも感染防止対策に役立ちます。説明会も定期的に行っているようですので是非ご興味があれば、ご登録・ご参加してみてはいかがでしょうか?。

「ケアぽす」公式サイト
https://carepost.jp/

【まとめ】

いかがでしたでしょうか。

3年前、新型コロナウイルスの流行が始まった時から厚生労働省がどのように対応してきたか、またその中でエッセンシャルワークの現場でどのようにICT化が進んだかを見てきました。

厚生労働省はやはり人を中心に事業を大枠で捉えて考える施策が中心で、オンラインでの面会やレクリエーション等というのはあくまでも民間の間でリアルな施策の代替手段として定着してきているということがわかります。

直接の接触を避けることができるため、今後の感染症対策のリスクヘッジとしても有効に役立つ手段です。

オンライン化はコロナ禍を経てここ数年で一気に一般化しつつあるということが、証明されてきているのではないでしょうか。

今回のコロナ禍を教訓として、感染症が起きた時にどうやって事業を継続させていくか、その体勢を今から作っておくことが求められています。今回のコロナ禍で、対応に追われてマニュアルを策定した事業所・施設様も対策をこのままにせず見直しでブラッシュアップを、今回運よく対応が無かった事業所・施設様も万が一に備えて、できるところはオンライン化し、タブレットやIT機器を上手く活用して感染症対策を進めていただければと思います。

著者プロフィール

上尾 佳子

合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身

バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係のサービスを運営中。

介護のDX化、ICT化について考えるサイト「介護運営TalkRoom」

上尾 佳子さんの写真