「唐突ですが、介護ソフトとは何でしょうか?」

介護業界に勤めている知人に訪ねたところ、「介護に関するシステム」という非常にざっくりとした答えが返ってきました。

元々は介護保険請求に使うためのソフトというところからスタートして、今は介護業務の管理に使うソフト全体を指す言葉になっています。

介護に関わる、特に書類関係の業務の合理化に取り組んでいる経営者の皆様や管理者の皆様は、一度は介護ソフトを探してみたり、使ってみたりしたことがあるのではないかと思います。

探している方は自社に完全にぴったり合う介護ソフトはないと諦めてしまったり、最低限度を満たしたところで探すのをやめてしまったりというご経験がおありだと思います。

介護事業の中で要求される業務というのは多岐にわたっており、種類も細かく分かれています。

100%満足のいく介護ソフトはないので、若干不満足ながら、必要な部分の条件が満たせている現状の業務管理システムを使っているという方も多いのではないかと思います。

そこで改めて、介護事業の業務管理システムは、そもそもどういった機能が求められてるのか考えてみます。

【介護業界における業務管理システムの重要性について】

業務管理システムは、仕事や業務を効率的に管理するための仕組みです。システムを使うことで、大切なことを忘れずに管理でき、時間を節約して仕事を効率的にこなすことができます。

現在はどんな企業であっても、スケジュール管理、タスク管理、情報共有の仕組み等、広く使われています。

介護業界でも既に多くの業務管理システムが採用されて現場で活かされています。

【業務管理システムと介護ロボットの種類】

業務管理システムは、厚生労働省の「ロボット技術の介護利用における重点分野」においては第六番目の分野に入る「介護業務支援分野」に属するシステムが多くの機能を備えていることが多くなっています。

六分野の定義は、「ロボット技術を用いて、見守り、移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者等の必要な支援に活用することを可能とする機器」とされています。

まずは、この介護ロボットの第六番目の分野になっている、「介護ソフト」「介護システム」と呼ばれる製品が筆頭に挙げられるでしょう。

【業務管理システムの機能の種類】

いわゆる介護ソフトや介護システムとは一般的に以下の機能を有しています。

利用者情報の管理:利用者の基本情報や緊急時の連絡先、介護保険情報、傷病歴などの利用者に関わる様々な情報を一元管理できること

ケアプラン作成と管理:利用者ごとに適切なケアプランを作成し、日常のケア活動を管理できること。ケアプランのモニタリングや実施状況を管理できること

記録管理:ケアを実施した記録や利用者の状態変化、医療処置の履歴などを記録し、必要な情報を迅速に参照できること。近年では、システムによっては「介護見守りシステム」と連携してセンサー等から自動で介護記録を取得する場合もあります。厚労省の進める科学的介護「LIFE(ライフ)」への対応も一般的となってきました。

科学的介護情報システムLIFEの画面見本
※参照|科学的介護情報システムLIFE https://life.mhlw.go.jp/login

介護保険請求管理:介護報酬の国保連合会への請求も含めて、利用者の支払情報や請求管理ができること、システムによっては国保連合会インターネット伝送の機能も備わっています。

他に以下のような機能が内蔵されていたり、オプション追加出来たり、他社ソフトと連携できたりすることがあります。

スケジューリングとタスク管理:介護職員・スタッフのスケジュールやシフトを管理し、各スタッフに割り当てられたタスクやケア活動の進捗を管理できること。

シフトのイメージ画像

連絡・コミュニケーション機能:スタッフ間や利用者の家族とのコミュニケーションを円滑化し、重要な情報や連絡事項を共有できること。いつどこにいても情報共有できるように、スマホで使えること

レポートと分析:データを収集・分析して、ケアの質や効率性を評価し、改善点を把握できること

勤怠・人事管理:介護の管理者が、シフト管理含めてスタッフの勤怠管理と休暇取得、給料、社会保険の支払状況を管理できること。職員だけでなく、ヘルパーやアルバイト等のスタッフ全員の勤怠管理システムとして使えること。介護職員の資格取得の人事情報等を管理できること

【介護の業務管理システム、絶対確認すべき仕組みの基本】

先ほど、機能の種類について記載しましたが、機能の種類以前に確認すべき基本的な仕組みについて詳しく見てみます。

「利用者情報管理」

バラバラに紙で管理されていた利用者情報を、システムを活用して集約すると、利用者の健康状態や医療情報、ケアプランなどがデータベース上で管理できるようになり、必要な利用者の情報をすぐに検索できるようになります。誤情報や漏れが生じるリスクを減らし、その場に応じた最適なケアの提供につなげることができます。

「ガバナンス・コンプライアンス対応」

利用者の健康状態等、医療情報を扱うこともあるため、プライバシーや個人情報保護、情報セキュリティなどの面で要件を満たす必要が、介護現場でも今後でてきます。都道府県や市町村が行う実地指導等の対応のため、書類等を整備しておく必要もあります。システム化によって、情報漏洩や持ち出し等のリスク管理が容易になります。また、各種報告書の作成なども、元になる記録データを基に簡単に作成できます。また利用者様家族からのクレーム等に対しても、記録データから事実を把握し職員を守り法的なトラブルを未然に防ぐことができます。

「リスク管理」

薬の投与や健康状態のモニタリングなど、ケアで重要な事柄をデータ化し、システムで管理することによって、システム側がアラートやリマインダーを送信してくれます。このようなアラートで、職員による対応のバラつきを防ぎ、適切な対応を行うことができます。これは、職員側の誤った処置や見落としなどを軽減できるだけでなく、利用者の安全性を高めることにつながります。毎日のケア記録をデータ化することによって、利用者毎に、排泄や睡眠のリズムを予測することができ、転倒防止等のリスクを減らし介護予防やケアの質を向上に役立てることもできます。

「コラボレーション強化」

介護現場では、複数のスタッフや関係者が協力して業務を遂行します。シフト時の連絡事項で抜けがあってはなりません。時には他の医療施設やご利用者家族も含めて情報を共有する必要も出てきます。システムを通じて情報共有やタスクの共有をリアルタイムで行えるようになると、チームとしての連携体制を素早くつくるのに役立ちます。

業務システムは、業務の効率化というだけではなく、現場スタッフの方を負担を軽減したり、ケアの質を上げるためにも役に立つはずのものだということがお分かりいただけると思います。

【大手ソフト会社の現状:介護業務の統合ソフト】

今まで機能の種類や仕組みを考察してきましたが、随分多岐に渡ります。では果たして全ての要求機能を満たす介護ソフト・介護システムというのは現実に存在するのでしょうか?

例えば一般企業の場合、利用者情報の管理は顧客管理システムに該当し、営業や企画部門が使います。勤怠は人事管理システムで主に人事が使います。請求は会計システムに相当し、経理部門が主なユーザーです。一般の企業の場合は、このように部署によって使うシステムがバラバラに分かれて導入され、これを統合するために各種別々のソフトが導入されています。

しかし介護業界の場合、不思議なことに、「介護ソフト」と一口で丸められてしまっている中に多くの機能が包含されています。

なぜこのように驚くほど多岐にわたる業務管理システムが、「介護ソフト」と丸められて呼ばれるようになったのか。

これは介護ソフトや介護システムを提供してきた企業の努力も関係しているのではないでしょうか。

介護業界に業務管理システムをサービス提供している企業は1製品でなるべく複数の業務支援ができるソフトウェアが揃うように、統合化されたソフトウェアを提供してきました。

そして非常に様々な機能もオプションとして提供しています。

利用者の管理から、ケアプランの作成、介護保険の請求管理、シフト勤務の作成まで、介護提供サービス種別はたくさんありますので、それら全ての機能をカバーするというのは、開発をする企業も体力が要ります。

ユーザーの方は、最初から事務業務に関しては多機能でシステムが統一されていますから、一般の会社のように、作業内容ごとでバラバラに導入されたシステムの利用で切り替えに苦労することは比較的少なくなります。統合された現状の介護ソフトというのは、ユーザーを第一に考えてきた介護業務システムを取り扱う企業が真面目に取り組んできた証でもあります。

機能が複数あり、同じようである介護ソフトや介護システムですが、開発する企業にも、得意なジャンルと不得意なジャンルはあるように見えます。介護事業所や介護施設を個別の事情に全て対応し、オールマイティで提供する超多機能の開発ができているソフトウェアはないと思われます。企業母体が医療なのか、経理なのか、そういう所にも関連しているように見受けられます。

また、施設系の介護事業者向けのソフトは比較的充実してきていますが、居宅介護向けのソフトウェアはまだまだ改善の余地があるように思います。

このため、訪問看護やヘルパー管理に特化した介護ソフトというものもあり、それらはかゆいところに手が届く業務の繊細なところを汲んでいます。在宅介護向けの安価なクラウドの介護ソフトはかなり種類が増えており、その結果、国内の介護ソフトは約100種類にも上る、と言われています。

【現在の介護統合ソフト・システムの課題】

介護ソフト・介護システムを選ぶ側の立場から言えば、どのソフトを選んでいいかわからないぐらい種類はたくさんあります。では、「とりあえず必要な機能全部カバーしてくれそうな統合ソフトを選んでおけばいいかな。」と言うと、決してそうとも言えません。

「相互連携の問題」

同じ大手の介護ソフトを導入している事業所同士であれば、データの相互連携は以前よりできます。ケアプランデータの連携例に見られるように、同じ介護ソフトを導入している事業所同士ではケアプランのデータ連携なども早く進み、便利になります。

しかしその場合、それ以外のソフトを使っている事業所とのデータのやり取りになると、データ連携ができません。同じソフト同士ではない場合、昨年公開された「ケアぽす」や今年始まった国保連合会の「ケアプランデータ連携システム」を利用することで実現が可能です。ただし、厚生労働省が定めたケアプランデータの標準仕様に対応した介護ソフト同士である必要があります。

ケアプランのデータ連携は一例ですが、今後このような異機種間でのソフトウェア連携は増えてゆくでしょう。今までメーカーによる囲い込みということが起きやすい状況であったというのは課題として挙げられますが、これしかない!とメーカーを1社だけで考えずに条件を見れば連携できる選択肢があるのは良いことだと思います。

「導入費用」

大手が提供する統合型の介護ソフトは、基本パッケージ料金にプラスしてオプションとして色々な機能を提供される料金体系になっていることが多いです。オプションは無料で提供されていることもありますし、有料の場合もあります。

各社とも料金体系は異なりますが、オプションを追加していけば当然、介護ソフトの利用料も上がってきます。これは小規模事業者にとって、システム導入する大きな障害です。

補助金などを活用するという手段はありますが、補助金申請の膨大な手続き、導入後でないと補助金支給はされないという制度を考えると、システム価格というのは小規模事業者にはとても大きな壁になっていると思います。

特殊なテクノロジーを使った高価なシステムではなく、一般に普及している技術でリーズナブルな価格のシステムが資源や資材の購入費、経費の高騰に悩む今、望まれていると思います。

【介護の業務管理に向けての現実解】

統合型介護ソフトほどの費用をかけずに業務管理をしようとすると、安価なクラウドの介護ソフトを使い、そこに一般の会社でも使われているようなクラウドサービスを組み合わせて使うということが現実解になってきます。

例えば、訪問看護に特化したシフト管理システムと他の介護請求ソフトを連携して組み合わせて利用し、スタッフ間での情報連絡は専用のチャットソフトを使う、というやり方です。

特に情報連絡や人事・給与管理、スケジュール・シフト管理などは、他の業界でも使われている安価なクラウドサービスはあります。

ただし、ここでも重要なポイントは、【使う前に自社の現場に合っているかどうかを確認する】ことです。

また、このように安価なクラウドサービスを組み合わせて使う場合、どこからどこまでをどのシステムでカバーするのか、カバーできていない業務はどこか、どうやってその間を埋めるのかという、全体を把握しての「仕切り」が求められます。

こういったことを一度に全てやろうとすると確かに大変です。しかし、順を追って段階を踏んで考えてゆけば、統合型の介護ソフトほど高い費用を払わずに、介護業務を回すことができるような仕組みを整えることができます。

【まとめ】

いかがでしたでしょうか。

業務管理システムの現実を、一般企業の業務管理システムと比較しながら考えてみました。

これからはノーコードで使える安価な業務システムも増えてゆくでしょう。

自分たちの事業所にあった本当に必要な業務システムを選択し、相互につなげて使うことが現実的な解ではないかと考えられます。

その際に大事になってくるのは、やはり【外部へのAPIを公開して相互連携を意識したシステムになっているか】ということです。

介護ソフトを選ぶ際に、メーカーがどの程度パートナーシップや機能連携を重視しているかは、これから大きな選択のポイントになります。

※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。

著者プロフィール

上尾 佳子

合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身

バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係のサービスを運営中。

介護のDX化、ICT化について考えるサイト「介護運営TalkRoom」

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