入浴は、人間として生きる上で必ず無くてはならない最低限度の生活基準の一つです。
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)で暮らす方が、どのような入浴を行っているのか解説します。

【入浴の“基準”】

特別養護老人ホームにおける入浴については、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十九号)にて明文化され、定められています。

【回数】は、第四章の運営に関する基準の(介護)第十三条第二項に記載があり、「指定介護老人福祉施設は、一週間に二回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清しきしなければならない。」とされています。
つまり、週2回が国が定める人が生活するのに最低必要な入浴回数ということになります。身体の状況が極めて弱ってきていることの多い特別養護老人ホームの利用者様は、まず一人では入浴できないことが多く、またお風呂に入る事にもかなりの体力を消費し、ストレスの解消にもなると同時に身体には大きな負担がかかる場合があるため、一般的な若者の気軽なお風呂の感覚とは違います。お風呂がプラスではなくマイナスの作用として働くケースが出るということです。よって「入浴」には「清拭」という同等の扱いとする介助があります。また、入浴するという心構えができていないと入浴を拒否するというケースもあるため、前もったお声掛けは必須です。

“週2回”は常に議論の的となっており、実際に週2回の入浴の生活は最低限度の生活なのかという話が良く持ち上がります。東日本大震災の際(寒い3月)に、しばらくお風呂に入れなかった筆者の体感によると、2~3日目は余震と震災ショックで入浴まで気が回りませんでしたが、4日目あたりで「あれ?」となり、5日目あたりで目立って嫌になってきます。筆者の地域は水道とガスの復旧が早かったため、6日目で無事お風呂に入れました(尚、電気は1か月以上使えませんでした)。震災時は大きな揺れがたびたび起こって、正直お風呂などとは言っていられない状況ではありましたが、何か大きく気を逸らせる出来事があったとしてお風呂に入れなくてつらいという感情は5日で起こりました。このケースで言うと、週2回は不可ではないなと感じますが、これは非常時ですので、通常時で健康な体の上でこのような状態になると確かに滅入るだろうなとも思われます。夏ですと汗をかきますので余計そうでしょう。

【設備】は(介護)第三章設備に関する基準の(設備)第三条第三項にて、「浴室要介護者が入浴するのに適したものとすること。」と定められています。
身体の状況、取れる体位などにおいて入浴が可能な浴槽の形は違ってきます。また、入浴の為に使用するストレッチャーも一定の形では対応できません。入浴と一言で表現しても、その内容は、移乗・移動・脱衣・洗身・入浴・着衣・移動・移乗の工程があり、それらをスムーズに行うスペースと配置と介助人員が必要になります。

【入浴の注意点】

入浴介助は多くの介助テクニックが必要な高度なサービスです。またいくらテクニックがあっても息が合わないとスムーズな入浴はできません。着脱も身体が不自由であると簡単ではありません。また、水を使うためによく滑り、事故を防ぐために集中することが必要です。冬であったり設備が冷たく冷える場合には、温めて使用することも必要です。一つ一つの動作にも気を配る必要がある為、都度のお声がけは欠かせず、出来る限りの自立を行っていただくために出来ることはご自分で行っていただくように促す必要があります。
注意点は上げれば上げるほどキリがなく、入浴という行為は、実際は「非常に複雑な生活行動」であることが分かります。

また、動作の他には「血糖値の変化」に気を配る必要があります。
あまり体調のすぐれない日は寝不足の可能性もあり、空腹状態が加わると低血糖が起きる可能性があがります。また、人体は食事の直後には胃や腸に血液を送って消化吸収を促すようにできており、もしもその状態で入浴をしてしまうと消化に使われる血液が体表に集まることで消化不良が起こります。

【最後に】

第一章趣旨及び基本方針の(基本方針)第一条の二において、「指定介護老人福祉施設は、施設サービス計画に基づき、可能な限り、居宅における生活への復帰を念頭に置いて、入浴、排せつ、食事等の介護、相談及び援助、社会生活上の便宜の供与、その他の日常生活上の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を行うことにより、入所者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにすることを目指すものでなければならない。」とあります。

全部介助した方が介護する側からすれば簡単かもしれませんが、出来るだけ自分で入れるようにすることに意味があります。
入浴回数の議論はありますが、一方で入浴拒否のお話はよく聞かれます。
お風呂は服を脱ぐという点で「個人の尊厳に関わる生活行動の一つ」です。お風呂に一人で入れないことで個人の尊厳に大きい傷を抱えてしまう方、また、一人で気軽には入れないことからお風呂に良いイメージが無くなって入浴のモチベーションが上がらない方などがいらっしゃるなど、入浴の喜びを上回ったネガティブな印象が先行する場合もあります。
しかし、入浴は衛生を守り、健全な心身を保つためには必要な行為です。人の最低限度の生活を守る最後の砦として、介護を行う方々は日々戦っておられるのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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