バイスティック、バイステックなど日本語表記では読み方が安定しないようですが、アメリカの社会福祉学者のフェリックス・ポール・バイステック(Felix Paul Biestek)教授(司祭)が提唱した、援助者であるソーシャルワーカーとクライエントが信頼関係を構築するための7原則が「バイステックの7原則」です。第二次世界大戦後広く普及し、今でもソーシャルワーカーのケースワークで必要とされています。日本でも介護福祉士の国家試験で頻出問題であるなど、「社会福祉における対人援助の基本的な心構えとしての活用」を重要視されています。

ただし内容の本質が資本主義的、ヨーロッパ中心的、キリスト教の価値観が中心であることで他文化の適用に関しては疑問をもたれることもあるようです。
※このお話は、「援助者やワーカーを介護者」「クライエントを利用者様」に置き替えてお読みいただくと分かりやすい内容となります。

バイステックの7原則

  • 1、個別化の原則
  • 2、意図的な感情表現の原則
  • 3、統制された感情的関与の原則
  • 4、受容の原則
  • 5、非判断的態度の原則
  • 6、クライエントの自己決定の原則
  • 7、秘密保持の原則

【1、個別化の原則】

個人の抱える困難や問題は、人それぞれであるため、どんなに似たケースがあったとしても「同じ問題は存在しない」という考え方です。
似たような事例があると思っても、同じものが適用できるかはわかりません。似たような事例をまとめて分類することで同様の解決方法を適用することをカテゴライズと言い、問題を抱えている人物の人格や環境をラベリングし、決めつけを行うことを厳禁としています。

経験豊富になってくると、偏見や先入観というバイアスの問題が出る場合があります。外面的に同じように見えても価値観や人生は人それぞれで捉え方感じ方が違います。援助のパターン化の枠に無理やりはめてしまっていないか、支援者のペースで話をしていないか自問自答が必要です。正確にクライエントのニーズを引き出すことで、問題解決を支援します。

【2、意図的な感情表現の原則】

クライエントの自由な感情表現を認め、それを意図的に支援するという考え方です。
社会生活の中では特に抑圧されやすいネガティブな感情や独善的な感情について心の丈を表現してもらいます。クライエント自らの外的・内的な問題の両面を俯瞰しやすくするために、「本当の事を表に出してよい」という状態の中で感情や素直な気持ちを吐き出してもらうことで問題に向き合うように支援します。

全ての感情を表現するには信頼関係の構築や発言しやすい場を作ることが必要で、極めて高い技術が必要です。話す際の座席の位置取りから、アイスブレイク、ミラーリング、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンの選択などによって相手に気持ちよくお話をしていただく環境を整えることが大事です。

【3、統制された感情的関与の原則】

援助者であるワーカーがクライエントの感情に飲み込まれないように自信の感情をコントロールするというあり方です。

クライエントを理解し共感しながらも、自信は努めて客観的、冷静な判断で問題解決を支援します。

援助者の感情は過度の感情移入によって揺れることなく、クライエントを導く必要があります。自身の感情整理の他、時期が適切かどうかなども支援する上で必要です。

【4、受容の原則】

頭ごなしに否定せず、どうしてそのような考え方になるのかを理解する姿勢です。先入観を持って対応すれば、個人が持っている特性も否定されがちです。

この原則で最も重要な事は、直接的命令や行動感情の否定は禁じられることです。暴言や暴力があったり、道徳的社会的に反するような考え方であった場合には、行為を受け入れるのではなく考え方として何故そのような状態にあるのかという現実そのものを確認します。

適切な援助のためにはありのままを受け入れてもらえた事をクライエントに感じてもらう必要があるからです。

【5、非判断的態度の原則】

援助者の価値観や基準でクライエントの善悪を判断しないという姿勢です。
クライエントの問題はクライエント自身が解決させることが最も重要で、善悪もまたクライエントの価値観によって判断されることが理想です。

【6、クライエントの自己決定の原則】

自分自身の選択と決定はクライエント自身で自由に行われるべきという考え方です。
この考え方により、援助者の命令や指示のような支配的な意思決定は否定され、クライエントは結論を援助者に誘導されることもなく、行動の責任はクライエントに帰属します。

自分の事を自分で決めるという極当たり前のことですが、加齢や障害や精神状態や外的要因によって判断力が低下し、自らで選択できないことがあります。援助者は、自己決定をしやすいように環境整備、判断材料になる知識や情報の収集サポートなどの介入を行います。

自己決定を行うことにより成長と今後起こり得る同様の問題を一人で解決する道筋を作ります。

【7、秘密保持の原則】

職業的に知り得た個人情報やプライバシーは絶対に口外しない、情報を表に出さないという個人情報保護の原則であり、法律でも個人情報の取り扱いは厳格に定められています。

洩れた情報からクライエントにとって害のある大きな事件や事故にもなりかねません。絶対に外部に漏れないように情報を保護する必要があります。

また、守秘義務がある場では信頼関係の構築もうまくいくため、1~6の原則を実行する上では必須事項となります。

以上がバイステックの7原則であり、現代の介護現場では重視される考え方となっています。

【最後に】

この考え方は介護現場だけでなく、社会福祉に関係するワーカー全てに該当し、教育・医療などもこの考え方が基本になっています。
介護職も専門職の社会福祉関連ワーカーとして利用者様に適切に介入するには、この7原則を頭に入れつつ寄り添った支援が必要とされます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。