お勤めの方は基本中の基本、常識ではありますが、
特別養護老人ホームの居室には大きく分けて2タイプあることはご存知でしょうか?
従来型(従来型多床室)とユニット型(ユニット型個室・準個室)です。
親戚の方などがご入居されていて、実際の居室をご覧になったことがある方であれば、ああ!あれがそうか!と思われます。
今回はそんなお話です。

【従来型(従来型多床室)について】

建物内に複数の部屋があり、居室をカーテンやパーテーションで仕切り、2~4名1室で利用者様がご入居する形態です。
部屋以外の食堂やトイレ、浴室などは共用となっており、大人数が一斉に利用します。
食事の時間などは本当ににぎやかなので寂しい雰囲気はありません。

また、大人数だからといって要望に全く応えてくれないわけではなく、一人一人に合ったケアはきちんと実行されています。大勢の利用者様に適切に対応できるだけの大勢のスタッフが協力しながらケアにあたります。
お値段は賃料・食事・介護保険を加味した場合、月8~9万円程度で比較的お安めになっています。

【ユニット型(ユニット型個室・準個室)について】

10名前後の少人数単位で介護を行っており、一人一つ個室(または準個室)があります。個室とは、空間に窓があり、可動式ではない壁で区切られた居室です。天井と壁に一定の隙間が生じている場合などは準個室と呼ばれます。かならず1つ窓があることが個室(準個室)の条件となります。

個室でプライベートが確保されており、個室を出てすぐに共同生活室(リビングスペース)という共用部分の交流スペースがあります。起きている間は個室の他、ここで食事をしたり、イベントを楽しんだりします。個室と共同生活室の出入りが気軽で、アットホームな空気で少人数でのコミュニケーションが円滑に進めやすいことから施設に入っても環境の変化が少ないのが特徴となります。プライバシーを重視しながら利用者様の生活スタイルを持ち込むことでストレスを軽減する効果が高いのがユニット型になります。
個室であるため賃料が従来型と違っており、賃料が増える分だけ利用料は従来型より割高です。

【従来型とユニット型、どっちを選ぶべき?】

双方、入居する条件としては、大差はありません。
・要介護3以上で65歳以上の24時間体制での医療的処置を必要としない方
・要介護3以上の40~64歳の特定疾病を抱える方
・要介護1~2で特例により入居を認められた方

この3点が基本です。
しかしながら、条件を満たしても必ずしもすぐに入居できるという事ではありません。
3点の入居判定基準は原則的なものであり、実際の入居はケースごとに判断されています。厳密に施設によって対応できる事とできない事もあります。

また、認知症が進んで周囲へ暴力をふるうなどトラブルの可能性の高い方や集団生活が難しい状況にある方も入居は難しいかもしれません。都市部などでは立地や環境の良いとされる施設に入居希望者が殺到し、年単位の長い期間で入居待ちが発生している場合もあります。

前提として、従来型もユニット型もそのような条件を抱えていることも同じです。
しかし、居室の利用やケアの方法、雰囲気に違いがある為、できるだけ個人に合った方を選択することがおススメです。

施設に入職する場合は、従来型は長い時間をかけて蓄積してきたノウハウが学べ、大勢のスタッフに囲まれながら働くことで、様々な実務を先輩方の仕事からも学ぶことができます。ケアに関する利用者様別のケース判断も多くのスタッフと情報を共有しながら確認しつつ進めていけます。ユニット型の場合は大人数で働く環境ではないため、利用者様一人一人に向き合う時間が増えます。個々の判断の場面は従来型より増え、夜勤などの心理的負担も増す場合があります。しかし、昨今は介護業務の電子化が進むことで夜勤の心労は軽減できることが分かっています。

人へのケアの方針の他にも、コミュニケーションや事務などの分野で電子化を進めているかという点は、入職する際の自らのスキルや環境と照らし合わせて注目した方が良い点と言えます。トータルで個人の能力が問われる可能性が増すのがユニット型であると言えるでしょう。

【ユニット型のユニットケア】

ユニットケアとは、「尊厳のある個別ケア」を目指した介護の手法の一つです。
ユニット型では入居される利用者様の人数が少なく、職員様も専任になり、より個々を重視したケアになるため利用者様と職員様の関係性が深まります。利用者様は個別の部屋を持つことでより住環境にご自分の趣味趣向を反映することができ、昨今問題となっているコロナウィルスを始めとした感染症のリスクを軽減することができます。

2001年に厚生労働省から「特別養護老人ホームを全室個室・ユニットケアへ整備をする」という目標が発表されています。
ユニット型の良いところは、少人数・個室というところで、利用者様がご自分のリズムを居室に設けられることにあります。ご自宅から施設に移ったとしても心理的ギャップが比較的少なくて済みます。また、認知症は排泄などの個人の尊厳に関係する難しい問題もある為、従来型と比べると、プライバシーを守るという点は確保できます。ご家族の面会も他の利用者様に配慮することは従来型ほど多くはありません。

【ユニット型にもデメリット?】

ユニット型は個別ケアを重視しますが、人間はコミュニケーションが無いと生きていけない生き物です。慣れた職員様や慣れた同施設の入居者など、狭い人間環境で日々を過ごされることになります。
そこで発生するのは、思いの衝突です。
人間関係が深い場所では、利用者様同士の主張の違いで意見の衝突がある場合があり、そのような事が苦手な方には非常に負担になる場合があります。もちろん職員様はそういった環境も経験豊富で必ず間に入ってくださいます。問題は起こる度に解消されますが、瞬間的には気まずい雰囲気が訪れることもあります。

また、大人数での賑やかな環境に慣れている方や、常にたくさんの人に囲まれて生活をしていた方はプライバシーを守る環境に置かれることで逆に寂しく感じる場面が増える可能性があります。
人の思いは、それ以外の人がどんなに頑張っても埋められない場合があります。利用者様ご本人の意向が何よりも重要になるでしょう。

入職する側にとっては、利用者様に嫌われてしまった時が一番心理的につらい瞬間になるでしょう。人間同士のお付き合いで合う合わないは必ずある事です。少人数ゆえに逃げ場が少なく、なるべく避けるようなシフトを組んでも出会う機会は多くなります。

【最後に】

従来型が悪いような言われ方がされている部分もありますが、筆者は以前従来型でもユニット型でも就労経験があり、どちらにもメリット・デメリットがあることは感じていました。日本文化は時代を経て変わってきており、核家族化が進んで価値観の変化から今後は個別ケアが重視されていくと思われます。

筆者が今まで見てきたのは、従来型の大きな食堂で、「大きな食堂のがやがやしているところでみんなで食べると楽しいけど、食べる人はいつも一緒になってしまう」と笑いながらおっしゃっていた方や目が見えない中で食事をされている方が職員様だけではなく他の入居者の方から献立を教えてもらいながらコミュニケーションを深めているお姿、ユニット型で「お歌が大好きで自由に歌えてうれしい」とおっしゃっていた方や新聞を読むことが昔からの日課で毎朝決まった時間に静かな環境で読むことで精神が安定された方など様々でした。

幸せに過ごすということは人それぞれです。
全ての方によりよいケアが届くといいですよね。

最後までお読みいただきありがとうございました。

※介護保険制度の詳細については各自治体の介護保険制度の担当窓口にお問合せください。