目次

  1. 複数の「脳」を使い分ける――マルチAI時代の到来
  2. LIFEデータを武器にする「予測ケア」の具現化
  3. AI同士の議論させる品質保証
  4. 翻訳と視覚的コミュニケーション
  5. 記録するから活用するへ
  6. コンダクターとしての専門職

1.複数の「脳」を使い分ける――マルチAI時代の到来

介護現場におけるAI活用というと、業務時間の短縮や事務作業の効率化ばかりが注目されがちである。しかし、それはAIが持つポテンシャルのほんの一端に過ぎない。専門職としてケアの質を追求するならば、AIを単なる「事務員」としてではなく、高度な知見を持った「コンサルタント」や「参謀」として捉え直す視点が必要である。そして重要なのは、一つのAIに全てを委ねるのではなく、それぞれの個性を見極めて適材適所で使い分ける「マルチAI」という発想である。

人間にも得意不得意があるように、生成AIにも明確な個性がある。例えば、現在最も知名度の高いChatGPTは、発想が豊かでアイデア出しや壁打ち相手としては優秀だが、時として奔放すぎて正確性に欠ける側面がある、いわば「やんちゃなアイデアマン」である。対してGoogleのGeminiは、Googleの巨大なデータベースと連携し、実務的でバランスの取れた回答を返す優等生タイプと言える。そしてClaude(クロード)は、長文の扱いに長け、論理的で厳格な文章構成を得意とするため、論文や公的な報告書の作成に適した「厳格な学者」のような存在だ。これら複数のAIを、あたかも自分のチームに異なる専門性を持った部下がいるかのように指揮し、使い分けることこそが、これからのリーダー層や専門職には求められている。

2.LIFEデータを武器にする「予測ケア」の具現化

このマルチAI戦略が最も威力を発揮するのが、科学的介護情報システム「LIFE」のデータ活用と、それに基づいた「予測ケア」の実践である。多くの現場において、LIFEへのデータ提出は加算取得のための義務的な作業となり、送り返されてきたフィードバック票も難解で、現場の改善に活かしきれていないのが実情であろう。しかし、GoogleのNotebookLMのようなツールを活用することで、この埋もれたデータは宝の山へと変わる。

具体的には、利用者の過去数年分、数十期にわたるLIFEの評価データやアセスメントシートをNotebookLMに読み込ませる。このツールは、読み込ませた資料のみを根拠として回答を生成するため、一般的なAIよりもハルシネーション(嘘)のリスクが極めて低い。ここに蓄積されたデータを分析させると、AIは「導入期に改善が見られたが、2年目にピークを迎え、その後は穏やかな低下傾向にある」といった長期的な推移を瞬時に言語化する。さらに、「今のまま漫然とケアを続けた場合の1年後」と「適切なリハビリ介入を行った場合の1年後」の予測シナリオを提示させることも可能だ。

AIは過去の膨大なデータから、「このままでは下肢筋力の低下により、要介護度が悪化する可能性が高い」という冷徹な予測を立てる一方で、「週3回の機能訓練を集中的に行えば、ADL(日常生活動作)得点が15点向上し、排泄動作の自立が見込める」といった未来図も描くことができる。このように、経験や勘ではなく、データに基づいた複数の未来を比較提示することで、ケアプランの目標設定に強固な根拠が生まれるのである。

3.AI同士の議論させる品質保証

しかし、いかに高性能なAIであっても、その出力が常に100%正しいとは限らない。そこで専門職が取り入れるべき手法が、複数のAIを戦わせる相互検証、クロスチェックである。例えば、NotebookLMがLIFEデータに基づいて作成したリハビリ計画案を、今度はChatGPTに読み込ませ、「この計画案の妥当性を批判的に検証せよ」と指示を出すのである。するとChatGPTは、「目標設定が楽観的すぎる」「週3回の頻度に対する根拠が薄い」「リスク管理の視点が欠けている」といった鋭い指摘を返してくる。

この指摘を受けて修正した案を、さらにClaudeに読み込ませて文章を整えさせる。このようにAI同士に議論や推論を行わせることで、人間が一人で悩みながら作成するよりも遥かに高い精度と客観性を持ったケアプランが練り上げられていく。これはまさに、自分専属の優秀な専門家チームを持ち、常にカンファレンスを行いながら計画を立てているようなものである。

4.翻訳と視覚的コミュニケーション

専門的な分析結果を、利用者本人や家族にどう伝えるかも重要な課題である。専門用語が羅列された計画書を渡すだけでは、真意は伝わらない。ここでもAIの力が活きる。例えば、AIが弾き出した「リハビリを行わなければ機能低下が進む」という厳しい予測と、「頑張れば維持改善できる」というポジティブな予測を、家族向けの温かい手紙のような文章に変換させるのである。「ダムの水位が下がっているように、今ここで手を打たなければ支えきれなくなります」といった分かりやすい比喩表現を用いるよう指示すれば、AIはその通りの表現を生成する。

さらに、言葉だけでは伝わりにくい情報は、画像生成AIやデザインツールを活用して視覚化する。文字だけの無機質な説明書ではなく、視覚的に訴えかける資料を提示することで、家族の理解度は格段に深まり、ケアへの協力体制も築きやすくなる。

5.記録するから活用するへ

会議やカンファレンスのあり方も変わる。Plaud NoteやHiDockといった最新のAIボイスレコーダーを活用すれば、録音から文字起こし、要約までが自動化される。サービス担当者会議や運営会議の内容をAIに記録させ、そのデータをNotebookLMのようなデータベースに蓄積していく。こうすることで、「あの時の会議で何を話したっけ?」という曖昧な記憶に頼る必要がなくなり、必要な時にAIに質問すれば、「〇月〇日の会議で、Aさんの転倒リスクについてB職員からこのような指摘があり、対策としてC案が採用されました」と即座に回答が得られるようになる。

6.コンダクターとしての専門職

このように、AI活用を突き詰めていくと、介護専門職の役割は「作業者」から「コンダクター(指揮者)」へと変化していく。データの分析、計画の立案、文章の作成、翻訳、画像生成といった個々のタスクは、それぞれを得意とするAIに任せればよい。人間がなすべきことは、どのAIに何を任せるかを判断し、上がってきたアウトプットを検証し、最終的に利用者一人ひとりの人生に寄り添った判断を下すことである。

AIは感情を持たないが、論理とデータに関しては人間を凌駕する能力を持ち始めている。予測ケアによって利用者の未来を守り、相互検証によってケアの妥当性を高め、視覚的な伝達によって家族との絆を深める。これらを実現するために、今こそ「マルチAI」という視座を持ち、次世代の科学的介護へと踏み出す時である。

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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