目次

  1. 2040年を生き抜くための羅針盤:地域特性に応じたサービス提供体制の構築
  2. 人材確保と生産性向上なくして未来はない
  3. 連携と共生:地域包括ケアの深化と地域共生社会の実現

1.2040年を生き抜くための羅針盤:地域特性に応じたサービス提供体制の構築

2040年を見据えた日本の介護業界は、かつてない大きな変革期を迎えている。厚生労働省がまとめた「「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」は、この時代の変化に対応するための、いわば羅針盤と言えるだろう。このとりまとめは、全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の3つの地域類型に分け、それぞれの地域が抱える固有の課題と、それに応じた対応の方向性を示している。

まず、「中山間・人口減少地域」では、総人口の減少に加えて高齢者人口も減少していくため、サービス需要が縮小するという構造的な課題に直面している。限られた利用者のために介護インフラを維持するためには、事業者の多機能化が鍵となる。たとえば、訪問介護と通所介護を一体的に運営することで、人材の柔軟な配置や経営の効率化を図ることが可能だ。さらに、ICTやテクノロジーの導入、タスクシフト・タスクシェアによる業務効率化も不可欠であり、過疎化が進む地域ではサービスの持続可能性を高めるための抜本的な対策が急務とされている。

次に、「大都市部」は、2040年にかけて高齢者人口が増加し続けると予測されており、介護サービスの需要が急増する。このため、サービス基盤の整備が喫緊の課題となっている。限られた土地と高い地価という都市特有の制約の中で、効率的かつ質の高いサービスを提供するには、ICTやAI技術の活用が不可欠だ。特に独居高齢者の増加や、医療と介護の複合ニーズに対応するため、見守りセンサーや遠隔対応、AIによる緊急時の予測などを活用した新たなサービスモデルの検討が求められている。

そして、「一般市等」の地域は、2040年までに高齢者人口が増加から減少へと転じる見込みだ。このタイプの地域では、既存の介護資源を有効活用しながら、需給の変化に合わせた過不足のないサービス提供が求められる。中にはすでに中山間地域や人口減少エリアを抱えているところもあり、将来的に「中山間・人口減少地域」となる可能性を見越して、早期段階からの準備を進めることが重要だと考えられる。

2.人材確保と生産性向上なくして未来はない

2040年までに日本の生産年齢人口が大幅に減少する中、介護業界にとって最も深刻な課題は人材の確保と定着である。この難局を乗り越えるためには、従来の採用活動だけではなく、抜本的な職場環境の改善と生産性の向上が不可欠だ。

処遇改善は引き続き重要なテーマであり、令和6年度介護報酬改定における処遇改善加算の一本化や加算率の引き上げは、介護職員の賃上げを推進する重要な一歩となる。しかし、賃金向上だけでなく、多様なキャリアパスを構築し、職員のモチベーションと専門性を高めることも不可欠だ。介護福祉士が経営者や専門家といった多様なキャリアモデルを描けるようにすることで、長期的な定着を促すことができる。また、ハラスメント対策を含む適切な雇用管理や、有給休暇、育児休業の取得促進など、ワークライフバランスを重視した取り組みも、多様な人材が活躍するための基盤となる。

人材不足への強力な解決策となるのが生産性向上であり、2040年までに施設系サービス等で約3割の効率化を目指すというKPIが設定されている。介護記録のICT化や音声入力、見守りセンサーの導入、インカム活用などは、職員の業務負担を大幅に軽減し、利用者との質の高いコミュニケーション時間を創出する。厚生労働省は、成功事例の普及や試用貸出制度などを通じて、テクノロジー導入を促進すべきだと提言している。外国人介護人材の受け入れについても、海外現地への働きかけや定着支援、日本語教育の強化など、地域の実情に応じたきめ細かな受入体制の整備が求められる。

3.連携と共生:地域包括ケアの深化と地域共生社会の実現

2040年に向けた介護のあり方で最も重要なキーワードは、「地域共生社会」の実現である。これは高齢者介護にとどまらず、障害福祉、保育といったあらゆる分野を横断し、誰もが地域で共に暮らし、互いに支え合う社会を目指す壮大なビジョンだ。

この実現には、自治体、医療機関、介護事業者、住民、NPOなど、多様な主体の連携が不可欠である。特に85歳以上の医療・介護複合ニーズを抱える人々が増加する中で、医療と介護の一層の連携は喫緊の課題だ。また、2040年には認知症高齢者が約584万人に達すると推計されており、専門機関だけでなく、認知症カフェやピアサポート活動など、地域密着型のケアを強化していく必要がある。

さらに、社会福祉連携推進法人制度の活用や、単一法人内での介護、障害福祉、保育といった多事業連携も、限られたリソースを有効活用する上で有効な方策として示されている。福祉サービスを超えた交通や住まいといった生活インフラとの横断的な連携も、地域課題の解決に直結する。

これからの介護事業者は、もはや単なるサービス提供者ではなく、地域の様々な関係者と連携し、地域づくり・まちづくりの主体者としての意識を持つことが求められる。福祉を「制度」から「暮らし」へと再定義する、このパラダイムシフトこそが、2040年以降の地域共生社会を共創する力となるだろう。

 

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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