2025年問題を背景に、団塊の世代が後期高齢者となり介護需要が増大する中、介護保険制度の適正な運用を確保するため、行政による運営指導が急増している。2025年度の運営指導は、サービスの透明性と質の向上を目的に、厳格化の傾向にある。今回は、2025年度の運営指導の傾向、重点的に確認される項目、事業者が事前準備として取り組むべき事項を解説する。
目次
Ⅰ. 2025年度の運営指導の傾向
1. 運営指導の頻度と厳格化
厚生労働省の「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」によれば、運営指導は原則6年に1回実施されるが、入所施設系サービスでは3年に1回が望ましいとされる。2025年度は、「2025年問題」やコロナ禍後のサービス提供状況の回復に伴い、指導頻度が増加する。特に、2024年度の介護報酬改定や2025年4月の育児・介護休業法改正に対応した運営が求められ、行政はこれらの遵守状況を厳しく検証する。
2. BCP(業務継続計画)の義務化と災害対策の強化
2024年4月からBCPの作成が全介護事業者に義務化された。2025年度の運営指導では、BCPの策定状況と実効性が重点的に確認される。BCPには、自然災害や感染症への対応が含まれ、避難計画、訓練実施記録、備蓄品の管理状況がチェックされる。コロナ禍の経験を踏まえ、感染症対策のマニュアルや職員研修の実施状況も厳しく検証される。
3. 処遇改善加算と人材確保の重視
介護業界の人材不足は深刻であり、2025年には約243万人の介護職員が必要と推計される(厚生労働省)。運営指導では、「介護職員等処遇改善加算」の適切な算定や労働環境改善の取り組みが注目される。処遇改善計画書の作成状況、賃金アップの実績、職員研修の実施頻度が確認される。
4. 虐待防止と倫理的サービスの提供
高齢者虐待防止は、2025年度の運営指導の最重要テーマである。身体拘束の実施状況、虐待防止マニュアルの整備、職員への定期的な虐待防止研修の実施が厳しくチェックされる。身体拘束が必要な場合の記録や、利用者への説明・同意のプロセスが適切であるかが重点的に確認される。
5. 介護報酬の適正算定と不正請求防止
介護報酬の不正請求は、事業所の指定取消しや返還請求につながる。2025年度の運営指導では、報酬算定の根拠となる書類(サービス提供記録、個別計画書)の正確性、定員超過利用、送迎未実施減算の有無が厳しく検証される。2024年度の介護報酬改定に対応した算定要件の遵守が求められ、誤った請求が発覚した場合、過去に遡って返還が求められる。
Ⅱ. 重点的に確認される項目
1. 人員基準と勤務体制
介護職員や生活相談員の配置基準が適切であるかが確認される。常勤・非常勤の区分、専従・兼務のルール、常勤換算法の適用が正確であるかが重点項目である。生活相談員が他の事業所を兼務している場合や、定員超過が常態化している場合、監査事例として指摘される可能性がある。
2. サービス計画書と利用者同意
利用者ごとに個別のサービス計画書を作成し、説明と同意を得ているかが厳しくチェックされる。計画書には、利用者の健康状態やニーズに基づくアセスメントが反映されている必要があり、同意書が欠如している場合は運営基準違反とみなされる。
3. 感染症・災害対策
感染症対策では、手洗い・消毒の徹底、職員の健康管理、感染発生時の対応マニュアルが確認される。災害対策では、BCPに基づく避難訓練の実施記録や、非常食・水の備蓄状況がチェックされる。対策が不十分な場合、マニュアルの見直しや追加の訓練が求められる。
4. 地域密着型サービスの運営推進会議
地域密着型通所介護では、運営推進会議の開催状況や議事録の整備が確認される。会議の頻度や参加者の適切性がチェックされ、不足がある場合は改善が求められる。また、公表の実施が問われる。
Ⅲ. 事前準備のポイント
1. 書類の整理と点検
運営指導では、膨大な書類の提出が求められる。事前チェックシートも100枚近い事前情報の提出が必要となっている。以下のような書類を整理し、不備がないか点検することが重要である。
・運営規程・重要事項説明書・契約書:最新の法令に基づいて更新されているか。
・サービス計画書・同意書:利用者ごとに適切に作成され、署名が揃っているか。
・勤務表・研修記録:職員の配置や研修実施状況が明確に記録されているか。
・BCP関連書類:避難計画、訓練記録、備蓄品リストが整備されているか。
書類は、指導当日だけでなく事前提出が求められる場合もあるため、常に整理された状態を維持することが望ましい。
2. 内部監査の実施
運営指導に備え、事業所内で定期的な内部監査を実施することが効果的である。人員配置、報酬算定、虐待防止対策に関するチェックリストを作成し、問題点を事前に洗い出す。外部のコンサルタントを活用するのも有効である。
3. 職員教育の強化
運営指導では、職員の知識や対応力も評価される。虐待防止、感染症対策、BCPに関する定期的な研修を実施し、記録を残すことが重要である。
4. BCPの実効性検証
BCPの策定だけでなく、実際の避難訓練やシミュレーションを通じて実効性を検証することが求められる。災害時の役割分担、連絡網の整備、備蓄品の管理状況を明確にしておくことが重要である。
Ⅳ. 結論
2025年度の運営指導は、超高齢化社会の進展、介護報酬改定、BCP義務化を背景に、従来以上に厳格化する。事業者は、人員基準、サービス計画書、感染症・災害対策、経営情報報告、地域密着型サービスの運営推進会議に注力し、事前準備を徹底する必要がある。書類の整理、内部監査、職員教育、BCPの実効性検証、経営情報データベースへの対応を早めに行うことで、指導時のリスクを最小限に抑えることができる。
運営指導は、監査だけでなく、介護サービスの質を向上させる支援の機会である。適切な準備を通じて、利用者、職員、地域社会に信頼される事業所を目指すことが重要である。
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

