― 一般訪問介護事業所における受け入れ困難性とその克服に向けた提言 ―

目次

  1. 制度改正の意義と背景
  2. 訪問介護従事の要件と制度設計
  3. 小規模訪問介護事業所にとっての実務的困難
  4. 文化的相違と生活援助における課題
  5. 対応策と現実的な導入方法
  6. 外国人材の受け入れは「育成型マネジメント」へ

1.制度改正の意義と背景

2025年4月、訪問介護分野における外国人技能実習生および特定技能者の業務従事が正式に認められた。これは、日本の深刻な人材不足、特に訪問系サービスにおける構造的な労働力欠如に対応する制度改正であり、介護業界にとって大きな転換点である。

この背景には、2040年にかけての85歳以上高齢者の急増と、それに伴う介護需要の爆発的拡大がある。一方で生産年齢人口は年々減少しており、国内の人材供給だけでは需要を満たせないことが明白である。その結果、外国人材の活用は、単なる対症療法ではなく、構造的施策として位置づけられるに至った。

2.訪問介護従事の要件と制度設計

訪問介護に外国人が従事するためには、以下の要件を満たす必要がある。

第一に、初任者研修の修了。これは最低限の訪問介護業務遂行力を担保する制度的基盤であり、日本語での講義理解が前提である。

第二に、1年以上の施設介護での実務経験。訪問介護は単独での判断力と倫理観が問われる業務であるため、現場経験に基づく成熟が求められている。

さらに、訪問介護に配置するにあたっては、一定期間の同行訪問、地域生活文化研修、利用者宅での作法や衛生観念に関するOJTが必要となる。

3.小規模訪問介護事業所にとっての実務的困難

制度上は可能であっても、実際に外国人材を受け入れられる一般の訪問介護事業所は限られている。とりわけ中小規模事業所にとって、受け入れのハードルは非常に高い。

最大の要因は、教育・支援・管理に必要な「人的余力の不足」である。初任者研修修了支援、OJT同行、相談体制の整備に割ける職員が少なく、既存業務との両立が困難である。さらに、日本語指導、生活支援、文化教育などが「受け入れ事業所の責務」として課されることで、実質的には1人受け入れるだけでも多大な体制整備を要する。

加えて、密室業務である訪問介護に特有のハラスメントリスク、トラブル対応の難しさも障壁となっている。特定技能制度を活用する場合には、登録支援機関との契約、支援計画の策定、日本語・生活指導・相談支援体制の整備が法的に義務づけられており、これらの手続き・管理を担うだけでも小規模事業所には過重な負担となる。

4.文化的相違と生活援助における課題

訪問介護において、生活援助サービスは非常に繊細な業務である。掃除・洗濯・買い物・調理などの一つひとつに、地域特有の価値観や生活様式が反映されている。したがって、外国人材にとって最も難易度が高いのは、身体介護よりもむしろ「生活援助」であるという現場の指摘は多い。

例えば、日本独自の清掃手順や「水回りは素手で掃除する」といった慣習、和食の出汁や味噌の使い方、野菜の煮込み時間など、地域や家庭ごとに微妙に異なる「暗黙知」が求められる場面が頻繁にある。外国人材が自国の調理法や清掃手順で対応した場合、利用者から「雑だ」「違和感がある」と感じられることも少なくない。

これらの生活様式・文化習慣の習得には、マニュアルや一斉研修では不十分であり、個別OJTと細かな実地指導が不可欠である。しかし、こうした指導を担う指導職員が十分に配置されていない、または言語的に意思疎通が難しいという問題が重なり、小規模事業所では「教える力」「受け入れる力」そのものが不足している現実がある。

このような文化的適応のハードルは、単なる日本語能力の問題ではなく、「生活をともにする力」を養うプロセスであり、時間と経験を要する。そのためには、事業所側が計画的に育成カリキュラムを用意し、段階的に業務に慣れさせる必要があるが、その体制整備自体が中小事業所にとっては極めて重い負担である。

5.対応策と現実的な導入方法

このような困難を克服し、現実的に外国人材を導入するためには、以下のような方策が重要となる。

まず、法人内連携による段階的配置転換が有効である。たとえば特養や老健など施設系で既に勤務している外国人技能実習生に対して初任者研修を修了させ、一定の文化教育を経た後に訪問介護へ異動させるモデルである。これにより、完全な外部採用による初期教育負担を軽減できる。

次に、地域連携による共同OJTモデルの整備である。地域内の事業所や中小法人が合同でOJT研修を実施し、同行訪問や文化指導を共同実施する仕組みを作れば、一事業所あたりの負担を分散できる。

さらに、行政や支援機関による文化研修支援、簡易マニュアル、翻訳ツール、記録簡素化ソフトの導入補助なども不可欠である。特に訪問介護に特化した「生活援助における文化教育支援ツール」の開発が急務である。

また、利用者や家族への理解促進も忘れてはならない。事前説明やオリエンテーションを丁寧に行い、「外国人=未熟」という誤解を防ぎ、支援体制と文化差への配慮について理解を求めることが重要である。

6.外国人材の受け入れは「育成型マネジメント」へ

訪問介護に外国人材を導入することは、単に人手不足を埋める手段ではない。むしろ、多文化社会において地域と共生し、信頼を築きながらサービスを提供する新たな福祉のかたちを模索する過程である。

そのためには、制度が用意した枠組みを前提としつつも、実際の現場で「人を育てる」「文化をつなぐ」「生活をともに支える」という視点が不可欠である。とりわけ小規模事業所においては、これまでにない支援と柔軟な地域連携のあり方が鍵となる。

介護の最前線に立つ訪問介護事業所が、この変化の先頭に立つことは容易ではない。しかし、それを可能にするのは、制度だけではなく、現場の創意、地域のつながり、そして一人ひとりの外国人職員との丁寧な関わりである。人口減少社会のなかで、外国人材と共に築く介護現場の未来が、今まさに問われている。

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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