介護サービス事業者経営情報データベースシステム、いわゆる「介護経営DB」(以下、介護経営DB)についてお困りではないだろうか?

「介護経営DB」とは、厚生労働省の制度概要説明を引用すれば以下となっている。

”2040年を見据えた人口動態等の変化、生産年齢人口の減少と介護現場における人材不足の状況、新興感染症等による介護事業者への経営影響を踏まえた支援、制度の持続可能性などに的確に対応するとともに、物価上昇や災害、新興感染症等に当たり経営影響を踏まえた的確な支援策の検討を行う上で、3年に1度の介護事業経営実態調査を補完する必要があります。

このため、介護サービス事業者の経営情報の収集及びデータベースの整備をし、収集した情報を国民に分かりやすくなるよう属性等に応じてグルーピングした分析結果を公表する制度を、令和6年(2024年)4月より創設します。”
厚生労働省「介護サービス事業者経営情報データベースシステム (3)制度の概要」より引用

今回は、現在、介護事業所では大混乱を招いているといってもいい、「介護経営DB」について問題点と入力時の注意点を解説する。

目次

  1. 介護経営DBの現状
  2. 介護経営DBの入力について
  3. 会計事務所に委託できるのか
  4. 主なデータ提出上の注意点

1.介護経営DBの現状

介護サービス事業者から、2月以降になって「介護経営DB」の問い合わせが急増している。

「介護経営DB」は本年1月6日に運用を開始しているが、2023年度決算分の提出期限は今年3月31日と定められている。

1月6日のスタート日に実際の運用開始状況を確認するためアクセスしてみたが、その内容に大きな戸惑いを覚えた。

これまで経営情報提出に関する講演を各地で行ってきた経験を有するが、それでも違和感を拭えなかった。一般の介護事業者が初めて「介護経営DB」に触れた際には、相当な混乱が生じることが容易に想像される。実際、運用が始まった「介護経営DB」の操作方法や入力項目は非常に分かりにくい。

厚生労働省から発出される通知やQ&Aをすでに理解していることが前提になっているかのような作りになっている。そのため、経営情報提出者にとっては敷居が高いシステムであると言わざるを得ない。

2.介護経営DBの入力について

基本情報の入力画面では、法人が採用する会計基準や消費税の処理方法について報告する必要があるが、画面上には具体的な指示やヒントがなく、会計知識のない担当者であれば大いに戸惑うはずである。さらに、まだ多くの会計ソフトが「介護経営DB」に対応していないため、財務情報は手入力が必要となっている。

原則として事業所単位で情報を入力する建前になっているが、「財務情報の入力画面」では、どの事業所のデータを入力しているのかが明示されず、法人全体のデータをまとめて入力してしまうケースが想定される。この画面には1からの番号が付されているが、これは各事業所に対応する入力番号であるため、事前に事業所ごとに番号を割り振っておき、全事業所の財務情報を番号順に入力しなければならない。

次の「届出対象事業所データ表示・編集」画面において事業所番号から検索し、入力番号に対応する事業所名を選択し、先に入力した財務情報を紐付ける必要がある。必須項目と任意項目の区別も色分けなどで明示されていないため、あらかじめルールを理解しておかなければならない。

基本的に、介護事業者が、会計ソフトを利用している前提での入力システムであるようだ。しかし、現実は会計事務所に多くの部分を依頼している小規模事業者が大部分の業界である。

事業所ごとの職種別人数を入力する画面も操作が分かりにくい。

ケアマネジャーやサービス提供責任者、送迎ドライバーなどは、一度「その他」区分でまとめて人数を入力する。その上で、改めて「その他」に該当する職種ごとの人数を入力する必要がある。これも事前の知識がないと対応しにくい。そもそもケアマネジャー等については専用の項目を設けるべきではないかという疑問も残る。また、派遣社員は報告対象人数から除外するとされている点も見落としやすい

基本的な報告単位は、事業所・施設ごとの会計区分に基づいて経理している場合には事業所・施設ごとであり、職種別人数も同様に事業所単位で報告することになる。しかし、会計区分に沿った経理を行っていない場合には法人単位での提出が認められており、その場合は法人決算書のデータを基に報告する。このとき、職種別人数も法人単位で報告することになるが、これは初めて入力画面を開いた段階で初めて分かる仕様となっている。

提出方法については、法人が利用する会計ソフトからCSVなどの電子データを出力して提出することが推奨されている。しかし、会計ソフトが対応しているのは財務情報と基本情報のみであり、職種別人数に関しては手入力で事業所ごとに報告する必要がある。職種別人数の入力は会計ソフトの管理範囲外であるため、事業所数が多い法人の場合には膨大な作業量と時間がかかることになる。

報告すべき職種別人数は、複数の職種を兼務する職員の場合、主として従事している職種の一つだけを報告するルールになっている。さらに、報告基準月は会計年度の初月であるため、期首時点にさかのぼって集計しなければならない。加えて、実際には資格別の人数も入力する必要があるため、事業所側の負担はさらに増す。介護事業者には制度上、事業所ごとの勤務実績表を作成する義務があるが、これは職種別に集計されたものなので、資格別人数を入力する際には2年前の資料を再確認するなど、追加の集計が不可欠となる。

3.会計事務所に委託できるのか

こうした状況を受けて、会計事務所などへのアウトソーシングを検討する事業者もあるようだが、「GビズID」を用いた外部委任機能は経営情報の提出には使えない。そのため、外部委託する場合は法人が「GビズID」メンバーのIDを発行して委任する必要がある。システム上、受託側が委任を受けるには法人ごとに別のメールアドレスを用意しなければならない。この点はアウトソーシングを受ける会計事務所などにとって大きな負担となり得るため、対応可能な業者は限られるだろう。

いずれにせよ、今年3月末までに報告を完了させることが求められており、期日までに報告が行われなかった場合には期間を定めた報告完了命令が下されることになる。

時間はすでに限られているが、今回は特例として法人単位での報告が認められている。今回に限って言えば、法人単位での一括報告が現実的だ。法人単位での一括報告を行えば、職種別人数も1度にまとめて報告できるため、システム理解に要する時間や事務負担を最小限に抑えられる。

最後に、主なデータ提出上の注意点を挙げておく。これらを理解した上で、入力しなければならない。

4.主なデータ提出上の注意点

  • 「介護情報DB」は、法人番号で1つ。事業所番号はそこから紐付けられている。
  • 基本の提出は事業所毎であり、事業者番号毎ではない。
  • 財務情報は、会計の区分で処理している場合は、事業所毎に報告が原則である。
  • 財務情報は、会計の区分で処理していない場合は、法人一括で報告が可能である。
  • 財務情報では、派遣社員の給与は、給与に含めず、委託費で報告すること。
  • 職種別人数は、常勤・非常勤別に資格毎に集計が原則である。
  • 職種別人数は、常勤・非常勤で分けられない場合は、合算で報告すること。
  • 職種別人数には、派遣社員の人数は含めないこと。
  • 職種別人数は、期末では無くて、期首の人数を報告すること。
  • 財務情報で、事業所別を行う場合は、職種別人数も事業所別に報告すること。
  • 財務情報で、一括報告を行う場合は、職種別人数も一括で報告すること。
  • 常勤、非常勤の区分は、雇用形態では無く、制度上の規定で分けること。
  • ケアマネジャー、サ責は、その他の職種に含め、かつ個々の人数を報告すること。
  • 訪問看護の診療報酬分は、介護関連の集計には含めない。
  • 必須項目は必ず報告。任意項目は可能な限り報告のこと。
  • 今回の提出は、2024年3月決算から2024年12月決算法人が対象である。

今回の入力システムは、介護事業者が上記のことを理解していることを前提に、入力作業が求められる。下記の厚生労働省ホームページで、事前確認を行って頂きたい。

■厚生労働省/経営情報データベースシステム/URL
https://www.mhlw.go.jp/stf/tyousa-bunseki.html

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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