新たな年が始まった。
新年度に向けて事業所の運営上、今年注目が必要な重要トピックを5つ解説する。

目次

  1. 訪問介護の更なる倒産廃業拡大への懸念
  2. 変わるデイサービスへのニーズと共生型リハビリ特化型の拡大
  3. 新たな保険外サービスへの期待
  4. 新たな支援補助金と生産性向上要件
  5. 始まった2027年度介護保険制度改正審議

1.訪問介護の更なる倒産廃業拡大への懸念

訪問介護の倒産件数が、2024年1月から10月までの間に72件に達し、前年の年間最多記録を既に上回った。廃業件数は更に多くある。

訪問介護職員の有効求人倍率は、他の介護職種と比較しても特に高く、15倍を超えると報告され、深刻な人手不足を反映している。そのような中で、2024年介護報酬改定における基本報酬の2%以上のマイナス改定への批判も強まっている。

しかし、別の視点で見ると、状況が異なる。厚生労働省によると、令和元年に34,825事業所あった訪問介護が、年々増え続けて、令和5年には、36,905事業所に増加している。倒産廃業件数が増加しているが、事業所数は伸び続けている。

ここから推論できることは、倒産廃業件数が増加は、事業所間の競争の激化と、結果として訪問介護職員を確保できない事業所が淘汰されているという現実である。

職員の高齢化も進んでおり、高齢職員の退職も増えている。

後は、処遇改善加算や生産性向上への取組を活用出来ない事業所は、人材を確保する事が出来ずに廃業に追い込まれているケースが増えてくると考えるべきである。特に、訪問介護においては、自然淘汰が進み、同時に再編成が進んでいる。

2.変わるデイサービスへのニーズと共生型リハビリ特化型の拡大

デイサービスなども例外ではない。

リハビリを行わない単なるレスパイト型デイサービスの経営環境は、更に厳しくなっていく。これからは、成果が見えるリハビリの提供が成功要因となることは間違いない。形だけのリハビリでは生き残れない時代がやってくる

その中で、共生型かつリハビリ特化型のデイサービスに全国からの視察が相次いでいる。

介護サービスでのデイサービスが共生型生活介護を併設する理由の一つが稼働率のアップである。共生型サービスの許認可では、障害福祉独特の資格であるサービス管理責任者の配置等が免除される。

現在のデイサービスの人員配置で、障害福祉サービスの許認可を受けることが出来る。その代わり、基準該当サービスと同じ報酬体系となるが、予防の利用者を受け入れたと考えれば許容範囲である。

1日に1人でも2人でも障害者を受け入れることで、確実に稼働率がアップする。一般的に障害福祉サービスのニーズは、レスパイト(ご本人及びケアを行う人の休息支援)である。

しかし、そもそも障害者へのリハビリのニーズは潜在的に多く存在する。障害者にもリハビリを提供しているデイサービスでは、多くの身体機能の改善が確認されている。リハビリで身体を動かすので、夜もよく眠れる。気持ちが落ち着くなど、家族からも好評である。身体機能や心理面も改善されて、生活介護から就労支援に移行した利用者もいる。親が要介護認定者、子供が障害者の親子は一緒にデイサービスに通っている。

いま、障害福祉サービスにおいても、レスパイト目的から自立支援に大きく舵を取りつつあり、障害者へのリハビリテーションが大きな成功要因になろうとしている。

共生型サービスを提供する事業所は、まだまだ少ない状況が続いている。しかし、今後の時流は、ニーズのある共生型が大きな潮流となっていくだろう。そして、競争がない今から参入することで、地域の一番店になる事が可能である。

このビッグチャンスを逃す手はない。

3.新たな保険外サービスへの期待

介護保険外サービスというキーワードが急上昇している。

ヤングケアラー問題は、ケアマネジャーの法定研修カリキュラムや、特定事業所加算の算定要件に位置づけられたことからも関心が高まっている。

また、ビジネスケアラーとは、働きながら親の介護をする人を言う。2030年には家族介護者のうちの4割、318万人がビジネスケアラーになると予測されている。その離職や労働生産性の低下に伴う経済損失額は9兆円に上るとされた。

今、仕事と介護を両立するための手段として介護保険外サービスに脚光が浴びている。

介護保険サービスは、緊急の対応が出来ず、事前にケアプランへの位置づけが必要であるなど、利用に融通が聞かないことが欠点である。自宅に要介護者を抱える会社員は、急な出張や夜の接待などで自宅に帰ることが出来ない時は、保険外の訪問介護サービス等の利用が便利である。

そして、ケアマネジメントのあり方検討会において、ケアマネジャーのシャドーワークについて、有料の保険外サービスを認めるべきとの方向性が示された。

この流れは、新たなビジネスチャンスと捉えることが出来る。既存の概念にとらわれずに、その可能性を追求すべきである。介護サービスは、さらに多様性を増している。

4.新たな支援補助金と生産性向上要件

年度内に処遇改善のための支援補助金が緊急的に設けられる。

しかし、この補助金の受給には、業務の洗い出しや効率化、改善方策の立案といった生産性向上の実施を前提とした取組を行うなどの厳しい要件が課されている。

施設系では生産性向上推進体制加算の取得が前提とされ、この加算の上位区分を満たすためには、見守りセンサーやインカム、介護記録ソフトなどの導入が必須となる。

令和7年度からの介護職員処遇改善加算の算定要件にも生産性向上の取り組みが盛り込まれる。

処遇改善計画書については、主な特例措置が1年延期され、生産性向上への取り組みも、2025年度中に実施する旨の誓約で良いことになったが、1年以内に実施することが必須となっている。

この取り組みは、業務改善委員会の設置や現場の課題分析、5S活動を通じて、現場での業務効率化を図ることを目的としている。現場職員を含めた課題分析や業務フローの見直しを通じて業務の無駄を洗い出し、次に5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)による業務環境の整備を進めることで、効率化が達成される。そして、これらの基盤の上に介護記録ソフトや介護ロボットの導入を進め、さらなる業務改善が期待されている。

すべての介護事業者において、生産性向上は、もはや避けては通れない緊急課題となっており、そのキーとなるのが、生成AIの活用にあると考えている。

参考:第243回社会保障審議会介護給付費分科会資料「資料3処遇改善加算について」

5.始まった2027年度介護保険制度改正審議

2024年12月23日より、介護保険部会において、2027年度の介護保険法改正審議が始まった。

この動きは、例年より4ヶ月ほど早い。それだけ、次回の改正テーマが多いと言うことだ。

今年12月には審議の取りまとめが行われて、来年春には通常国会で成立する。本部会での議論の前に、2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会などにおいて、次期改正に向けた議論も始まっている。

次の制度改正対策も今年の重要課題である。

しっかりと最新情報にアンテナを張る必要がある。2027年度介護保険制度改正は、大規模な改正が予想される。

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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