令和3年度介護報酬改定に於いて義務化された「業務継続に向けた計画(BCP)」策定は、令和6年度介護報酬改定に於いてBCP減算が創設され確実に取り組み強化を行わなければならない情勢となった。

今回は、現在BCPを策定中、もしくはこれから着手するという介護施設等に向けたアドバイスを含め、【1回作ったところで終わらない「BCP策定」】の、策定時から苦悩するケースが多い「研修と訓練」について手順をあげて解説を行う。

目次

  1. BCP作成の義務化と減算は規定が異なる
  2. BCPに基づく、研修と訓練の義務
  3. 机上訓練(シミュレーション)の手順

1.BCP作成の義務化と減算は規定が異なる

・BCP作成について

令和3年度介護報酬改定に於いて、全ての介護サービス事業者を対象に業務継続に向けた取組の強化が義務化された。

業務継続に向けた計画等の策定(BCP)、研修の実施、訓練の実施等が必要である。研修の実施、訓練の実施において、定期的(在宅サービスは年1回以上、施設サービスは年2回以上)な研修と訓練を開催して記録しなければならない。

令和6年度介護報酬改定で設けられたBCP減算は、特例の適用を受ける場合は令和7年4月からである。

しかし、減算の有無は介護報酬の算定要件に過ぎない。

令和6年4月からの義務化は変わっていないため、今後の運営指導で未策定の場合、減算にはならないが運営基準違反で指導対象となる。それは、研修や訓練の未実施も同様である。

現在、BCPを策定中、もしくは、これから着手するという介護施設等に若干のアドバイスを送る。

まず、陥りがちなのは、厚生労働省のひな型の項目のすべてを埋めなければならないという思い込みだ。ひな型は、考えられる項目を列挙しているに過ぎない。必要な所だけを使えば良いのだ。

そもそも、BCPは頭で考えた対策である。実際に、研修や訓練で体験する現実とではギャップが大きい。その為、BCPは研修や訓練後に見直しを行う必要がある。

BCPは永遠に完成しない。BCPの作成が完了した時点からスタートとなる。BCPの作成においては、職員を含めて、自分たちで知恵を出し合い、検討しながら作り込んでいく。

BCPの厚生労働省によるひな型は、後半になると一気にハードルが上がる。地域との連携や共同訓練などが検討テーマになるのだ。この部分は、在宅サービスの多くには必要の無い項目である。ハードルの高い項目は、後日検討としても、削除しても問題はない。

先に書いたように、ひな型をすべて埋める必要は無い。

不要な部分は削除して良い。出来る範囲で、一先ず完成させることが重要である。定期的に研修と訓練を実施して、BCPを肉付けして、バージョンアップさせていく。他の事業所と共有して、お互いのBCPを補完し合うことも良いだろう。他の事業所での作成経験が豊富な専門家にアドバイスをもらうことも有益である。

いずれにしても、BCPを常にバージョンアップさせるという認識が大切である。

・感染症BCPについて

感染症BCPにおいても、5類に変わった結果、濃厚接触者も無くなったので、どうすれば良いかとの相談も増えている。

厚生労働省のひな型は、コロナ禍を念頭に置いているため、5類移行後の対応に苦慮しているのだ。基本的に感染症対策は共通の部分が多いため、特に変更する必要は無い。作成時点では、コロナを前提に作成しているが、感染症はコロナだけでは無い。近い将来、新たな新種のウィルスの発生もあるだろう。

BCPは最悪の状況で職員が出勤出来なくなることを想定した計画だ。

よって、コロナ禍初年度の状況を念頭に置いた感染症BCPのままで良い。新型ウィルスは10年サイクルで発生すると言われている。10年前がSARS、20年前が新型インフルエンザと言った具合だ。また10年もすると、新たなウィルスが現れるかも知れない。昨年末は季節外れのインフルエンザが大流行した。ノロウィルスのクラスターも報告されている。

新たなウィルスが出現した場合、濃厚接触者の定義が復活する。BCPは最悪を想定して作成する。よって、コロナ禍が発生した1年目を想定して作成しておけば良いと言うことだ。

2.BCPに基づく、研修と訓練の義務

解釈通知においては、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施において、定期的(在宅サービスは年1回以上、施設サービスは年2回以上)な研修を開催して記録しなければならないとされた。訓練(シミュレーション)は、感染症や災害が発生した場合に実践するケアの演習等を定期的(在宅サービスは年1回以上、施設サービスは年2回以上)に実施する。

完成後は、研修訓練の方法が気になってくる。

例えば、感染症BCPの訓練方法は、机上訓練(シミュレーション)をお勧めする。

まず、参加者を5~6人のグループ分けを行い、同じ設問を5~10分程度、ディスカッションを行う。時間になると、グループ毎に発表するという、グループワークの方式を取る。全グループの発表終了後、机上訓練シナリオにある「解説」を読み合わせて共有する。この時、グループ発表の内容に正解はないので一切の批評はしない。

この方法で、職員も盛り上がり、1時間があっという間に過ぎるだろう。

これによって、新たな考えや対処法の気づきも生まれて、BCPの見直し、バージョンアップに繋がる。

BCPは、永遠に完成しない。
そう、固く考える必要はないのだ。

次に、机上訓練(シミュレーション)の手順を記載する。是非、今こそ参考にして欲しい。

3.机上訓練(シミュレーション)の手順

【手順】

  1. 参加者を4~6人のグループに分ける
  2. 進行担当と発表者を決めてもらう
  3. 共通の検討テーマを10分程度、議論する
  4. 各グループから検討内容を発表
  5. このとき、正解は無いことに注意する。
  6. 現在のBCPの内容と発表内容を比較する
  7. 必要に応じて、後日、現在のBCPの内容を見直す
  8. この流れで、4~6問程度のテーマを議論いただく

検討テーマの一例(自然災害)

◎前提条件

市内で震度七の地震が発生、停電、断水が発生、電話が不通になっている


◎通所サービス

送迎の途中で地震に遭遇。揺れが収まったあと、運転手のあなたはどう対応するか。


◎訪問サービス

利用者の居宅訪問時に地震に遭遇。揺れのため利用者が負傷した。どう対処するか。

この「テーマ設定」が重要となる。

感染症BCPの場合も、同様の流れで進行する。

シミュレーション訓練のメリットは、参加者全員が参加して発言することにある。BCPの周知という意味でも最適である。また、同時にBCPの見直しにも繋がるという点で最もお勧めする訓練方法である理由だ。

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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