令和6年度報酬改定のキーワードとして、介護業界で特に注目されている「生産性向上」、今回は多くの現場が頭を悩ませる「生産性向上の取組強化」について解説を行う。

目次

  1. 生産性向上の取組の強化
  2. 介護施設などに生産性向上委員会の開催が義務化
  3. 介護DXの推進
  4. ケアプランデータ連携システム
  5. 介護記録ソフトで、記録から請求までを一気通貫に
  6. ICT化の意味

1.生産性向上の取組の強化

介護職員等処遇改善加算の算定要件の1つである職場環境等要件が令和7年度から大きく変わる。

令和7年度以降に加算区分ⅠまたはⅡを算定する場合は、生産性向上(業務改善及び働く環境改善)の区分で、主に3以上の取組を実施することが求められる。

  • 国が発出している生産性向上ガイドラインに沿った取り組みに関する委員会などの設置。
  • 現場の課題分析。
  • 介護ロボットや介護記録ソフトなどのICT化

が要件となる。

LIFEの導入によって、介護記録ソフトは一気に普及した感があるが、小規模事業所にはハードルが高い。今後、小規模事業所がICT化に取り組む事で、業務改善が進む可能性は高い。

2.介護施設などに生産性向上委員会の開催が義務化

施設系には、3年間の経過措置を設けた上で、生産性向上委員会の設置が義務化された。同時に、ICT化に取り組み、その改善効果に関するデータを提出することを評価する生産性向上推進体制加算が創設された。

ICTやIT助成金を活用しての計画的なICT化も必要となっている。

今後は、業務マニュアルの作成、介護記録ソフト、見守りセンサーやインカムの導入、介護助手の活用など、介護サービス事業における生産性向上に資するガイドラインを参考に進めて行くことが重要な経営課題となる。

介護報酬に依存しない経営改善を進めていかなければならない。

生産性向上については、基本的に、厚生労働省から提供されている、介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン介護分野における生産性向上の取組を支援・促進する手引き、介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き*1などを参考に進めて行くこととなる。

*1 令和4年6月17日 老高発0617第1号にて厚生労働省老健局高齢者支援課長より、「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する 手引きVer.2」の発出について という通達があり、その中で、その発出場所を厚生労働省ホームページ「介護現場におけるICTの利用促進」として定義

3.介護DXの推進

令和6年7月8日の介護保険部会において、介護情報基盤が論点に上がった。

今後は、介護保険者証のペーパレス化、マイナンバーカードとの一体化を含めて、紙の排除が加速する。ICT化は在宅サービスを含めて待った無しだ。

すでに時間は、新たな時流に移ろうとしている。

施行日は令和8年4月1日スタートを目指して準備を進めるとされた。利用者においては、介護情報基盤に登録された自身の介護情報をマイナポータル経由で閲覧できる。介護事業者は、介護情報基盤に登録された介護情報を、介護保険資格確認等WEBサービスを経由して閲覧できる。また、ケアプラン情報やLIFE情報は介護情報基盤に登録することとなる。さらに、介護保険者証をマイナンバーカードに一体化する方向が示された。

紙を排除するペーパレス化が推進されて、医療介護DXによる情報共有化が進んでいく。

なかなか普及が進まないケアプランデータ連携システムも、このシステム統合化で大きく推進される可能性が出来ている。

また、LIFEの共有によって、LIFEに取り組まない事業所や、リハビリの成果が出ない事業所の淘汰が進む懸念も出てきた。

4.ケアプランデータ連携システム

令和5年度より、ケアプランデータ連携システムが開始された。

従来から、ケマネジャーと担当事業所間での提供表などのやり取りは、基本的に紙ベースで行われ、給付管理ソフトや介護報酬請求ソフトなどに手入力するという二度手間が発生していた。これを、ケアマネジャーと担当事業所各々でクライアントソフトを導入して電子データとしてやり取りし、給付管理ソフトや介護報酬請求ソフトなどに取り込むことで二度打ちの手間が無くなる。

例えば、月初に担当事業所から届く提供実績表は、ケアマネジャー1人あたり100枚前後となる。これを給付管理ソフトに入力するために3日間程度の時間を要している。これが、1日も掛からずに終えることが出来る。圧倒的にケアマネジャーの手間が削減される。

5.介護記録ソフトで、記録から請求までを一気通貫に

令和3年度介護報酬改定で導入されたLIFEによって、大きく脚光を浴びたのが、介護記録ソフトである。

基本的には、日々の介護記録において、タブレットを用いて入力することで、自動的にコンピュータにデータが蓄積されて電子データ化される。介護計画書やアセスメント、スクーリングなどの日常業務を、介護記録ソフトを介して行う事で、LIFEへのデータ提供のオートメーション化が可能となる。

実際、LIFEに情報を提供するために、3ケ月に一度、全利用者の介護計画書等を手入力で行うことは非効率的で職員の負担も大きい。特に、複数のLIFE関連の加算を算定する場合は尚更である。その購入費用は決して安い物では無いが、先のICT導入支援を活用することも出来る。

また、LIFE関連の加算をしっかりと算定する事で、短期間で設備投資は回収できる。その後は、LIFE加算は確実に収益の向上に貢献することとなる。

6.ICT化の意味

ICTの活用は目的では無く、あくまでも手段であって、その先にケアの品質の向上、職員の生産性の向上があると言われる。

オンライン研修によって時間の拘束が無くなり自由度が増した。夜勤者が眠い目をこすって参加する必要がなくなり、これだけでも効率化は実現出来ている。

ICTの活用は、職員が楽になった、導入して良かったと感じてもらえないと、決して成功とは言えない。

コロナ禍の影響でオンライン会議システムとオンライン研修が普及した結果、職員は自分の時間を有効に利用出来る環境を手に入れつつある。

ICT化の弊害となっているのが、PCなどを苦手とする職員の存在であろう。そのために、介護記録ソフトやケアプランデータ連携システムが中々、組織に浸透しない。

職員が使いやすいソフトを選択する。ここから、ICTアレルギーを払拭することで、スムースなICT化が可能となり、職員も安心して紙ベースの業務から脱却できる。そして初めて業務の効率化が進む。

より良い職場・サービスのために今日からできること(業務改善の手引き) (介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン)

※資料出典:厚生労働省  社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)資料
介護現場の生産性向上の推進/経営の協働化・大規模化(介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)P4

ICT機器の活用による生産性の向上と人員配置の効率化の必要性

※資料出典:財政制度分科会(令和5年5月11日開催)資料
財務省 財政各論③:こども・高齢化等 P94

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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