6月から介護職員等処遇改善加算がスタートした。
今回の介護報酬改定においては、従来の3つの異なる処遇改善加算を一本化して、簡素化したことが売りである。しかし、未だに現場サイドでは混乱が収まっていない。
本記事では、スタートしたばかりの介護職員等処遇改善加算の要点について解説を行う。
目次
1.介護職員当処遇改善加算、旧算定との違い・注意点とは
新たな処遇改善加算は、従来の処遇改善3加算がベースとなっている。
・旧処遇改善加算の「区分Ⅲ」算定事業所の注意点
旧処遇改善加算の区分Ⅲの要件では、新加算を算定することが出来ずに区分Vで算定しなければならない。その区分Vも年度途中において算定要件をクリア出来なくなった場合、他の区分Vを算定出来ず、新加算の要件を満たすことが出来ない場合は、いずれの算定も出来なくなる。
さらに、処遇改善加算の算定が出来なくなった場合も、賃金水準の維持が求められるので、自腹で支給を続けなければならない。
これは、大きなリスクである。
※資料出典:厚生労働省 介護職員の処遇改善 事務担当者向け・詳細説明資料 P1
・旧処遇改善加算「区分Ⅱ」算定事業所の注意点
同様に、旧処遇改善加算の区分Ⅱの要件では、新加算の区分Ⅳ以外の算定が出来ない。上位区分の算定にはキャリアパス要件のⅠ〜Ⅲを満たすしか方法がない。区分Ⅱ以上では、年収440万の義務化も立ちはだかる。新加算では、月給8万円昇給の選択肢が令和6年度で終了する。
これは、小規模事業所にとっては非常に荷が重たい話である。
・新加算開始後、算定事業所によくある課題と解決方法
区分Ⅲ以上の算定では、キャリアパス要件Ⅲの昇給の基準が大きな壁となっているようだ。この要件は、資格等に応じて昇給する仕組みを選択すればリスク無く、簡単に算定要件をクリア出来る。
例えば、単に、介護職員を対象にして新たに介護福祉士手当、特定介護福祉士手当、社会福祉士手当などを複数設ける方法である。手当の金額は、500円でも構わない。
非常勤職員は日給で設定する。これによって、職員が資格を取る度に500円の昇給が実現する。この場合、仕組みがあれば足りる。
必ずしも、職員が資格を取り続けることは求められない。そのため、この方法を強く奨めている。
この場合、従来から設けている資格手当は残すことがポイントだ。従来の手当を廃止すると賃金水準の低下につながる恐れがある。
2.年収440万円の義務化の特例
年収440万の義務化には、特例がある。
勤続10年以上の職員や、介護福祉士を持つ職員がいない場合は、設定が不要となる。また、小規模事業所で他の職員の賃金水準が低くて、年収440万の職員を作った場合、賃金バランスに問題が生じる場合などは、特例として免除される。ただし、賃金バランスを理由とする場合は、事前に役所に確認することをお勧めする。
3.新加算の目玉「前倒し支給」
一つの目玉として、令和7年度の賃上げ資金が加算率に前倒しで支給されている。
そのため、新加算の算定率は、従来の3加算と支援補助金を合計した加算率より高く設定された。しかし、支給の一部を令和7年度に繰り延べる方法は2つの問題を抱える。
1つ目は、令和7年度に支給を繰り越した上乗せ部分については、令和8年度以降の加算では補填されないこと。すなわち、8年度以降は自腹となる。
2つ目は、繰り延べした部分は令和6年度の収入となるため、法人税の課税対象の利益となることだ。
4.職場環境要件
令和7年度からは、新加算区分Ⅰ又はⅡを算定する場合には、職場環境等要件の区分ごとに2以上の取組を実施しなければならない。
生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組では、3以上の取組を実施することが求められる。
小規模事業者は、㉔の項目を満たせば足りるという特例はあるが、これは1法人あたり1つの施設又は事業所のみを運営するような法人等の規模でしか認められない。
どのような形で令和7度から算定要件を満たすかも大きな課題となっている。
※資料出典:厚生労働省 介護職員の処遇改善 事務担当者向け・詳細説明資料 P4
5.月額改善額
同じく、令和7年度からは、月額改善額の計算も変更される。
新加算のどの区分を算定する場合であっても、Ⅳの加算率で計算された加算額の2分の1以上を基本給又は決まって毎月支払われる手当とすることが必要である。このときに、賃金総額を新たに増加させる必要はない。手当又は一時金としている賃金改善の一部を減額して、その分を基本給等に付け替えることで、要件を満たす。
また、月額改善額を手厚く支給しているなどで、既に要件を満たしている事業所は、新規の取組を行う必要はない。
新規の基本給等の引上げを行う場合には、その基本給等の引上げはベースアップ(賃金表の改訂により基本給等の水準を一律に引き上げること)により行うことを基本するとされている。
※資料出典:厚生労働省 介護職員の処遇改善 P2
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。