目次
- 高齢者虐待防止未実施減算について
- 減算の適用
- 小規模事業者にも適用される
- 虐待防止検討委員会の設置
- 虐待防止のための指針の整備
- 虐待防止のための研修の実施
- 虐待防止に関する措置を実施するための担当者
- 虐待が発覚すると監査となる
1.高齢者虐待防止未実施減算について
令和6年度介護報酬改定において、高齢者虐待防止未実施減算が創設されたのは周知の通りである。未実施の場合には、所定単位数の1%を算定する。
(福祉用具貸与及び特定福祉用具販売は3年間の経過措置。)
減算のチェックポイントは以下の通りである。
- 虐待の発生又はその再発を防止するための措置をすべて講じているか
- 虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催
- 虐待の防止のための指針の整備
- 職員に虐待の防止のための研修を定期的に実施
- 上記の措置を適切に実施するための担当者を置く
2.減算の適用
全ての介護サービス事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するための措置(虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めること)が講じられていない場合には、基本報酬が減算される。この場合、すべての措置を、ひとつでも行われていない場合には、減算対象となる。
また、運営指導で未実施が発覚した場合には、過去に遡及して当該減算を適用することはできず、発見した日の属する月が「事実が生じた月」となる。この場合、改善計画の提出の有無に関わらず、事実が生じた月の翌月から減算が適用される。減算は、施設・事業所から改善計画が提出されて、事実が生じた月から3か月以降に改善計画に基づく改善が認められた月まで継続される。
3.小規模事業者にも適用される
事業所規模の大小に関わりなく虐待防止委員会及び研修の定期的な実施が必要である。
いわゆる一人ケアマネジャーの事業所などの小規模事業所の場合は、積極的に外部機関等を活用すべきである。例えば、小規模事業所における虐待防止委員会の開催は、法人内の複数事業所による合同開催、感染症対策委員会等他委員会との合同開催、関係機関等の協力を得て開催するなどが可能とされている。
また、研修の定期的実施は、虐待防止委員会同様法人内の複数事業所や他委員会との合同開催、都道府県や市町村等が実施する研修会への参加、複数の小規模事業所による外部講師を活用した合同開催等が考えられる。
なお、委員会や研修を合同で開催する場合は、参加した各事業所の従事者と実施したことの内容等が記録で確認できるようにしておくことが必要である。
4.虐待防止検討委員会の設置
〇メンバー構成
・管理者を含む幅広い職種で構成する。
・内部関係者のみの構成も良いが、外部から虐待防止の専門家等を登用できれば更に良い。
・他の検討委員会と一体的に実施することも可能である。
〇開催頻度
定期的に開催すること。(概ね6か月に1回以上開催が望ましい。)
〇検討事項
- 虐待防止検討委員会その他事業所内の組織に関する事項。
- 虐待防止のための指針の整備に関する事項。
- 虐待等について、従業員が相談・報告できる体制整備に関する事項。
- 従業者が虐待等を把握した際に、役所への通報が迅速かつ適切に行われるための方法に関する事項。
- 虐待等が発生した場合、その発生原因等の分析から得られる再発防止策に関する事項。
- 再発防止策を講じた際の効果についての評価に関する事項。
5.虐待防止のための指針の整備
指針には以下の事項を盛り込むこと。
- 事業所における虐待防止に関する基本的な考え方について
- 虐待検討委員会その他事業所内の組織に関する事項について
- 虐待防止のための職員研修に関する基本方針について
- 虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針について
- 虐待等が発生した場合の相談報告体制に関する事項について
- 成年後見制度の利用支援に関する事項について
- 虐待等に対する当該指針の閲覧に関する事項について
- その他虐待防止の推進のために必要な事項について
等
6.虐待防止のための研修の実施
〇研修方法
指針に基づいた研修プログラムを作成する。基本的に内部研修として実施する。研修の実施内容を記録することが重要。また、新規採用時には、新規採用職員向けに別途研修を行うことが望ましい。
〇研修内容
虐待等の防止に関する基礎的内容で、適切な知識を普及・啓発するもの。
〇実施回数
年1回以上実施(居住系、施設系は年2回以上)。
7.虐待防止に関する措置を実施するための担当者
専任の担当者を置くこと。
できれば、虐待防止検討委員会の責任者と同一人物が望ましい。
8.虐待が発覚すると監査となる
監査とは、高齢者虐待はもとより、人員基準違反、運営基準違反、不正請求、不正の手段による指定、もしくはこれらの疑いがある場合に行われる。
対象となる介護サービス事業所等に対して、状況の報告や帳簿書類の提出を命じる方法を取る。また、役所への出頭を求め、担当職員に直接に質問する。さらには、事業所等に立ち入って、その設備や帳簿書類、物件の検査を行う立入検査も実施する。それによって事実関係を的確に把握して、悪質と判断された場合は、指定取消などの行政処分の措置をとることとなる。
日頃から、虐待防止をしっかりと取ることが重要である。
※資料出典:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定について
令和6年度介護報酬改定における改定事項について [6.6MB]P50
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。