2027年度介護保険制度改正審議も、終盤を迎えている。12月には審議が終了して、とりまとめが行われる。そのような中で、2025年10月の社会保障審議会介護保険部会等においては、人口減少が深刻化する地域におけるサービス提供体制の維持、介護人材の確保と生産性の向上、ケアマネジメントの機能強化など、多岐にわたる重要なテーマについて具体的な方策が議論された。今回は、その方向性を探る。
目次
Ⅰ.地域の実情に応じたサービス提供体制の維持
高齢化と人口減少が特に進む「中山間・人口減少地域」においては、生産年齢人口の減少が全国平均に比して進んでおり、専門職の人材確保が困難となり、必要なサービス提供体制の維持が難しくなっている状況にある。
1. 特例介護サービスの拡張と人員基準の柔軟化
サービス提供の維持・確保を前提として、利用者への介護サービスが適切に提供されるよう、新たな柔軟化のための枠組みを設けることが必要である。これは、現行の「基準該当サービス」や「離島等相当サービス」といった特例介護サービスの枠組みを拡張することで対応することが考えられている。
この新たな枠組みにおいては、サービスの質の確保や職員の負担に配慮することを前提としつつ、サービス・事業所間の連携を行うことを条件に、管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和を行うことが検討されている。例えば、鳥取県では、基準該当サービスの枠組みを活用し、季節ごとの利用者の繁閑に応じて訪問介護と短期入所生活介護の間で人員を融通している事例が確認されている。ただし、この基準緩和については、介護サービスの質を担保することが重要であり、例えばスキルの高い介護福祉士の配置など、モデル的な取り組みを通じた効果検証を行った上で対応方針を定める必要があるとの指摘も存在する。
2. 包括的な報酬体系の検討
中山間・人口減少地域では、訪問系サービスにおいて、利用者の事情による突然のキャンセルや利用者宅間の移動負担が大きいこと、また季節による繁閑の激しさなどから、年間を通じた安定的な経営が難しく、サービス基盤維持の課題となっている。
この課題に対応するため、安定的な経営を行うための報酬の仕組みとして、特に訪問介護について、現行のサービス提供回数に応じた出来高報酬とは別に、月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択可能とするような枠組みを設けることが考えられている。包括的な評価には、利用者数に応じて収入の見込みが立ち、経営の安定につながる、利用回数の少ない利用者を受け入れた場合でも収益が確保できるといったメリットが期待されている。一方で、利用者ごとの利用回数・時間の差に配慮し、利用者間の不公平感を抑制することや、サービス提供量と比べて過大な報酬とならないよう、きめ細かな報酬体系とする方向で検討が必要である。
3. 市町村が実施主体となる事業による仕組み
中山間・人口減少地域においては、サービス需要の減少により、単独サービスでは安定的な経営に必要な利用者の確保が困難なケースも想定される。こうした状況でも高齢者へのサービス提供を維持・確保するため、市町村が、給付の仕組みと同様に介護保険財源を活用して、介護サービスを事業として柔軟に実施できる新たな選択肢を設けることが考えられている。この仕組みでは、利用者ごとの個別払いではなく、事業の対価として事業費(委託費)により支払いを行うことで、収入の予見性を高め、経営の安定につなげられる可能性が指摘されている。
Ⅱ.介護人材の確保と生産性向上・経営改善の推進
介護人材の確保は依然として最大の課題であり、労働力がさらに減少していく中で、人材の確保・育成、働き方改革、そして医療・介護現場の生産性向上が重視されている。
1. 生産性向上に向けた多面的な支援策
介護現場における生産性向上は、業務内容の明確化や見直しを行い、職員間の適切な役割分担(タスクシフト/シェア)を実施した上で、テクノロジーの活用を進めることが重要とされている。
特に、ケアプランデータ連携システムの利用促進は、事務作業の手間や時間の削減、従業者の心理的負担軽減、ライフワークバランスの改善といった効果が期待されている。また、国や都道府県は、生産性向上に関する相談を総合的・横断的に取り扱う「介護生産性向上総合相談センター」を令和8年度までに全都道府県に設置することを目指し、ワンストップ型の窓口で地域の実情に応じた相談対応や研修、介護ロボット等の機器展示や試用貸出対応を実施する。
2. 協働化・大規模化による経営安定化
小規模経営の介護事業者が安定的に事業を継続するためには、他事業者との連携・協働化(複数の法人が連携体制を構築し、間接業務の効率化や人材育成などを共同で実施すること)や、大規模化による経営改善の取り組みが必要である。協働化は、人材募集や研修の共同実施といった取り組みが進められており、資材・物品・ICTやテクノロジー機器等の一括仕入れによるコスト減や、外国人材も含めた育成支援などのメリットが期待される。
3. 職場環境改善とハラスメント対策
職場環境改善に向けては、ハラスメント対応の取り組みを講じることが重要である。介護分野では、男女雇用機会均等法等における事業者の責務を踏まえつつ、運営基準等に係る省令でハラスメント対策を義務付けているが、今後は改正労働施策総合推進法を踏まえ、利用者やその家族によるカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止に必要な措置を事業主に義務付けることとされており、こうした動向を踏まえた取り組みが求められる。また、介護職員の離職防止のため、都道府県において介護職員からの職場の悩み等に関する相談を受け付ける窓口を設置する事業も進められている。
Ⅲ.ケアマネジメントの専門性向上と負担軽減
介護保険制度を運用する要として重要な役割を担うケアマネジャーについて、その専門性を十分に発揮し、高齢者への支援に注力できる環境を整備することが必要である。
1. 業務の整理と役割分担の明確化
ケアマネジャーは、ケアプランの作成や給付管理といった法定業務に加え、身寄りのない高齢者等への生活課題への対応として、ゴミ出し、通院時の送迎、死後事務といったシャドウワークを実施せざるを得ないケースが一定数生じている。
この負担を軽減し、質の高いケアマネジメントを実現するため、居宅介護支援事業所は個々の利用者に対するケアマネジメントに重点を置き、地域包括支援センターは、社会資源への働きかけを含めた地域全体の支援(地域マネジメント)に重点を置くという役割分担の整理が適当とされている。シャドウワークについては、ケアマネジャーの業務上の課題としてではなく、地域課題として市町村が主体となり地域全体で対応を協議すべきであり、地域ケア会議を活用しながら実効的な課題解決につながる取り組みを推進する方向性が示されている。
2. 資格要件の見直しと法定研修の負担軽減
ケアマネジャーの担い手は10年以内に急激に減少していくことが見込まれており、人材確保のため、資格取得要件の見直しが進められている。質の確保を図りつつ、幅広い職種・資格からの受験を促す観点から、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士、公認心理師について、新たに受験資格として認めることが検討されている。また、現行の5年の実務経験年数についても、3年に見直すことが考えられている。
さらに、時間的・経済的負担が大きいという課題が指摘されている法定研修について、ケアマネジャーの資質の確保・向上を前提としつつ、可能な限り負担の軽減を図ることが重要である。具体的には、更新研修を資格更新の要件とする仕組みを廃止し、その代わりに一定期間(例えば5年間)に分割して受講できるなど、柔軟な受講環境の整備を行うことが検討されている。
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。
