1.外国人の研修生が日本を避ける時代
令和6年度介護報酬改定において、EPAや技能実習生に対する見習い期間6ヶ月が緩和されて、一定の要件を設けることで配置日から介護職員として配置できるようになった。
しかし、その外国人の研修生が日本を避けるようになっている。長期化する円安で、就労賃金が諸外国に比べて不利2040年には、国内の介護職員が69万人以上不足する予想も出ており、人材確保が大きな課題となっている。
2.介護職員等処遇改善加算の創設
5月をもって、現行の介護職員処遇改善3加算が廃止となり、新たに創設される介護職員等処遇改善加算に一本化される。
特例として、令和6年度末(令和7年3月)まで算定できる、加算区分Ⅴ(1)―(14)が設けられた。この区分は、現時点に於いて処遇改善加算Ⅲ区分を算定するなどで、すぐには対応出来ない場合を想定した特例措置である。
新加算のポイントは、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップとするための措置が含められていることである。
新加算の算定率には、2年分の賃上げ分を含んでいる。そのため、6月に移行した段階で算定率は、現行の3加算と2月からの支援補助金を合計した加算率より高く設定された。この増加分は、6月から前倒しで支給しても良いし、令和6年度は職員には支給せずにプールしておいて、令和7年度に繰り延べて支給しても良いとされた。
しかし、繰り延べる方法を適用する場合、2つの問題が発生する。
1つは、繰り延べて増額した部分の賃金相当分が令和8年度以降の加算で補填されないことである。すなわち、8年度以降の支給は自腹となるのだ。
2つ目は、繰り延べした部分の収益は令和6年度の収入となり、法人税の課税対象となることである。厚生労働省は、この税金対策として賃上げ促進税制の活用を挙げているが、この措置は一般的では無く、税理士も首を傾げる。それらを勘案すると、6月から前倒しでの支給がベストの選択と考える。
3.簡素化された算定要件
新加算の算定区分は4区分である。
現行の3加算の算定要件が、かなり簡素化されており、算定における事務負担が軽減された。特に現行の特定処遇改善加算の要件である、全職員をA-B-Cに振り分けて配分の上限と所得制限を設けていた2分の1要件が廃止となった。特定処遇改善加算Ⅱの算定要件で残る要件は、経験10年以上で介護福祉士を持つ介護職員から1名以上、年収440万円以上の者を求める要件のみである。これも、すでに配置されている場合はそれで問題はない。しかし、令和7年度からは、同要件で認められて居る月額8万円の昇給の要件が廃止される。そのため、新区分のⅠまたはⅡを算定していた場合、年収440万円以上の者を設定出来ない場合は算定区分3にダウンするので注意が必要である。
また、月給改善として求められる部分は、現在のベースアップ等支援加算とは要件が異なり、区分Ⅳの算定率で計算した加算額の2分の1を月給改善として設定する事になっている。この要件は令和7年度から適用される。
令和6年度は、現在のベースアップ等支援加算および支援補助金で設定した月給改善額を維持することになる。また、現在においてベースアップ等支援加算を算定していない場合は、算定した場合として計算した加算額の3分の2以上を月給改善額として設定するとされた。
4.変わる職場環境等要件
算定要件の一つである職場環境等要件は、令和7年度から大きく変わる。
生産性向上のための業務改善の取組を重点的に実施すべき内容に改められる。それは、厚生労働省の生産性向上ガイドラインに示されている。主とする部分は、業務改善委員会の設置、職場の課題分析、5S活動、業務マニュアルの作成、介護記録ソフト、見守りセンサーやインカムの導入、介護助手の活用などである。
ただし、令和6年度は、これまでの職場環境等要件が適用される。新たな職場環境等要件は、小規模事業者にはハードルが高いため、特例措置が設けられた。
5.求められる生産性向上による業務改善とICT化
今回の介護報酬改定全体で、施設系を中心に生産性向上を求める方向は強化された。介護施設等には、生産性向上委員会の設置が、経過措置3年と共に義務化された。業務改善やICT化に先進的な取り組みを行う介護施設等を評価する生産性向上推進体制加算も創設されている。この加算を算定することで、新たな職場環境等要件の生産性向上の部分をクリアするとされた。
これらの制度上の義務化に関わらず、ICT化を積極的に進めることが重要である。そして、ICT化の進んでいる施設には、若い優秀な職員が集まる。
職員の若返りを図るにはICT化は不可欠である。
出典:厚生労働省 第239回社会保障審議会介護給付費分科会
【参考資料1】令和6年度介護報酬改定における改定事項について P108より転載
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。