令和6年1月22日に令和6年度介護報酬が答申された。
基本報酬においては、特別養護老人ホームでは、総じて2.8%程度のプラスとなっている。しかし、訪問介護は、30分以上、1時間未満の身体介護で見た場合、基本報酬が-2.3%のマイナス改定となっている。単位にして6単位のマイナスである。ホームヘルパー不足が表面化して、経営的に厳しさを増している訪問介護の大きなマイナスは、介護業界を震撼させている。
訪問介護は加算の算定でマイナス分をリカバリしようにも、位置づけられている加算の種類が圧倒的に少ないサービスでもある。稼働率を上げて対応しようにも、ホームヘルパーの有効求人倍率が15倍を軽く超えている現状では、それも難しい状況だ。
今回、答申された介護報酬で今後3年間の事業運営を進めなければならない。最早、基本報酬に依存する時代は終わったと言える。今後は加算を積極的に算定しての収益維持の時代となっている。同時に、業務改善の取組やICT化が急務となっている。介護報酬に依存しない経営改善を進めていかなければならないのだ。
そのような中で、今回の介護報酬改定に於いて位置づけられた減算を見ていこう。
目次
- 業務継続計画未策定減算と高齢者虐待防止措置未実施減算
- 訪問介護と居宅介護支援への同一建物減算
- 介護予防訪問リハビリテーション、介護予防通所リハビリテーション
- 身体拘束廃止未実施減算
- 訪問看護の理学・作業療法士、言語聴覚士によるサービス
1.業務継続計画未策定減算と高齢者虐待防止措置未実施減算
令和6年4月より、BCP作成と高齢者虐待防止措置への未対応事業所には減算が適用される。BCPは特例措置があり、基本的には令和7年4月からであるが、虐待防止措置は令和6年4月から適用される。
業務継続計画未策定減算.は、施設系は3%、その他のサービスは1%。高齢者虐待防止措置未実施減算も1%である。注意すべきは、BCPの義務化は令和6年4月であることには変わりはないという事だ。減算とならなくても、運営指導で運営基準違反として指導対象となる。やはり、BCPの作成と高齢者虐待防止措置は年度内に完了しておくことが必要だ。また、業務継続計画未策定減算の算定要件に、「当該業務継続計画に伴い必要な措置を講ずること。」が示されている。BCPの未策定だけでは無く、研修、訓練、見直しの未実施も減算の対象と成る。また、高齢者虐待防止措置未実施減算は、委員会の開催、指針の整備、研修の実施、専任の担当者の設置の4つを実施していない場合に減算となる。
【資料1】令和6年度介護報酬改定の主な事項について[4.3MB] P19より転載
2.訪問介護と居宅介護支援への同一建物減算
同一建物減算は、訪問介護が強化され、居宅介護支援に創設される。
訪問介護は、新たに12%減算の区分が創設される。前6ヶ月の提供件数の内、同一敷地内または隣接する建物に居住する利用者が90%以上である場合に適用となる。
居宅介護支援は5%の減算である。事業所の所在する建物と同一敷地内、または隣接する建物に居住する利用者は、1名から減算。同一建物に居住する利用者が20人以上である場合に適用となる。
【資料1】令和6年度介護報酬改定の主な事項について[4.3MB] P41、P43より転載
3.介護予防訪問リハビリテーション、介護予防通所リハビリテーション
介護予防訪問リハビリテーション、介護予防通所リハビリテーションでは、12月が経過した後の減算について、現在の6倍という大きな単位が減算となる。
デイケアの場合、要支援1が20単位から120単位に、要支援2が40単位から240単位にである。同時に、定期的なリハビリテーション会議などとともに、LIFEを活用していた場合、減算を免除するとした。
介護老人保健施設の短期集中リハビリテーション実施加算もLIFEの活用を含む取り組みを行っている場合の新区分が設けられた。今回の改定では、訪問サービスと居宅介護支援へのLIFE加算の適用は見送られたが、広範囲にLIFE関連の加算が拡大している。
【参考資料1】令和6年度介護報酬改定における改定事項について[5.8MB] P74より転載
4.身体拘束廃止未実施減算
ショートステイと多機能型に、身体拘束廃止未実施減算が適用される。経過措置は1年である。身体拘束に掛かる委員会の開催、指針の整備、それに基づく研修の実施である。
訪問サービス、通所サービス、福祉用具、居宅介護支援については、減算にはならないが、緊急やむを得ない場合の身体拘束について、記録の作成が義務化された。記録の内容は、身体拘束の態様、拘束時間、その間の利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由である。この四点を、拘束を行う度に、利用者毎に記載しなければならない。また、今回、減算から外されたこれらのサービスも、次回改定で減算となる可能性が高い。
【参考資料1】令和6年度介護報酬改定における改定事項について[5.8MB] P53より転載
5.訪問看護の理学・作業療法士、言語聴覚士によるサービス
理学療法士等の訪問看護での基本報酬及び12月を超えた場合の減算について厳格化された。
①訪問看護事業所における前年度の理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えていること。
②緊急時訪問看護加算、特別管理加算及び看護体制強化加算をいずれも算定していない。
のどちらかに該当した場合には、1回につき8単位を所定単位数から減算となる。
【参考資料1】令和6年度介護報酬改定における改定事項について[5.8MB] P139より転載
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。