大きな報酬改定がある2024年もスタート、介護業界を読み解きます。
目次
- 改定率の考察
- 過去最大規模の改善項目への対応が求められる
- 今回の報酬改定のキーワードは3つである
①経営の大規模化
②生産性の向上
③事業体のレベルアップ - まとめ
1.改定率の考察
令和6年度介護報酬改定率は、現実的には0.61%のプラスに留まった。この数字は、前回の0.7%を下回る。近年の物価上昇を考えると、実質的にマイナス改定である。
公表された改定率1.59%には、0.98%の処遇改善部分が含まれている。
2月から実施される6,000円相当の処遇改善は介護職員支援補助金として5月まで実施される。6月より、令和6年度の報酬アップ分として、新たに一本化される介護職員等処遇改善加算に組み込まれる。6,000円相当の処遇改善は2%程度の賃上げに相当するとされている。しかし、この数字も日経新聞の賃金動向調査による賃上げ率3.89%に遠く及ばない。いずれにしても、介護事業の経営者は、介護報酬に頼る事無く、自社努力による経営改善が強く求められる結果となった。
介護保険の財源は、半分は国民負担の介護保険料で賄われている。介護報酬の引き上げは、介護保険料の引き上げにも繋がる。今回の介護報酬改定審議では、何度もメリハリという言葉が飛び交った。どこかを引き上げたら、どこかを引き下げてバランスを取ると言うことである。実際に、同一建物減算の強化や創設などによって、収入がダウンする事業者も出てくる。皆が一律でプラスになる事は無い。
2.過去最大規模の改善項目への対応が求められる
今回の介護報酬改定の施行時期は介護サービスによって異なる。
訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、居宅療養管理指導の4つのサービスは6月1日の施行となる。それ以外の介護サービスは、従来通りに4月1日から施行される。
現行の3つの処遇改善加算は、新たに介護職員等処遇改善加算として一本化される。その施行時期は6月1日となるので注意が必要である。2月からスタートする一人6000円相当の処遇改善は、支援補助金として5月まで算定となる。よって、職員額の支給金額の見直しと、3分の2以上を月給で支給する算定要件を満たす必要であり、計画書も求められる。
令和6年4月(一部6月)より、BCP作成と高齢者虐待防止措置への未対応事業所には減算が適用される。BCP減算には特例措置がある。基本的には令和7年4月から減算となるが、虐待防止措置は令和6年4月から適用される。注意すべき点は、BCPの義務化は令和6年4月であることには変わりはない という事である。減算とならなくても、運営指導で運営基準違反として指導対象となる。
従来の介護報酬改定は、既存の加算には殆ど触れることが無かった。そのため、新設の加算を算定しなければ、報酬改定があって日常業務は従来通りで良かった。しかし、前回の改定辺りから、既存の加算要件が変更となるケースが出始めた。その事を知らずに従来通りの業務を続けた結果、運営指導で発覚して、返還指導となるケースが出始めている。多くの加算の算定要件が変更されるため、前回以上の注意が必要となっている。
同時並行で審議されていた介護保険法関連の論点も結論が出された。一号被保険者の介護保険料負担額においては、高所得者の保険料負担を増やし、低所得者の保険料負担を緩和する。医療系施設の多床室料の自己負担化は、介護医療院のⅡ型と介護老人保健施設の療養型とその他型については、令和7年8月から実施される。自己負担2割の対象者拡大は見送られて、次期改定に向けた継続審議となった。結論を言うと、令和6年度介護報酬改定は、事業者の大規模化を促進するための改定である。さらには、事業所自体の質の向上を求める改定でもある。
3.今回の報酬改定のキーワードは3つである
今回の報酬改定のキーワードは、①経営の大規模化、②生産性の向上、③事業体のレベルアップの3つである。
①経営の大規模化
居宅介護支援事業所は、介護支援専門員1人当たりの取扱件数が、39件から44件に拡大され、ケアプランデータ連携システムを導入し、事務員を配置している場合は49件とされた。また、予防ケアプランのカウントが二分の一から三分の一となったことは賛否両論が渦巻く。間違いなく言えることは、この改定項目は大規模な居宅介護支援事業所に非常に有利であると言うことだ。
ICT化が促進し、事務員が配置され、ケアプランデータ連携システムが導入されていれば、業務の効率化が促進されているため担当件数の拡大は容易である。もちろん、ケアマネジャー個々人のスキルや担当の難易度などに左右されるが、全体的に担当件数の底上げは容易である。業務改善を進めた上で、ケアマネジャー1人あたりの売上を80万円近くまで拡大する事が可能なのだ。ケアマネジャーが10人体制では年商1億円も視野に入ってくる。
逆に、小規模な居宅介護支援事業所には、担当件数の増加は重荷となる。モニタリング訪問の特例でのTV電話等の活用も同様である。今回の改定で、小規模事業所と大規模事業所の収益性の格差は一層、拡大して行くだろう。居宅介護支援への同一建物減算の適用の方向も逆風となる。
【資料5】居宅介護支援・介護予防支援[4.8MB]
通所リハビリテーションでは、大規模減算の縮小が打ち出された。基本報酬に於ける区分で、大規模ⅠとⅡが統合されて通常規模との2区分の報酬体系となる。さらに、リハビリテーションマネジメント加算の算定率とリハ職の配置次第では、大規模居事業所でも通常規模の報酬を算定出来ることは画期的である。これによって報酬面での大規模化の不利を払拭して、大規模化を推進する方向が明らかになった。
②生産性の向上
生産性向上が重くのし掛かる改定でもある。介護施設等には、生産性向上委員会の定期開催が3年間の経過措置付きで義務化された。介護職員等処遇改善加算の算定要件である職場環境等要件においても、現場サイドで生産性向上の取組を強く求める改定である。業務改善活動の体制構築、職場課題の見える化、5S活動、情報共有、介護記録ソフト、介護ロボット、介護助手などへの取組の推進である。ICT化に取り組む事で、業務改善が進む可能性は高い。仮にICT化が実現できたとしても、介護現場職員の高齢化によって、使いこなせないという現実に直面する場合も多い。理想と現実のギャップをどのように埋めるかが経営課題となる。
③事業体のレベルアップ
そして、事業体のレベルアップである。通所介護等のADL維持等加算の区分Ⅱにおける算定要件である利得数字が2から3に引き上げられる。これも、現状で満足せずに更なる利用者の機能改善を求める措置である。また、多くの加算に上位区分が設けられる。当然に報酬単位が増えるのであるが、相当分が現在の区分の報酬単位が引下げられる付け替え措置となる。すなわち、上位区分の算定要件をクリアすることで収入が増加するが、現状維持に甘んじていると収入が減少することとなる。
4.まとめ
特に大規模化推進の傾向は、介護サービス全体に言えることだ。小規模事業所ほど、対応に苦慮する改定となったことは否めない。コロナ禍が終わり、時代は新たな時間へ移行が進んでいる。介護業界も例外ではない。
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。