目次
- 科学的介護推進体制加算算定が必須である
- LIFEを活用しないと加算算定が出来なくなる
- LIFEフィードバック活用の意味
- LIFEの継続活用がケアの質を向上させる
- 事業所別フィードバック票の読み方
- 利用者別フィードバック票の読み方
- 同時並行として業務改善、効率化に取組む
1.科学的介護推進体制加算算定が必須である
LIFEのフィードバックは、2023年6月30日より事業所別、利用者別、加算別フィードバック票の提供がスタートした。同時に、暫定版の終了がアナウンスされた。これによって、加算算定の為には、本格的にフィードバックの活用が必要となっている。
LIFEが始まって2年弱の間、フィードバック票が暫定版であったことを理由に、LIFEにデータを提出するのみで、単に加算だけ算定するケースが大部分であった。問題は、利用者様に加算として費用をご負担頂きながら、何も利用者様に還元して来なかったことにある。利用者別フィードバック票の提供が始まった今は、その言い訳は通用しない。しっかりと利用者にその成果を還元することが求められている。実際に最近の運営指導において、LIFEの活用状況を確認されて、指導対象となるケースも増えている。
そうした中で、科学的介護推進体制加算を算定せずに、個別機能訓練加算やリハビリテーション・マネジメント加算など、その他のLIFE関連加算のみ算定している介護施設も存在する。残念ながら、これではLIFEを十分に活用する事は出来ない。科学的介護推進体制加算はメインディッシュ、他の加算はトッピングの関係にあるからだ。メインディッシュだけで十分に美味しいのであるが、トッピングを加えることで更に美味しさが増す。しかし、トッピングだけを食べても十分な満足感は得られないし、あまり美味しくは無い。
どういう事か。
個別機能訓練加算やリハビリテーション・マネジメント加算のLIFE提供で得られるフィードバック票は、ADLとIADLに限られる。この2つの評価指標だけであれば、なにもLIFEを使う必要は無い。さらに、科学的介護推進体制加算の評価指標では、ADL情報も提供されている。ここでは、データが重複する。科学的介護推進体制加算を取っていれば、個別機能訓練加算やリハビリテーション・マネジメント加算でのLIFEへの提出は不要なのか。否である。それらの加算を算定する事で、IADLの評価指標が追加され、更に活用を深掘りできるようになる。リハビリテーションの成果を得るためには、ADLやIADLの推移だけを検討するのではなく、栄養改善や口腔ケア等の幅広い情報を活用して、原因分析や解決策を検討する必要があるのだ。LIFE関連加算の位置づけは、基本ベースに科学的介護推進体制加算があって、そこに他のLIFE加算を上乗せすることで評価指標が増えて、分析範囲が拡がるという関係になっていることの理解が必要である。
また、リハビリテーション・マネジメント加算などでは、提出項目に「必須項目」と「任意項目」が設けられている。必須項目だけでも十分であるが、任意項目を提出することで、フィードバック票に反映される項目が増えて、さらに広範囲に分析が可能となる。しかしながら、LIFE提出データを手入力されている場合は必須項目に留めておくべきだ。事務負担が増えるからである。介護記録ソフトを活用しているならば、是非、任意項目の提出も検討頂きたい。いずれの場合も、LIFEに求めるものが何かと言う点がポイントになる。
2.LIFEを活用しないと加算算定が出来なくなる
今(令和5年10月現在)まさに、令和6年度介護報酬の改定審議が進められている。
前回の令和3年度介護報酬改定に於いては、リハビリテーション・機能訓練、口腔ケア、栄養改善に関連する創設加算のすべての算定要件に、LIFEへのデータ提出と活用が組み込まれた。このことから、今後創設される加算においても、LIFEを活用しないと算定出来なくなる可能性が高い。また、既存の加算についても、今後算定要件にLIFEの活用が組み込まれる可能性もある。
現在、LIFEの活用は義務ではない。しかし、LIFEの活用なしには加算が算定出来なくなっていく。そして、活用するからには、単に義務的に行うのでは無く、自らの介護サービスの質の向上に繋がる取組を行うべきである。
3.LIFEフィードバック活用の意味
LIFEのフィードバックにおいては、データから見える利用者の状態やケアの実績に関する情報だけではなく、「どのような状態を目指していたか」「どのようなケアを行ったか」といった情報と合わせて解釈することが重要となる。 フィードバック票を気づきの「きっかけ」として、職員間、また利用者や家族と話をすることで、より良いケアに向けた議論を行うことが可能となるからだ。
介護従事者は、利用者に直接ケアを提供している。利用者の状態を評価した上で、各利用者の希望や要望をふまえて、適切なケアを提供していく役割を担っている。全ての利用者が質の高いケアを受けることができるように、介護従事者は、「バーセルインデックス※」など共通の評価指標を用いて利用者の状態の評価ができるようになることが先決である。そして、計画書等の情報やLIFEのフィードバック、日々の利用者との関わりを通して把握した情報を踏まえて、ケアの改善に取り組むことが大切となる。これらの役割分担の意味を理解して、定期的に共通の評価指標ですべての利用者を評価していく。これらをやり続けることで、職員のスキルが確実にレベルアップする。その結果、介護施設全体のケアの質が向上に繋がる。利用者はより高いレベルのケアを受けることが出来るようになる。LIFEの効果は、利用者、職員ともに満足度がアップすることにある。この点で、利用者に費用を負担頂く意味があると言える。
※バーセルインデックスとは…こちらの記事をご覧ください。
4.LIFEの継続活用がケアの質を向上させる
一般的に、サービス提供期間が長くなるほど、その利用者への固定概念が出来てしまう。
【Aさんは、こういう方なので、この介護を行わなければならない。】という思い込みである。その結果、Aさんとは、正面から向き合うことだけが日常となる。しかし、LIFEがスタートしたことで、半年毎に共通の評価指標で評価を行うようになった。その結果、Aさんの正面だけでは無く、横顔、後ろ姿などにも自然と目を向けるようになる。そこに新たな気づきが生まれる。
例えば、見た目がとても似ている利用者が3人居たとする。一人だけが肌が乾燥気味である事に気づいていた。しかし、乾燥肌である程度にしか考えていなかった。LIFEでの定期的な評価が始まると、その肌が乾燥している利用者が、他の2人より栄養状態が良くないことが判明した。この方に早急に、栄養改善プログラムを立てて対応した。
このような新たな気づきが、日常業務の中で起こることで、確実に担当職員のスキルをレベルアップさせる。この作業プロセスを廻し続けることで、利用者への視点が確実に広くなり、ノウハウが構築されていく。結果として、介護施設全体のケアの質の向上に繋がっていく。
これがLIFEの求めるものである。LIFE加算の算定要件には、一つもアウトカム(成果結果)を求めるものはない。算定のプロセスをやり続ける事だけを求めている。その理由は、プロセスをやり続けることで、時間の経過と共に職員のスキルが向上して、介護施設全体のケアの質が向上することで、結果としてアウトカムに繋がるからである。
5.事業所別フィードバック票の読み方
LIFEのフィードバック票は、事業所別、利用者別、加算別フィードバック票が提供されている。今後は、加算算定の為には、本格的にフィードバックの活用が必要となった。この活用方法は各事業所のノウハウとなり、時系列のデータ資産として積み上げられていく。ひいては、事業者間の格差を拡大して、差別化が加速する要因となっていく。今、しっかりとフィードバックの活用に取り組む事が重要な経営課題となっている。
事業者別フィードバック票は、全国値との比較が前回データとの対比で表されている。ここでは、全国値を物差しとして、自分の施設の立ち位置を把握する。上回っている項目は、自施設の強みなので、さらに伸ばすことを目指す。下回っている項目は、要改善項目なので、対応策を検討する。その結果は、次回のフィードバックで確認出来る。このプロセスを継続する事で、その対応策と成果が、自らのノウハウとして積み重ねられて行く。
6.利用者別フィードバック票の読み方
利用者別フィードバック票は、前回提出分との比較表での提供となっている。
まず、利用者毎の現在の状況と時系列の推移を確認することから始める。データ解釈時の注意点としては、指標の数値と変化は、必ずしもケアや状態の善し悪しを反映しないことである。利用者については、背景や介護サービスの利用目的、期間中に取り組んだ内容、入院や他のサービスの利用状況など、多様な要因が期間中の変化に関連する事などを担当職員間で理解しなければならない。その上で、利用者の変化や提供した介護サービスの取組状況を考慮して、検討会議などで結果を共有して検討し、介護サービスの改善、ひいてはケアの質の向上に繋げることが活用の目的となる。利用者別フィードバック票自体はあくまでも資料であって、それ以上でも、それ以下でも無い。なぜ、その評価指標の数字が変化しているのかを、直接にケアを担当している職員が、多職種で議論を行う必要がある。そこには、日頃から問題意識を持って、如何に介護のプロとして利用者に接してきたかが問われる。また、すべての職員が各評価指標の意味を知らないことには始まらない。
例えば、ADLの評価指標であるバーセルインデックスを活用して利用者を評価するとした場合、リハビリ職だけで評価、分析、検討するならば、その専門職の視点のみでの解釈となる。この時、介護職員、看護職員、生活相談員、管理栄養士、衛生士などが分析、検討に参加することで、各職種の視点での分析が加えられ、幅の広い解釈が可能となる。同時に各職種の知見が拡がっていく。結果として、各職種のスキルアップ、レベルアップにつながり、引いては施設、事業所のケアの質の向上に繋がっていく。これが多職種連携のメリットであり目的である。
7.同時並行として業務改善、効率化に取組む
フィードバック票の活用での注意点は、必ずしも全国値を下回っていたから、改善が必要とはならないことである。これは利用者データの悪化についても同様だ。例えば、看取りに力を入れている施設の場合、BMIや食事の摂取量が平均よりも低いのは自然なことである。自分の施設の立ち位置を把握した上で、フィードバック票に向き合いうべきだ。LIFEの活用を上手く機能させるためには、多職種が連携して、利用者の更なる状態の改善に取り組む必要がある。多職種連携における最大の課題は、介護業界における慢性的な人材不足だ。各職種が集まってカンファレンスを行う時間が確保出来ないという事業所も多い。各加算の算定要件である多職種協働についても、事後報告に近い形で終わっているケースも多く見かける。しかし、それでは各職種の知見が拡がらないし、各職種のスキルアップ、レベルアップにつながり、引いては施設、事業所のケアの質の向上に繋がるというメリットが活かせない。LIFEを活用するためには、同時並行としての業務改善、効率化に取組むことも重要である。
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。