1.はじめに「介護行政は記録主義である」

サービス提供記録、支援経過記録、ケアカンファレンス記録、機能訓練記録、お泊まりサービスにおける夜勤業務記録など、介護サービスの運営においては、いろいろな「記録」を作成する必要がある。介護サービスの基本は「計画」によって実施されて、「記録」によって確認・報告されるシステムになっている。たとえば、会社において出張経費を精算するときには、必ず領収書という証憑書類を提出しないと経理部門は旅費費用を払ってくれない。同様に、介護サービスにおいては「記録」がないと、サービス提供の事実が確認できないとして認められない。

介護保険制度は記録主義で、記録があって初めて認められる世界である。運営指導で何か問題が起こった時に、守ってくれるのは記録だけである。記録は日頃から漏れなく記載する癖を付ける必要がある。記録は簡潔に、5W1Hを基本で記載する。すなわち、When(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)を念頭に文章をまとめる。運営指導での記録関連で指摘事項の多くが、表現が曖昧である、具体的で無い、という文章表現も問題である。誤字脱字の多い場合も指摘され、ただ長いだけの文章も不可である。

この記事で運営指導対策として、日々の運営上の記録について気を付けておくことを解説し、事業所の準備が効率行えるように支援していきたい。

記録が重要の図

出典:小濱介護経営事務所作成

2.基本的な記録の付け方について

今の時代は、記録は手書きよりも、介護記録ソフトを活用して、パソコンやタブレットに直接に入力することが多くなっている。介護報酬請求や各種記録帳票までを一気通貫で処理するシステムが増えてきた。その入力方法も簡素化されていて、基本的な文章がシステムで複数用意され、ただ選ぶだけという場合も多い。しかし、記録はただ有れば良いというものではない。特に、個人観察や異常動作などについては、個別の問題として自分の文章で記載する必要がある。そのためにも、基本的な記録の書き方、付け方を学ぶ必要がある。また、減ってきているとは言え、手書きでの記録もまだまだ主流である。まずは基本的な記録の仕方を解説して行く。

(1)記録の最低限の記載項目記録はWhen(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)が基本

すなわち、日時、場所、担当者名、結果や成果、原因、その方法やプロセス、をできる限り詳細に記載する。これをできる限り簡潔な文章にまとめる。この点は、繰り返し多くの記録を書き込むことで自然にスキルがアップする。ただし、ある程度のレベルに達するまでは上司などがチェックする必要がある。

(2)記録の改ざんを疑われないようにする

記録は何かあった時に守ってくれる、唯一の証拠である。同時に、それを悪用する場合は改ざんされる懸念もある。そのため、改ざんされたものでは無いという態勢を整えておく必要がある。記録は、鉛筆など、あとから消しゴムで消したり、書き直しが出来るものは不可だ。記入にはボールペンなどを使うようにする。ちなみに修正液も不可だ。もし書き間違いがあった場合は、見え消しでラインを引いて、その上に書き直す。厳密には訂正印を押すのが本来の処理方法である。訂正印とは、直径2−3㎜程度の訂正専用の印鑑のことだ。通常の大きさの印鑑を押すことは、周りの文章が読みにくくなりますので控えなければならない。文字と文字の間が目立って空間を取るような、後から書き足せるようにスペースを空けておく等も厳禁である。同じ筆跡でも、付け足しの場合は見ただけで不自然なバランスになる。そのような行為が分かると、事業所全体が信頼を無くして、運営指導が厳しく見られることになる。

パソコン入力の場合、入力日や訂正した日の日付がパソコン上に残る。運営指導などで書類の改ざんが疑われた場合は、パソコン上での日付が確認されるので注意しなければならない。監査になるとパソコンが押収されたりもする。やむを得ず後日、パソコンの文章の手直しを行う場合は、その理由や変更箇所を分かるように別に記録を付けておくといった対応を怠ってはならない。それらの手間がすべて記録の信憑性に繋がる。信頼のおけない記録には意味がないのだ。近年は、介護記録ソフトで記録をする方法が主流となってきた。その場合であっても、文章表現には注意が必要だ。また、管理画面などで作成日や修正日が確認出来る場合もあるので、あとで纏めて処理等はあってはならない。

(3)サービス提供記録の注意点

サービス提供記録は、介護サービスを提供したことの証拠であり、介護報酬請求の根拠となる。そのため、サービス提供記録が無い、記録の内容に不足や不備がある、などの場合は「介護サービスの実施の事実が確認できない」として介護報酬の返還指導となりえる。
例えば、通所介護のサービス提供記録の項目には、以下に示したものがあり、これらは最低限必要である。特に「サービス提供時間」は、介護報酬の請求の根拠として、実際にサービスが提供された実時間を記載しなければならない。

「通所介護のサービス提供記録の項目」

  1. 日付、サービス提供時間、
  2. バイタル(体温、脈拍、血圧)
  3. 入浴の記録
  4. 食事の状況(形態、量、水分など)
  5. 排泄(状態、回数)
  6. サービスの提供内容、時間、担当者

サービス提供記録に、最初から開始時間と終了時間が印字してある場合や、開始時間と終了時間の記載が無い記録を見かける。例えば、サービス提供記録に最初から印字してある開始時間が10時。しかし、当日の送迎記録を見ると、到着が遅れて10時10分となっている。この時点で、そのサービス提供記録の信憑性は失われる。手書きの手間を惜しんで、介護報酬の返還や信用の失墜となっては意味がない。必ず、サービス提供時間は、利用者毎の実提供時間を都度記入する。提供記録に時間の記載がない理由を尋ねると、多くの場合「送迎記録を見るとわかるから」と返事が返ってくる。しかし、送迎記録に記載されているのは、到着時間と出発した時間である。到着イコール、サービスの開始時間ではない。これでは、時間の刻印の無いタイムカードで、給与をくれと言っているのと同じだ。

また、サービス提供記録に、保険外サービスの提供時間や提供内容を記載してはならない。保険外サービスの提供記録は、介護サービスとは別に作成する必要がある。これは、勤務実績表も同様である。保険外サービスの提供時間は、介護保険サービスに於ける勤務時間にならない。また、個別機能訓練加算の算定要件である三月に一度の居宅訪問で、介護職員がサービス提供時間内に居宅訪問した場合も、勤務時間とはならないので注意が必要である。

サービス提供記録は、単にサービス提供だけの記録ではなく、利用者の日々の観察記録でもある。サービス内容と共に、利用者の提供時の心身の状況を、備考欄などにできるだけ具体的・客観的に書き込む。

(4)業務日誌の注意点

運営指導では業務日誌の提示が求められる。
業務日誌で主に確認される項目は以下2つである。

  1. その日の利用者数
  2. 管理者の職務

その他の部分は、サービス提供記録で確認される。先の「2.管理者の職務」については、管理者がしっかり一元管理を行っているかが確認される。管理者は必ず業務日誌に目を通して、確認の押印と共に、職員によって記載された内容について指示した内容をコメント欄などに記録する。業務日誌は任意の作成書類であるので、決められたひな型や掲載項目は定められていない。その目的の一つが管理者の管理状況の確認である。

「管理者の管理状況の確認」で必要な記載項目

  1. 職員の遅刻・早退・欠勤とその理由、入退社の記録。
  2. 職員からの相談、指示等の記録。
  3. 利用の申し込み関連の記録。
  4. 担当者会議、打ち合わせ、研修などの実施記録。
  5. 一日の様子などの特記事項。
  6. 計画書に係る打ち合わせ。
  7. 体調急変や事故などのへの指示記録。

この7項目は業務日誌の中で一元的に管理しておきたい項目である。また業務日誌は、欠勤した職員などへの当日の業務内容の報告および引き継ぎ書類の意味合いもある。

(5)研修の実施記録の注意点

管理者の責務の一つに、職員の資質向上を計画的に行うことがある。資質向上とは主に研修を言う。研修を計画的に行っていることの証として、運営指導では年間の研修スケジュールが確認される。整備されていない場合は、管理者の業務に支障が出ているという理由で、最悪の場合は管理者の兼務が認められない。
研修は、内部研修だけではなく、外部研修への参加も重要である。職員に外部研修に積極的に参加させ、その職員が他の職員に内部研修を設けて情報共有させることが、事業所全体のスキルアップに必要だ。
内部研修スケジュールに含める内容は、運営規程に盛り込まれた、衛生管理、防災などの研修は当然として、利用者の権利擁護、虐待防止、身体拘束なども含める。また、介護技術向上だけでなく、介護サービス提供方法や認知症ケア、感染症対策、個人情報保護、コンプライアンス対策にも研修の時間を取ることが大切である。令和3年度からはハラスメント対策の研修も必須である。来年令和6年度からは、BCP,感染対策、虐待防止の研修と訓練も必須となる。運営指導では、これらの情報や知識の研修にすべての職員が参加できて、事業所全体のレベルアップにつなげているか、また年間スケジュールによって計画的に行っているかが確認される。
内部研修または外部研修に参加した場合は、必ず研修記録を作成する。最低限の記載事項としては、実施日時、実施場所、参加者、研修内容、当日の資料などを記載して研修記録ファイルに保存する。当日のレジメに参加者の名前などを書いただけでファイルにとじているケースも見かけるが、これは単なるレジメファイルに過ぎない。記録を作成して保管しなければならない。なお、職員研修の様子を写真に撮って、研修記録と一緒に保管すると運営指導時の印象は良くなる。

(6)防災訓練の記録の注意点

防災訓練の実施後は、必ず訓練記録を作成して保管する。運営指導では、運営規程の記載通りの回数が実施されているかが問われる。忙しいは理由にはならないので、確実に実施しよう。防災訓練は、サービス提供時間に利用者と共に行う。その時間帯は、当日のサービス提供時間に含める事が出来る。さらに、その記録に基づいて、当日の様子を詳細に確認される。事前準備としてお勧めの方法は、訓練の様子を写真に撮ってプリントし、記録とともにファイルしておくことである。写真は、スマホでも撮れるし、カラープリンターを使ってコピー用紙に印刷すればコストも最小限で抑えることがでる。何よりも見ればわかる記録となり、余計な説明が不要となる。写真の活用は、運営指導にはとても有効な方法である。

(7)事故・苦情者への対応記録の注意点

運営指導では、介護サービスが主に高齢者を対象とした業務であるために、事故や苦情対策に対しては厳格な確認が行われる。サービス提供中の事故や苦情があった場合は、必ず記録を付けなければならない。事故は未然に防がなければならないため、ヒヤッとしたことやハッとしたことは「ヒヤリハットシート」に記載する。それを定期的に職員研修での議題として取り上げ、情報共有や事故の防止につなげる。取り上げた内容や意見、対策は研修記録に記録する。とはいえ、ヒヤリハットシートは多忙な日常の中では作成する時間をもつことも厳しいのが現状である。そこで、1か月の中でヒヤリハット週間などを設けて、一定期間に意識的に記録するといった工夫が大切だ。日頃からヒヤリハットシートを記載する習慣をつけなければならない。重大な苦情や事故が起きてからでは取り返しがつかない。運営指導にかかわらず、事業所の全体で率先して取り組む必要がある。

(8)事故発生の報告の記録の注意点

事業所内で起きた事故の程度によっては、役所への届け出が義務となる。その届出基準は役所によって若干異なる。一般的には骨折などの重傷、24時間以上の所在不明、暴行虐待の判明、感染症などの重大な事故があった場合は、2週間以内の届け出が義務である。届け出の有無にかかわらず、どのような事故であっても、事業所としての記録と対策検討、再発防止のための具体策を講じることは義務で、それが出来ているかも運営指導におけるチェックポイントとなる。

報告すべき事故の種類及び範囲の図

出典:小濱介護経営事務所作成

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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