目次

  1. 「責任ある積極財政」が示した介護政策の転換
  2. 経営情報は、これからの介護報酬を左右する
  3. AIは介護経営を支える重要な基盤になる
  4. 2040年に向けて地域ごとの戦略が必要になる
  5. これからは数字に強い介護事業者が選ばれる

1.「責任ある積極財政」が示した介護政策の転換

令和8年7月21日、政府は「骨太の方針2026」と「日本成長戦略」を同時に決定した。

骨太の方針には「責任ある積極財政元年」という副題が付けられ、日本経済を成長させるために必要な分野へ積極的に投資していく姿勢が打ち出された。

これまでの骨太の方針は、社会保障費をできるだけ抑えるという考え方が中心であった。しかし今回は、国内への投資を進め、経済を成長させることで国全体を元気にしていこうという方向へ大きく舵を切っている。その中で、介護も重要な分野の一つとして位置付けられた。

ただし、これは介護に多くのお金が配られるという意味ではない。国が支援するのは、成果を出せる分野や事業者である。介護事業者も、経営改善や生産性向上などの成果を数字で示すことが、これまで以上に求められるようになる。

一方で、介護保険制度の見直しも進められる。介護保険の2割負担の対象者を広げる制度改正については、令和8年度中に具体的な制度設計を進めることが示された。利用者の自己負担が増えれば、サービスの利用を控える人が出てくる可能性がある。つまり、介護事業者には支援を受けるチャンスが広がる一方で、経営環境はこれまで以上に厳しくなる可能性もあるということである。

2.経営情報は、これからの介護報酬を左右する

骨太の方針2026では、次の介護報酬改定に向けて、経営データベースを活用しながら、事業者の経営状況や賃上げの実態を把握し、物価の変動にも対応するとしている。また、介護職員の処遇改善についても、他の産業と見劣りしない水準を目指す考えが示された。

ここで重要なのは、経営情報の提出が単なる事務作業ではなくなるという点である。事業者が提出したデータは全国で集計され、介護報酬を決める際の重要な資料として活用される。そのため、自法人の経営状況を正しく数字で示すことが、これまで以上に重要になる。

例えば、令和7年度の経営概況調査では、通所介護の収支差率が6.2%という結果が公表された。このような調査結果は、今後の介護報酬改定を検討する際の重要な判断材料になる可能性がある。

そのため、介護事業者は日頃から経営数字を正確に整理しておく必要がある。加算収入の区分が適切か、本部経費の配分は適正か、減価償却費や借入金返済の状況を正しく把握できているかなどを確認しておきたい。決算書は税務申告のためだけではなく、介護報酬を左右する資料としての意味も持つ時代になったのである。

3.AIは介護経営を支える重要な基盤になる

日本成長戦略では、AIやデジタル技術を活用して、日本全体の生産性を高めることが重要な政策として位置付けられた。また、骨太の方針でも、AIを幅広い分野で活用し、経済成長につなげていく方向性が示されている。

介護事業者にとって大切なのは、AIや介護ロボットが「便利な機械」ではなく、人材不足を乗り越えるための重要な経営基盤になったということである。

介護現場では、人材不足が今後さらに深刻になると予測されている。その中で、これまでと同じやり方だけで事業を続けることは難しくなる。AIを活用して記録作成や勤務表の作成、送迎ルートの検討、請求前のチェックなどを効率化できれば、職員は利用者へのケアにより多くの時間を使えるようになる。

AIを導入する目的は、人を減らすことではない。限られた職員で質の高い介護を続けるためである。その結果として、生産性が向上し、人件費率の改善や経営の安定にもつながっていく。

4.2040年に向けて地域ごとの戦略が必要になる

2040年問題というと、高齢者が増え、介護人材が不足するというイメージを持つ人が多い。しかし実際には、地域によって状況は大きく異なる。

都市部では85歳以上の高齢者が増え続け、介護サービスの需要もさらに高まる。一方で、人口減少が進む地域では、高齢者そのものが減り始める地域もある。そのため、利用者が減少し、事業の維持が難しくなる可能性もある。

このような地域ごとの違いに対応するため、人口減少地域でも必要な介護サービスを維持できるよう、新たな制度も創設された。今後は、全国一律ではなく、それぞれの地域に合った介護サービスの提供体制が求められることになる。

そのため、介護事業者が確認すべきなのは全国平均ではない。自分たちが事業を行っている地域で、10年後に高齢者が増えるのか、それとも減るのかである。高齢者が増える地域では人材確保や事業拡大を考える必要がある。一方で、高齢者が減る地域では、新たな事業への挑戦や事業の見直しも重要な経営課題になる。

5.これからは数字に強い介護事業者が選ばれる

令和9年4月には、介護報酬改定と制度改正、そして第10期介護保険事業計画が同時にスタートする。介護事業を取り巻く環境は、大きな転換期を迎えようとしている。

これからの介護経営では、経験や勘だけに頼ることは難しくなる。稼働率、人件費率、加算取得率、利用者1人当たりの収支などを日頃から把握し、全国平均や地域の状況と比較しながら経営判断を行うことが重要になる。

数字は経営判断を行うための材料であり、最終的な判断をするのは経営者である。しかし、その判断の質は、どれだけ正確なデータを持ち、それを活用できるかによって大きく変わる時代になった。

さらに、AIやICTを積極的に活用し、生産性を高めながら介護の質も向上させていくことが、これからの介護事業には欠かせない。利用者から選ばれ、職員からも働きたいと思われる事業所になるためには、制度を理解するだけでなく、数字を読み、経営に活かす力が必要である。

令和9年度介護報酬改定は、その大きな分岐点になる可能性が高い。今こそ自法人の現状を正しく把握し、将来を見据えた経営改革に取り組む時である。

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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