2027年度の介護報酬改定に向けた議論は、社会保障審議会介護給付費分科会において2026年4月から本格的に始まっている。5月から7月にかけてはサービス類型ごとの個別討議が続いており、7月9日には有料老人ホーム関連の論点が取り上げられたばかりである。10月以降は具体的な単位数の議論に移り、12月に基準や報酬の骨格がまとまる見通しである。ここでは実際の審議会の進行に沿って、直近の論点を整理する。

目次

  1. 財源をめぐるせめぎ合い、財務省と現場の温度差
  2. 多機能系サービスとグループホーム、5月から議論に着手
  3. 通所系サービス、送迎負担と加算の複雑化が焦点
  4. 訪問系サービスと居宅介護支援、多様な経営実態をどう反映するか
  5. 施設系サービス、基本報酬と有料老人ホームの適正化
  6. 横断的な論点、ケアマネジャーの安全確保も浮上
  7. 複雑になった介護報酬を分かりやすくする
  8. 介護事業所として今できること

1.財源をめぐるせめぎ合い、財務省と現場の温度差

まず押さえておきたいのが、報酬水準そのものをめぐる立場の違いである。財務省は財政制度等審議会において、介護サービスの収支差率が全体平均を上回っている点を材料に、物価上昇の影響下でも過去や他産業と比べて利益率が高い水準にあるとして、報酬の効率化・適正化を主張している。一方、7月9日の分科会では特別養護老人ホームや介護老人保健施設を運営する団体側から、物価高騰で運営コストが増え続ける中、地域のインフラとしての役割を果たすために基本報酬の大幅な底上げが必要だとの訴えが相次いだ。この財源をめぐる対立構造は、以降のすべてのサービスの議論の背景にあると理解しておくとよい。

2.多機能系サービスとグループホーム、5月から議論に着手

個別サービスの議論は5月25日、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)から始まった。共通の課題として深刻な人材難があげられ、サービス提供体制の確保や求められる役割をどう発揮していくかが論点として示された。委員からは厳しい経営環境を踏まえた報酬の底上げ、夜間を含めた人材の有効活用、人員配置基準の見直しを求める意見が相次いだ。

3.通所系サービス、送迎負担と加算の複雑化が焦点

6月15日には通所介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護が取り上げられた。送迎負担の増大や中山間地域・離島における事業継続の難しさ、加算制度の複雑化が共通の課題として挙げられている。厚労省は深刻な人手不足や利用時間の多様化を踏まえ、送迎業務の負担の大きさを現場の課題の1つに位置づけたうえで、算定率の低い加算と高い加算を整理し、事務負担の軽減につながる報酬体系の簡素化を検討する意向を示している。委員からは、質と量を維持するための基本報酬の底上げを求める声が出された。

4.訪問系サービスと居宅介護支援、多様な経営実態をどう反映するか

6月29日には訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、居宅介護支援、福祉用具・住宅改修がまとめて議論された。厚労省は訪問介護の収支差率が9.6パーセントと全サービス平均の4.7パーセントを大きく上回るとするデータを示しつつ、経営状況は事業所の立地、規模、事業形態によって様々であるとし、全国平均だけで現状を捉えず事業所の特性を踏まえた検討が必要との認識を示した。委員からは訪問回数だけでなく移動時間を考慮した評価や、特定事業所加算の算定要件の緩和を求める意見が出た一方、集合住宅に併設されている事業所については介護報酬の適正化を求める声もあり、事業所の形態による評価の差をどうつけるかが今後の焦点になりそうである。福祉用具については、物価高騰による貸与事業所の負担増加を踏まえた上限価格の見直しを求める声が出ている。

5.施設系サービス、基本報酬と有料老人ホームの適正化

7月9日には特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院という介護保険3施設が取り上げられ、基本報酬の大幅な引き上げを求める声が現場団体から相次いだ。そして7月9日の分科会では、特定施設に該当しない有料老人ホーム等について、特定施設入居者生活介護への移行を促し適正性を確保する方向性が論点として示されている。これは、先に成立した改正介護保険法における有料老人ホーム登録制度の創設と表裏一体の議論であり、今後の登録施設介護支援の報酬設計にも直結する重要な論点である。

6.横断的な論点、ケアマネジャーの安全確保も浮上

このほか、すべてのサービスに関わる横断的な論点として、現場職員の安全対策が新たに浮上している。埼玉県川口市で起きた痛ましい事件を受け、訪問系サービスでは複数名で訪問した場合の報酬上の評価を求める意見が出された。ケアマネジャーについても、暴言や威圧といったハラスメント被害の実態調査を踏まえ、専門職を守るための包括的な安全対策の検討が求められている。

7.複雑になった介護報酬を分かりやすくする

全サービスに共通する大きな論点が、介護報酬の簡素化である。介護報酬には、一定の取組を行った事業所に報酬を上乗せする加算が数多く設けられている。しかし、制度が複雑になり、利用者には料金の仕組みが分かりにくく、事業者も書類作成や確認作業に追われている。
そのため、ほとんど算定されていない加算については、必要性や要件を見直し、統合や廃止を検討する。一方、多くの事業所が算定し、すでに一般的なサービスとなっている加算については、基本報酬へ組み込むことも検討されている。

8.介護事業所として今できること

議論はまだ第1ラウンドの段階であり、10月以降の具体的な検討を経て年内に方向性が固まる。今の段階でできることは、自分の事業所が関わるサービスの収支差率や加算取得状況を把握し、財源論と現場の要望の両方がどう着地するかを見極める準備をしておくことである。とりわけ有料老人ホーム関連の論点は法改正と報酬改定が連動する分野であるため、今後の分科会の動向を継続して追っていく必要がある。

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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