目次
1.2040年に向けて変わる介護事業のかたち
2027年度介護報酬改定の議論では、介護業界の未来を左右する4つの大きなテーマが示されている。その中でも最初に取り上げられているのが、「人口減少とサービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築」である。
日本はこれから2040年に向けて、高齢者人口の増加と生産年齢人口の減少が同時に進んでいく。特に85歳以上の人口が大きく増える一方で、介護を支える働き手は確実に減っていく。その影響は全国一律ではない。東京圏などの大都市では今後も高齢者が増え続けるが、地方では高齢者人口そのものが減少する地域も増えていく。
これまでの介護保険制度は全国一律のルールを前提としてきた。しかし今後は地域ごとの事情に合わせた制度運営が必要になるという考え方が強く打ち出されている。
特に地方の中山間地域では、利用者の減少と人材不足が同時に進んでいる。訪問介護では移動時間が長く、利用者の急なキャンセルによる収益減少も大きな問題となっている。こうした地域では、現在の制度のままでは事業所の維持が難しくなる可能性が高い。
そのため国は、「特定地域サービス」という新たな仕組みを検討している。管理者や専門職の配置基準を柔軟にし、地域の実情に応じた運営を認める方向で議論が進んでいる。また、訪問回数ごとの出来高払いだけでなく、月額定額の報酬を導入する案も検討されている。利用者数の変動に左右されにくい経営環境を整えることが狙いである。
介護事業者に求められるのは、自分たちの地域が今後どのような人口動態をたどるのかを正確に把握することである。人口が減る地域では効率的な運営や事業者同士の連携が重要になる。一方で都市部では、増え続ける需要に対応するため、ICTや介護テクノロジーを活用した効率化が求められる。これからは全国共通の成功モデルではなく、地域に合った経営戦略が必要な時代になる。
2.地域全体で高齢者を支える時代へ
2つ目の論点は「地域包括ケアシステムの深化」である。
介護保険制度は、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられることを目指してきた。しかし近年は独居高齢者や身寄りのない高齢者が急増し、新たな課題が生まれている。
現場では、ケアマネジャーや介護職員が本来の業務を超えて対応する場面が増えている。入院時の保証人探し、金銭管理の相談、行政手続きの支援、さらには亡くなった後の手続きまで求められることも少なくない。
こうした業務は「シャドウワーク」と呼ばれ、長年問題視されてきた。利用者を支えるために必要な支援ではあるが、制度上の評価がなく、職員の負担ばかりが増えていたのである。
今回の議論では、こうした問題を個人の善意に任せるのではなく、制度として対応していく方向が示されている。身寄りのない高齢者への支援や死後事務の支援を社会福祉事業として位置付け、地域全体で支える仕組みづくりが進められている。
また、成年後見制度の見直しや権利擁護支援の強化も進められている。市町村には相談支援の拠点整備が求められ、ケアマネジャーも新たな社会資源を活用しながら支援を行うことになる。
さらに、有料老人ホームのあり方も大きく変わろうとしている。住宅型有料老人ホームでは、一部で過剰なサービス利用や囲い込みが問題となってきた。そのため国は、一定のホームに登録制を導入し、ケアマネジャーやサービス事業者の独立性を確保する方向で検討を進めている。
今後の介護事業者には、介護サービスだけを提供する存在ではなく、地域の課題解決に関わる存在としての役割が期待されている。医療機関や行政、地域住民との連携を強化しながら、地域全体で高齢者を支える体制づくりが重要になる。
3.人材不足時代を生き抜くための経営改革
3つ目の論点は、人材確保と生産性向上である。
介護業界の最大の課題は人材不足である。国の推計では、2040年度までに約57万人の介護職員を追加で確保する必要があるとされている。しかし現実には、他産業との人材獲得競争は年々激しくなっている。
そのため政府は2027年度改定を待たず、2026年度に異例の期中改定を実施した。処遇改善加算を拡充し、介護職員だけでなく、ケアマネジャーや訪問看護職員なども対象に加えたのである。
さらに、生産性向上に取り組む事業所には追加的な支援も行われる。見守りセンサーやインカム、介護記録ソフトなどの活用により業務を効率化し、職員の負担軽減につなげることが求められている。
ここで重要なのは、テクノロジーは職員を減らすためではなく、職員を守るために導入するという考え方である。記録業務や情報共有にかかる時間を減らし、その分を利用者との関わりや職員の休息に充てることが目的なのである。
また、ケアマネジャーの資格更新制度の廃止も大きな話題となっている。更新研修にかかる負担が軽減されることで、ケアマネジャーの確保や定着につながることが期待されている。
小規模事業所にとっては、単独での対応に限界がある場合も多い。そのため、社会福祉連携推進法人などを活用した事業者同士の連携も重要になってくる。今後は、単独で頑張る時代から、地域で協力しながら生き残る時代へと変わっていく。
4.厳しくなる制度財政とこれからの介護経営
4つ目の論点は、制度の持続可能性である。
介護給付費は年々増加し、すでに14兆円規模に達している。処遇改善やサービス充実には財源が必要であり、そのままでは保険料や税負担の増加につながる。
そのため国は、給付の適正化と負担の見直しを進めようとしている。高所得者の利用者負担割合の見直しや、多床室の室料負担の導入などが議論されている。また、施設の食費についても2026年8月から見直しが予定されている。
一方で、事業者側にとって大きな変化となるのが報酬体系の簡素化である。現在の介護報酬は加算が非常に多く、制度が複雑になりすぎている。今後は利用実績の少ない加算の整理や、定着した加算の基本報酬への組み込みなどが検討されている。
さらに、サービスを提供したことへの評価から、利用者の状態改善や重度化防止といった成果を評価する方向へ移行が進んでいる。LIFEを活用した科学的介護も、その中心的な取り組みとなる。
介護事業者にとっては、単に加算を取ることではなく、利用者の状態改善という結果を出せる体制づくりが重要になる。今後の介護経営は、データを活用しながら質の高いケアを提供できるかどうかが大きな分かれ目になる。
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。
