目次
- 審議の出発点──2040年を見据えた制度再設計
- 財政制度分科会が突きつけた「利益率」という問題提起
- 同一建物減算の強化と「制度分離」の現実性
- 利用者負担の拡大と施設コストの自己負担化
- 2026年度診療報酬改定が介護に突きつけた警告
- 制度変化を前提とした経営の再設計
1.審議の出発点──2040年を見据えた制度再設計
2027年度介護報酬改定に向けた審議が、2026年4月27日の社会保障審議会介護給付費分科会において正式にスタートした。今回の改定が過去の改定と一線を画すのは、単なる報酬の見直しにとどまらず、2040年を明確に射程に収めた制度の抜本的な再設計を目指している点である。65歳以上の高齢者数がピークを迎え、介護と医療の複合ニーズを抱える85歳以上人口が急増するその時代に、現行の制度がそのまま機能し続けるとは、誰も考えていない。審議の枠組みとして提示された分野横断的テーマは、①人口減少・サービス需要の変化への対応、②地域包括ケアシステムの深化、③人材確保と生産性向上、そして、④制度の安定性・持続可能性を確保する報酬のあり方という4本柱である。これらは互いに深く絡み合っており、どれか一つを切り離して論じることはできない。
2.財政制度分科会が突きつけた「利益率」という問題提起
審議の方向性を大きく規定するのが、財務省・財政制度分科会による強力な介護給付費抑制圧力である。分科会の議論において、介護サービスは「利益率が高い産業」と位置づけられた。特に訪問介護や居宅介護支援については、他産業と比較しても高い収支差率が示され、「報酬の適正化が必要」との方向性が明確に打ち出されている。しかし、この評価は現場の実感とは大きく乖離している。慢性的な人材不足、離職の増加、低い賃金水準という課題を抱える現場に、「儲かっている」という感覚はほとんど存在しない。
この乖離の正体は、平均値の中に含まれる構造的な偏りにある。訪問介護・居宅介護支援の中でも特に収益性が高いのは、住宅型有料老人ホームなどに併設された事業所である。同一建物内でサービス提供が完結するため移動時間がほとんど発生せず、短時間で複数の利用者に対応できる。その結果、労働投入時間あたりの報酬効率が極めて高くなる。一方で、一般在宅を対象とする事業所は、利用者宅を一軒ずつ訪問する必要があり、移動時間と待機時間の負担は重い。人材不足の中で稼働効率は上がらず、収益性は低下する。同じ「訪問介護」であっても実態は全く異なるにもかかわらず、制度上は同一カテゴリとして扱われているこの構造が平均値を押し上げ、「全体として儲かっている」という誤解を生んでいるのである。
3.同一建物減算の強化と「制度分離」の現実性
この問題を踏まえ、2027年度改定ではサービス提供の実態に応じた報酬見直しが進む可能性が高い。特に焦点となるのが同一建物減算の強化である。現在の減算水準は実態に比して低いとされており、併設型事業所の高収益構造を是正するためには減算率の引き上げが避けられないとの見方が強まっている。さらに重要なのは、併設型と在宅型を分離して議論する方向性である。これまで一括りにされてきた訪問介護・居宅介護支援が、提供形態ごとに異なる報酬体系となる可能性がある。これは単なる減算強化ではなく、制度構造そのものの見直しを意味する。併設モデルに依存してきた事業者にとっては、収益前提が崩れる根本的な転換点となる。
4.利用者負担の拡大と施設コストの自己負担化
利用者負担の見直しも避けて通れないテーマである。制度の持続可能性を確保する観点から、2割負担の対象拡大が検討されており、対象は中間所得層まで広がる見込みである。この見直しは単純な利用控えよりも、むしろ現場の運用に深刻な影響を与える。利用者や家族への説明、負担割合の管理、請求業務の複雑化など、事務負担は確実に増加する。また、これまで無料だったケアマネジメントへの利用者負担導入も提言されており、居宅介護支援事業所の経営モデルへの影響は小さくない。
施設系サービスでは、老健および介護医療院の多床室における室料負担が大きな論点となっている。特養ではすでに室料が自己負担化されているが、老健等では一部にとどまっている。本来「在宅復帰施設」であるはずの老健が長期入所の常態化により生活施設として機能している実態を踏まえ、多床室の室料を基本サービス費から切り離し自己負担とする方向が強まっている。施設側は収入減、利用者側は負担増という構図は避けられず、特に中間所得層への影響が大きくなる。
5.2026年度診療報酬改定が介護に突きつけた警告
2027年度改定の布石として、2026年度診療報酬改定の内容を正確に読み解くことが不可欠である。今回の医療側の改定において最も衝撃的だったのは、AIやICTの活用が推奨にとどまらず、人員配置基準の緩和という経営的インセンティブに直接組み込まれたことである。見守りセンサー、音声入力システム、生成AIによる記録支援機器を組織全体で活用する病棟は、看護要員の配置基準を最大1割削減できる。事務作業補助者にRPAや生成AIを組み合わせれば、1人を1.3人分として算入できる特例も設けられた。これは「デジタル投資=人件費削減」という方程式の確立であり、2027年度改定では特別養護老人ホーム等においても同様の弾力化が進むことがほぼ確実な情勢となっている。
医療と介護の連携においても、デジタル化の圧力は容赦ない。新設された介護支援等連携指導料2は、入院早期から地域のケアマネジャーと積極的に情報を共有し退院に向けた協働を行う病院を評価するものである。また、介護保険施設と協力医療機関間のカンファレンスは、ICTを活用した情報共有体制が整っている場合、実施頻度が年3回から年1回へと大幅に緩和された。クラウドシステムを通じてシームレスに連携できるデジタル対応の介護施設・ケアマネジャーと、紙やファックスに依存するアナログな事業者との間では、病院から選ばれる連携パートナーとしての格差が既に生じ始めている。
6.制度変化を前提とした経営の再設計
2027年度介護報酬改定の審議スケジュールによれば、2026年夏までに主要論点の議論が行われ、12月には基本的な考え方がとりまとめられる。経営判断の猶予は1年を切っている。どの領域が圧縮され、どこに経営資源を集中すべきかを今すぐ見極めなければならない。現状維持こそが最大のリスクであり、変化を先取りした事業者だけが次代の激動の介護業界を生き抜くことができるのである。
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。
