2027年度からの施行を目指す「社会福祉法等の一部を改正する法律案」が2026年4月3日に国会に提出された。介護保険法を含む多岐にわたる法律を束ねたこの包括的な大改革は、単なるマイナーチェンジではない。法案が通過してから対応すればよいという甘い考えは通用しない。

目次

  1. ケアマネジャーの新研修制度と事業者の重い法的義務
  2. 特定地域サービスがもたらす地域間格差と戦略の転換
  3. 夜間対応型訪問介護の完全廃止と次なる地域展開
  4. 登録有料老人ホームにおける新たな利用者負担への対応
  5. 介護福祉士の特例措置延長と現場教育の再定義
  6. 電子資格確認の導入が現場に与える衝撃
  7. AIを駆使した情報戦とインナーブランディングの絶対的必要性

1.ケアマネジャーの新研修制度と事業者の重い法的義務

現在、現場で最も深刻な誤解を生んでいるのが、ケアマネジャーの資格更新制度の廃止に関する話題である。更新制がなくなることで法定研修の負担から解放されると安堵している声を聞くが、これは完全な事実誤認である。法案を正確に読み解けば、従来の更新の仕組みとしての研修は廃止されるものの、それに代わるものとして資質の保持及び向上を図るための新たな法定研修が創設され、都道府県知事が実施することが明記されている。決して研修がなくなるわけではない。さらに恐ろしいのはその強制力である。正当な理由なくこの新研修を受講しないケアマネジャーに対し、知事は受講を命令することができ、従わない場合は最長1年間の業務禁止処分を下すことができると規定されている。そして何より経営者が知るべきは、事業所の開設者に対して、雇用するケアマネジャーがこの新研修を受講する機会を確保するための措置を講ずることが義務付けられた点である。これを怠れば行政からの勧告対象となる。経営陣は個人の自己研鑽などと現場任せにするのではなく、業務時間内に確実に研修を受講できるシフト調整や学習支援の仕組みを直ちに構築しなければならない。

2.特定地域サービスがもたらす地域間格差と戦略の転換

過疎化が進む中山間地域や小規模市町村において創設される「特定地域サービス」についても、的確な経営判断が求められる。これは、人口減少地域において、全国一律の厳格な人員基準や設備基準を都道府県の条例によって特例的に緩和できる仕組みである。民間事業者の撤退が相次ぐ地域において、サービス供給体制を維持するための苦肉の策である。一見すると事業継続のハードルが下がるように思えるが、経営的な視点で見れば、地域ごとに異なるローカルルールへの対応を迫られることを意味する。隣接する自治体であっても、特定地域に指定されているか否かで必要となる人員配置が全く異なる事態が発生する。人員基準が緩和された環境下であっても、いかにして利用者の安全を守り、質の高いケアを維持するかが問われる。テクノロジーの活用や業務フローの抜本的な見直しなしに、ただ人員を減らすだけでは重大な事故を招きかねない。

3.夜間対応型訪問介護の完全廃止と次なる地域展開

在宅介護における夜の安心の要であった「夜間対応型訪問介護」が、制度として完全に廃止されることも法案に盛り込まれた。現在このサービスを提供している事業所は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護などのより包括的なサービスへの移行を余儀なくされる。これは単なる看板の掛け替えではなく、人員配置や夜間のオペレーション、さらには地域の医療機関との連携体制の再構築を伴う大事業である。現在サービスを利用している高齢者やその家族が、夜間の見守りがなくなるのではという強い不安を抱かないよう、移行に向けたロードマップを早期に策定し、丁寧な説明と信頼関係の維持に努めなければならない。

4.登録有料老人ホームにおける新たな利用者負担への対応

中重度の要介護者を受け入れる有料老人ホームに対して都道府県等への新たな登録制度が導入される。これに伴い、登録された施設の入居者に対して相談支援等を行う「登録施設介護支援」というサービスが新設されるが、法案にはこれに対する利用者負担を求めることが明記されている。これまで施設側が日常業務の一環として行ってきた支援が新たな制度枠組みに組み込まれ、実質的な経済的負担増となる可能性がある。長引く物価高騰に苦しむ入居者や家族に対し、この新たな費用の発生をどのように説明し、納得してもらうか。施設の入居率や顧客満足度に直結する極めてデリケートな問題として、現場の相談員やケアマネジャーへの徹底した情報共有と対応方針の策定が不可欠である。

5.介護福祉士の特例措置延長と現場教育の再定義

深刻な人材不足を背景に、介護福祉士の養成施設卒業者が国家試験に合格しなくても一定期間は資格を有することができる経過措置が、2031年度の卒業者まで長期延長されることとなった。あわせて准介護福祉士という制度は廃止される。これにより、試験に合格していなくても国家資格を名乗る職員が今後も現場に増え続けることになる。資格取得のハードルを下げることでなり手を確保するという国の思惑は理解できるが、専門性の担保は現場の教育力に丸投げされたに等しい。経営者は、資格の有無だけで職員のスキルを評価するのではなく、法人独自の明確なキャリアパスと、実践的な技術を指導できる強固な教育体制を構築しなければ、サービスの質を維持することはできない。

6.電子資格確認の導入が現場に与える衝撃

医療機関で先行しているマイナンバーカード等を利用した電子資格確認が、いよいよ介護保険分野にも導入される。受付事務の効率化が期待される一方で、認知機能が低下した高齢者が自身のカードや暗証番号を適切に管理できるのかという根本的な懸念が拭えない。訪問介護の現場や施設の窓口において、カードの紛失トラブルや機器の通信不良など、新たな業務負担が発生することは想像に難くない。デジタル化の恩恵を享受するためには、システムの導入にとどまらず、トラブル発生時のマニュアル整備や、利用者と家族への丁寧な事前周知といった泥臭いアナログの準備こそが明暗を分けるのである。

7.AIを駆使した情報戦とインナーブランディングの絶対的必要性

これほどまでに多岐にわたり、かつ複雑に絡み合う法改正の全容を、経営陣が人力だけで読み込み整理することはもはや不可能である。だからこそ、AIの積極的な活用を強く推奨している。難解な法律の条文や分厚い関連資料をAIに読み込ませ、この条文が当法人の事業に与える影響を抽出してほしいと指示すれば、瞬時に的確な分析結果を得ることができる。経営陣は情報収集そのものに時間をかけるのではなく、AIが整理した論点を基にどう行動するかという戦略的決断に時間を割くべきである。2027年度という歴史的な大改革の波を乗り越え、地域社会から選ばれ続ける施設となるために、経営者は今こそAIという最新のテクノロジーを手に取り、法人全体を巻き込んだ徹底的な事前対策に乗り出すべきである。

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問

昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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